第839話:ジークとレノア
「アドルフん家の近くなんだ?」
「ロドルフ、な」
『アトラスの冒険者』の今月の新人である、クリークさんの息子さんに会いに、皆で港の方へ行く。
同行者はプリンスルキウスクリークさんマックスさんアドルフの他にイシュトバーンさんだ。
クリークさん一人が難しそうな顔。
「あの辺のお家は広いもんねえ」
イシュトバーンさんが言う。
「『アトラスの冒険者』は魔法陣が必要だからな。広い庭は必須だろ」
「庭に魔法陣たくさん設置できない場合はどうなるんだろうな?」
「最初からそんなやつ選ばねえんだろ」
「でもたくさんクエストこなした末に、設置するスペースがなくなっちゃうこともあるだろうし」
マジでどうなるんだろ?
亜空間中の小さな実空間をあてがって、魔法陣を設置するとかかな?
「ここだ」
うん、素敵なお家だ。
ドーラ独立前後に帝国に帰った人達がいるって話だ。
元々そーゆー人達の使ってた空き家だったのかな?
クリークさんが声をかける前に先制攻撃!
「こんにちはー。美少女精霊使いとその他五名がやって来ましたよ」
「おいこら」
あ、奥さん出てきた。
「あらまあ、殿下まで。いらっしゃいませ」
「ジークハルトはいるか?」
「はい。ジーク、お父様とお客様ですよ」
「へーい」
ん? クリークさんの息子とは思えない返事だな。
あ、出てきた。
逞しいいかにも軍人タイプのクリークさんとは似ても似つかない、中肉中背平々凡々なモブキャラだ。
これじゃ覚えてなくてもムリはない。
「ジークハルトだヨゥ」
「よし、合格!」
「「「「「「えっ?」」」」」」
驚く一同。
いや、埋もれちゃうよーな個性の子ではあるけど、語尾で自らを飾ろうっていう心意気は買えるじゃないか。
あたしは見える努力は好き。
応援してやってもいいと思えるから。
「『アトラスの冒険者』に選ばれたって聞いた。おめでとう!」
「おめでたいのかヨゥ?」
「なりたくてなれない人多いんだぞ? ところでジーク君は『アトラスの冒険者』について、何を知ってるかな?」
「石板に触れた時に流れたモノローグ、オンリーだヨゥ」
「ごく基本的なことは知ってるわけね。まだ転送魔法陣から飛んでないんでしょ? どうして? 興味がないわけじゃないと思うけど」
「強そうな魔物、貧弱なオレ、冒険者なんてムリだヨゥ」
「自分のことがわかってるじゃないか。ますますいいねえ」
たまりかねたようにクリークさんが口を出す。
「いや、本当にムリだろう。剣術や体術を教えたこともあったが、才能がまるでないとしか思えない」
「才能豊かではないけど、まるでないことはないなー。ちょっと触ってみてくれる?」
「これは何だヨゥ?」
「ギルドカード。『アトラスの冒険者』になってしばらくするともらえるアイテムだよ。……ほら、あんたは魔法力や最大マジックポイントは優れてる。これはあたしがレベル一の時よりも大きい値だよ」
「本当かヨゥ?」
一方で攻撃力、防御力、最大ヒットポイントは低い。
おそらく一般人まで含めた平均を下回るだろう。
あれ、でも運は高いんじゃね?
「クリークさんの言う通り、そしてあんたもわかってる通り、ガンガン魔物倒して成り上がるタイプの冒険者ってのは無謀だねえ。でもあんたは固有能力複数持ちなんだ。これはかなり珍しい。普通の人より優れている点だよ」
「固有能力?」
「レベルさえ上がれば魔法を使えるよ」
「本当かヨゥ! 魔法かヨゥ!」
あれ、魔法を使えるようになるってのはツボのようだ。
ちょっと持ち上げてやる気出させておかないとな。
ただ固有能力複数持ちが割と珍しいというのは事実。
ノーマル人で明らかに複数持ちなのは、あたし以外だとセリカ、リリー、シバさん、エルマの四人しか会ったことがない。
「『水魔法』の固有能力だよ。水魔法を使える人もちょっと珍しい」
「イカすのかヨゥ!」
「うーん? 補助系に偏ってるから、これ使えれば魔物にダメージ与えられるってものでもないんだ」
「どうすりゃいいんだヨゥ!」
「前向きになって来たね? 魔法陣の転送先で攻撃魔法を買えるから、手に入れて戦う術を身に付けるってのが一つの考え方」
これだと最初のクエストはこなせるだろうけど、魔物が複数になったとたん厳しくなるな。
ギルドまで来るの時間かかりそう。
やはり……。
「前衛の仲間が欲しいね」
「理屈はわかるヨゥ。心当たりがないヨゥ」
「マックスさんの娘さんなんかどうだろ?」
「「「「「「えっ?」」」」」」
再び驚く一同。
いやもう見るからに生きのいい子だったけど。
生きがいいってあたしに使う形容語だったか?
ジーク君とも相性良さそうだし。
「呼んできます!」
マックスさんが隣の家へ駆け込む。
さては冒険者いいな羨ましい、みたいな話になってたか?
あ、木刀持って飛び出してきたぞ?
「マックスの娘、レノアです。よろしくっ!」
「いい面構えだねえ。その木刀で撃ちかかって来てみ?」
「せりゃあああ!」
やるね、一瞬の躊躇もないところが実にいい。
するっと後ろへ回ってえいやと持ち上げる。
「あああああ? 降参ですっ!」
プリンスとアドルフとジーク君はポカーンとしてるが、イシュトバーンさんとクリークさんとマックスさんはすげえ面白そうな顔してる。
エンターテインメントとしてどうでした?
「うん、あんたも合格。冒険者やってみる気はある?」
「ありますっ! やりますっ!」
大きな目をキラキラさせて即答するレノア。
マックスさんの許可?
いらんだろ、諦めたような顔してるし。
必ずしも賛成じゃないんだろうけど、娘には甘いと見た。
「リーダーはジーク君だから、言うことはよく聞くように。いいね?」
「わかりましたっ!」
クリークさんが心配そうに聞いてくる。
「大丈夫だろうか?」
「平気だよ。現役最年長の『アトラスの冒険者』が面倒みてくれることになってるんだ」
ちとレノアがかかり気味なのが不安材料だが、ギルドまでは行けるだろ。
マウ爺に指導してもらえば冒険者らしく格好つくはず。
ギルドに行くまではあたしが注意しててやんよ。
「じゃ、最初の魔法陣踏んでみて。あたしも行くから」
「はい!」「オーケーだヨゥ」
「おい、オレも連れていけ」
「もー。面白くはならないぞ?」
プリンス達に別れを告げ、イシュトバーンさんを連れてチュートリアルルームへ。




