第838話:西域の未来も明るい
「『ウォームプレート』は、訪れた貿易商に大層評判が良かったのだ。来月も頼んでいいか?」
「生産力に限界があるから、三〇〇枚を上限に可能な限りってことで発注しとくね。一応、来月の一〇日期限でいいかな?」
「うむ、お願いしよう」
これはこれでよし。
貿易商来てたのか。
一度会ってみたいけど、相手も海の上じゃ連絡取るのも難しいだろうしなー。
「カラーズ緑の民が、こんな紙を作ってるんだ」
サンプルとしてもらってきた葉入り紙、柔らか紙、色付きの紙を見せる。
「特にこの葉入り紙なんだけど」
「うん、葉脈が美しいな」
「これ月一〇〇枚くらいが生産限界なんだって。帝国の貴族に葉っぱを紋章に組み入れてる家があるって聞いたんだけど、そっちに売り込めない?」
「皇子殿下に一番都合のいい家一家だけに、特別に紹介してやればいいぜ」
マックスさんが言う。
「であれば辺境侯爵殿ですか?」
「うむ、ヒイラギが有名だな」
帝国一の大貴族で、紋章にヒイラギの葉が入ってるんだそーな。
「便箋サイズで、ヒイラギの葉を入れてくれ。納期一ヶ月で一〇〇枚注文していいかな?」
「了解でーす。一万ゴールドになるけどいい?」
「うむ、頼む」
一枚一〇ゴールド以上なら採算取れるらしいから、大分儲けさせてやることができる。
大貴族に納めるなら木の箱を作ってもらうとしよう。
「で、もう一つ。識字率向上のための『文字を覚えるための札取りゲーム』だよ」
「ほう、絵がわかればそれに対応した字も覚えられる……」
「画期的ですな」
ハッハッハッ、皆食いついてくるじゃないか。
オルムスさんが言う。
「これ、ドーラでも売るんだろう?」
「もちろん。先行販売してたカラーズでは既に完売、今日明日にでもレイノスで発売だよ。もう追加の生産開始してるから、売り切れても一〇日もかからず店に並べられると思う」
「ほう、さすがだね」
「今月はドーラ分で手一杯だけど、来月は輸出分出せると思うから、貿易商の評判が良かったら教えてよ。いくつかサンプル置いてくね」
「これいくらなんだい?」
「レイノスでの小売価格八〇ゴールドだなー。まとめて買ってくれるなら安くできるかもだから、間に入ってる商人さんに聞いとくね」
「いや、その商人を呼ぼう。誰だい?」
「レイノス東門外に居を構えてるヨハン・フィルフョーさんって人」
オルムスさんが頷く。
ヨハンさんのことは知ってるようだ。
「ああ、彼か。ありがとう。直接話をしてみるよ」
「よーし、あたしの方の話はお終いっ!」
「では、私の方から」
パラキアスさんだ。
楽しみ。
「ユーラシアから提案のあったものだが、帝国がドーラを捨てたのだということを周知させれば植民地の離反は防げるのではないか、という内容の上申書を大使から提出してもらった。さらにドーラ政府から移民への待遇不備に関する抗議書を出した」
あ、抗議はドーラ政府から出したのか。
放っとくと甘く見られるからかな?
「今のところこれらについて、帝国政府から公式の返答はない。しかし帝都メルエルでは、特に移民への非人道的処遇について、市民の間で非難の声が高くなっている」
イシュトバーンさんと顔を見合わせる。
パラキアスさんが情報流して煽ったんだろうなー。
すげえ御機嫌だし。
「質問はあるかな?」
「帝国軍の動きはどうだろ?」
「今のところない」
ハッキリした答えだ。
マークさせてるっぽいな。
帝国政権及び第二皇子は、華々しい軍事的勝利を支持率に結びつけようとしていると考えられている。
でも動きがないなら、他の植民地に対してすぐさま弾圧に走ることはなさそう。
やはり情報入手ルートであるメキスさんとバアルを断たれて、動きが鈍くなっている?
そう考えるのは早計か?
プリンスが呟く。
「ドミティウス兄上の打つ手が遅く感じるのは事実だが……」
何か考えがあるのか単純に遅れてるのか、あるいは見えないところで動いているのかは判断できない。
バアルの見解だと、自らの評判を落とすようなマネはしないんじゃないかってことだった。
でも実際はわからんしな?
対応が遅れてるように見せて、得することなんかあるだろうか?
「最後に僕の方から」
オルムスさんだ。
「デス殿とバルバロスの方から、西域の特産品ないし特産品候補のリストが挙がってきている。これだ」
どれどれ、興味あるな。
うむ、やはりほぼ農産品と鉱産物だね。
茶、サトウキビか。
ザバンの産物だな。
あ、西域では結構綿花を栽培しているみたいだな。
温暖で乾燥気味の気候のドーラは綿花の栽培には向いていると思うから、大規模に栽培して生産コストを下げられれば有力な輸出品になるかも。
あとはオレンジ、ベニバナ、ビワ、アカネ、ザクロ、カラムシ、アブラナ、アサ、ウルシ、クワ、アイその他もろもろ。
結構知らんものがあるじゃないか。
鉱産物は砂金と銅、鉄、硫黄、石炭などなど。
変わったところだと、特産品じゃないけど温泉なんてものがある。
セイリュウザリガニやドーラオオガエルは養殖技術が確立されてるって。
やるなあ。
「イシュトバーンさん、どう思う?」
「輸出で儲けようと考えるなら、消耗品がベストだな。手をかけなきゃいけねえ」
「オルムスさん。西域ガイドマップを発行するなら、こういうのも載せてよ。新しい利用法を思いつく人がいるかもしれない」
「うむ」
西域の未来も明るいんじゃない?
お酒、油、染料、繊維なんかの製品にできれば腐らないしな。
「ちなみに精霊使いは今、何考えてるんだ?」
「ザリガニとカエルの味」
笑うな。
ザリガニは食べたことがないのだ。
「さっき話してたんだけどさ。クリークさんの息子が『アトラスの冒険者』になったんだよ」
「ほう」
パラキアスさん、嬉しそうですね。
クリークさんの息子がドーラ人だけで占められている『アトラスの冒険者』として独り立ちするならば、クリークさんにとっても移民達にとってもいい影響となるだろうから。
でもなあ、かなーり不安な新人なんだよなあ。
「新人さんの様子見たいな。クリークさん借りるね」
「いや、予達も行こうではないか。なあマックス、ロドルフ」
あれ、プリンスも来るようだ。
面白そうだからだな。
「ハハハ、行ってらっしゃい」
上機嫌のパラキアスさんオルムスさんと別れ、外へ。




