第833話:あたしは心が清らかだから大丈夫
――――――――――一五八日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「やあユーラシアさん。今日も朝からチャーミングだね」
「おっはよー、ポロックさん」
今日は朝からギルドだ。
赤眼族の子ミサイル及びラルフ君ヒルデちゃんを連れて魔境に行くので、ダンと待ち合わせをしている。
「チュートリアルルームから連絡があったんだよ。次の新人にユーラシアさんが懸念を示していると」
「懸念か。いや、懸念って言うほどでもないかもしれないんだけど。次の子は移民としてドーラにやって来た、元帝国軍少将の息子さんなんだ。固有能力は『水魔法』と『能動』の二つ」
「ほう、有望だね。懸念とは、やはり帝国が関わるから?」
ああ、普通はそう思うだろうな。
「出自はドーラに馴染んでくれれば大丈夫そう。でも新人の子自体の能力がね」
「えっ? 固有能力複数持ちなんだろう?」
「あたしその子に会ってるはずなんだけど、全然印象がないんだ」
弟さんの方やマックスさんの娘さんは覚えてるのにな。
気配を薄める固有能力持ちってのならともかく、固有能力複数持ちなのにあたしが覚えてないってどーゆーことだ。
今まで会った『アトラスの冒険者』で、モブな人なんて一人もいなかったぞ?
「面白そうな話してるじゃねえか」
不意に声がかかる。
まあこういうところに首突っ込んでくるのは……。
「ダン。おっはよー」
「御主人!」
「よーし、いい子だね」
ヴィルが飛びついてくる。
ダンに遊んでもらってたか。
よしよし。
「印象がないというのは?」
「凡庸な子なんじゃないかと思うんだ。できるやつオーラが出てないから、無意識の内に視界から排除しちゃうってゆーか」
「ハハッ、言ってることがひでえな」
「固有能力二つ持ちって言っても、『水魔法』と『能動』じゃ戦闘に強いってわけでもないし。初期のステータス値が並み以下だったら、ギルドまで来られなくて脱落しちゃうかもしれない」
『水魔法』は補助魔法は豊富らしいが、攻撃魔法はレベルが高くなってからじゃないと覚えないということなのだ。
『能動』のスタン無効も有用ではあるけど強くはない。
「しかし、新人には先輩冒険者のサポートが入るようになったんだろう?」
「ハッキリ言っちゃえよ」
「何を?」
「つまんねえやつだと手伝う気が起きない、ってことなんだろ?」
「ダンと同じこと考えてるのは面白くないね」
ポロックさんとダンが苦笑する。
キャラの立ってない子はなあ。
こっちもテンションが上がらないとゆーか。
『地図の石板』が配給された日にチュートリアルルームに来ないのも、じわーんと不安要素だ。
真面目でもなく、やる気もないんだったらどうにもなんないぞ?
「今日の午後、チラッと件の新人を見てこようかと思って」
「よろしくお願いしますよ」
「働き者だな。さて、魔境行くか?」
「あ、ちょっと待って。買い取り屋さん行ってくる」
ギルド内部へ。
「おお、ユーさんじゃねえか」
「あれ? ゼンさんいらっしゃい」
「『遊歩』三枚、今納品されましたよ」
「ラッキー! 買ってくよ」
六〇〇〇ゴールドを支払う。
何、ダン。
ゼンさんはパワーカード工房で働いてる人だよ。
エルマの同僚。
「飛ぶパワーカードか。三枚もどうすんだ?」
「昨日ミスティさんに手持ちのやつ売ったから、一枚はあたしのやつ。二枚はすぐ売れるようにストックだよ。高レベルの人は割と『遊歩』を欲しがるんだよね」
頷くダン。
心当たりがあるからだろう。
「じゃねー。アルアさんによろしく」
「おう。また工房にも寄ってくれよ」
「毎度ありがとうございます」
さらに買い取り屋さんでアイテムを処分して、転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「どお?」
「おおお、見るからに業物じゃねえか! こりゃすげえ!」
ハハッ、あたしん家でバアルのお宝の剣を見せたら、ダン大喜び。
「気に入ったならあげるよ」
「いいのか?」
「いいよ。ソル君にはこっちの炎の魔法剣の方がいいかなと思ったんだ」
パーティーメンバーのセリカが雷と氷の魔法使いなので、炎の攻め手が弱そうということもある。
もっともセリカは火魔法のスクロールを買って習得してはいるんだろうけど。
「ほう、これもいいな」
「素晴らしいであろう!」
「さすが大悪魔の宝物だけのことはあるぜ」
「ハッハッハッ、吾を崇めるがよい!」
バアル上機嫌だなー。
とゆーか、悪魔って思ったよりも付き合うの簡単じゃない?
基本的にヴィルもバアルも、いい気分にさせときゃオーケーだしな?
「これは片刃剣か? うおおおおお?」
「それねえ、鞘から抜くと人を斬りたくなっちゃう妖刀だって。ぺい!」
「痛て!」
ダンの手を打ち据えて刀を取り返す。
「とんでもないもんもあるじゃねえか」
「宝物には間違いないである」
「ヤバいアイテムがいくつかあるんだ。あんまり触んないでね」
「お、おう、わかったぜ。というか、あんたは触っても大丈夫なのかよ?」
「あたしは心が清らかだから大丈夫」
「ええ?」
何だよその目は。
尊敬の成分が三〇%くらいしか入ってないだろ。
「で、連れていきたいやつってのは誰だ?」
「あたしが今請けてる石板クエストの転送先の子でさ」
「赤眼族か?」
「うん。クソガキだけど、魔境に連れてけって言うから」
「ほお、魔境と知ってか? 肝据わってるじゃねえか」
「誇り高き戦士なんだってよ」
アハハと笑い合う。
でも実際槍の突きは、レベル一だろうになかなかだったぞ?
「赤眼族の集落が火事に遭ってさ。食料が焼けちゃって食べるものないんだって。お肉を狩って押しつけてきたんだけど、野菜だって必要じゃん?」
「だからクレソンか」
「とにかく春蒔きの作物が収穫できるようになるまで、どーにかして食い繋がないといけないからね。魔境のクレソンは冬でも増えるんだ。食べるものの足しにはなるから、あっちこっちに植えて来てるの」
「移民対策にも使ってるってことだな?」
「そゆこと」
ダンは理解が早いね。
まー葉っぱだけじゃ大してお腹は膨れないんだけどさ。
「あとラルフ君とその嫁を連れてく」
「はん?」
一瞬面食らったような表情を見せたが、あたしがニヤニヤしているのに気付いたらしい。
「どうやら今日の面白ポイントだな?」
「うん。楽しみにしててよ」
「了解だ」
うちの子達を残し、ダンとともに赤眼族の集落へ。




