第837話:アポなしですぐ通される行政府
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
ヒルデちゃんとラルフ君を緑の民の村に、ミサイルを赤眼族の村に送ってから、レイノスへやって来た。
まあイシュトバーンさん家だ。
「これは精霊使い殿。いかがされました?」
「今から行政府へ遊びに行くんだよ」
「結構なことですな。旦那様も行きたがると思いますので、連れていってもらえませんか?」
「え?」
えらくナチュラルに頼まれちゃったな。
べつに構わんけれども。
あ、イシュトバーンさん来た。
「何なの? 暇してるの?」
「まあな。あんたの周りには面白いことが起きると相場が決まってる」
「もー運命の女神みたいな扱いだよ」
「アルティメットトラブルメーカーの扱いだぜ?」
アハハと笑い合い出発。
今日はお付きの女性はいないようだ。
「行政府に何の用があるんだ?」
「この前の葉っぱ漉き入れた紙とか、あったかパワーカード二〇〇枚は輸出用に用意できそうとか、札取りゲームの紹介とか。報告したいことが細々とある感じかな。どーしてもって用はないんだけど」
「じゃあアポ取ってねえのか?」
「取ってない」
「まああんたの用を優先させるだろ」
えっちな目を向けてくるイシュトバーンさん。
あたしが偉そうだって?
あたしが偉いのは世の常識だけれども。
「パラキアスさんがさ、あたしが行くのを楽しみに待ってるってことだったんだ。面白いことでもあるのかなーと思って」
「ははあ? 誰に聞いたんだ?」
「聖火教のミスティさん。昨日こんなことがあってさ」
マウ爺の奇妙なクエストがどうのこうの。
崖崩れに巻き込まれた聖火教徒達の負力が何たらかんたら。
何だ? イシュトバーンさんが嫌らしそーな顔になってきたぞ?
いや、元々嫌らしい顔だけれども。
「あんたのところには愉快な話が集まるな」
「不謹慎だなー。あんまり愉快な話ではなかったわ」
「浄化されて昇天したんだろ? いいことじゃねえか」
「だといいなー」
「問題はパラキアスだ。やつが楽しそうなら、何か策謀に手ごたえがあったんだろうぜ」
「やっぱそー思う?」
貿易関係で話が進んだのなら、むしろプリンスやオルムスさんの分野だろうしな。
でも何で策謀であたしを待つのよ?
美少女精霊使いとは無縁じゃない?
「美少女と差し向かいで話したいからかな?」
「そりゃあ同じくらい腹の黒いやつと話したいからだぜ」
「失敬だな」
「よく考えてみな。失敬なのはパラキアスだぜ?」
責任転嫁じゃない?
まーいーや、あたしは心が広いから。
「とうちゃーく! 精霊使いユーラシアが遊びに来ましたよ。パラキアスさんかオルムスさんかプリンスルキウスにそう伝えてくれる?」
「はい、こちらへどうぞ」
行政府受付で言ったらすぐ通してくれるじゃないか。
あれ、皆暇なのかな?
たまたまタイミングが良かったか?
「アポなしですぐ通されるのか。大物ぶりを見せつけるじゃねえか」
「本当にねえ。自分でビックリだよ」
あ、大使室の方か。
「こんにちはー」
「やあ、いらっしゃい」
プリンスがにこやかに迎えてくれる。
他クリークさん、マックスさん、アドルフ、いつものメンバーだな。
クリークさんとマックスさんがしげしげと見てくる。
「……簡単にレベルを上げられるのは本当なんだな」
「面白いの。あたしレベル一〇〇超えちゃったんだ」
「「「「「えっ?」」」」」
意表を突くのは楽しいなあ。
「レベルの上限が一五〇になる固有能力が発現したんだ。一度レベルを下げたからみたい」
「あんたはつくづくデタラメだな」
「もうちょっと頭よさそーなボキャブラリーパワーを見せてよ」
部屋の四人が四人とも、デタラメと言わなくてよかったって顔してる。
わかるからな? それ。
「で、あんたは今後もレベル上げに勤しむのか?」
「いや、レベルには特に困ってないから」
時々魔境に遊びに行ってれば自然に上がりそうではある。
でも今後はウィッカーマンを餌食にする機会は減るからどーだろうな?
「あたしのことは置いといて。クリークさんの息子さんが『アトラスの冒険者』になったって昨日聞いたんだけど」
「もう話が行ってるのか」
「うん、クリークさんから見て息子さんはどうなの? 正直なところを教えて欲しい」
皆興味ありありですね。
しかしクリークさんの表情は苦々しげだ。
「いや、どういうことなのか……」
「『アトラスの冒険者』は固有能力持ちを選抜するんだよ。次の新人は移民の中から選ぶとは聞いてたけど、クリークさんの息子さんってのはあたしも予想外だった」
「ジークハルトが選出された理由がわからない」
「ジーク君は『水魔法』と『能動』の二つの能力持ちだから選ばれたみたい」
「ジークハルトは固有能力持ちだったのか」
「複数の固有能力持ちなんて素晴らしいじゃないか」
「結構なことじゃねえか。問題あるのか?」
クリークさんとあたしの浮かぬ表情を理解できなさそうな面々。
「うーん、あたし移民到着の日に見てるはずなんだけど、覚えてないんだ。弟さんの方は覚えてるのに」
「どういうことだい?」
プリンスの質問に答える。
「できる子だったら忘れないよ。でもまるで印象に残ってないってことは……」
「親の欲目があっても優れているとは言いがたい」
やっぱなー。
親のクリークさんがそう言っちゃうくらいかー。
「でも固有能力持ちなんだろ?」
「固有能力持ちの方が冒険者にとって有利なのは確かだよ。でも優秀なのかそうでないかには関係ないもん。固有能力多数持ちでかつ優秀なあたしが言うのは何だけど」
「放っときゃいいじゃねえか。あんたが関わろうとするのは何故だ?」
「固有能力二つ持ちって聞くと、すげえ有望株に思えるじゃん? 脱落させると、バエちゃんのボーナスが減額されちゃうんだって」
「ハハッ、世話焼きだな」
イシュトバーンさんが笑う。
まあ笑い事ではあるけど。
足音がする。
来たか?
「大使殿下、失礼いたします。やあ、遅れて悪かったね」
「あたしは勝手に遊びに来ただけだから」
オルムスさんとパラキアスさんだ。
機嫌よさそうですね?
「ユーラシア君の方は、何か話はあるかい?」
「貿易関係でいくつか。プリンスにレポート書いてもらってた温かくなるパワーカードは、今月の一〇日までに二〇〇枚完成しまーす」
「全部貿易に回せるんだな?」
「うん」
プリンスが笑顔で言う。




