第832話:正直者だから
「サイナスさん、こんばんはー」
毎晩恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「今日はねえ、夜お肉の日だったんだ」
『オレのイメージでは、大体君はいつも肉を食べている』
「実際には魚メインの日もあるの。野菜も必ず食べてるし」
『恵まれた食生活だね』
うちの食事情はさておき。
「次の『アトラスの冒険者』、移民の中から選定進めてるって言ってたじゃん?」
『言ってたな。方針変更かい?』
「ではなくて。移民は移民なんだけど、帝国軍少将の息子さんだった」
『ははあ? 想定外だな』
想定外も想定外だわ。
移民って言われて、誰がクリークさんの息子だと思うのか。
『でも少将は有能な人だから誘ったって言ってたじゃないか。その薫陶を受けて成長している息子さんなんだろう?』
「クリークさんは有能だけど、息子のことは知らんもん」
子供がボンクラなんてケースは世の中にいくらでもあるもんな。
「もっとよろしくないことに、あたしその子に会ってるはずなんだけど、全然覚えてないんだよね。あたしモブは覚えられないからさあ」
『新人が取るに足らない存在だと?』
「一応、二つの固有能力持ちらしいんだけど」
『えっ? すごいじゃないか』
「いや、固有能力はあんまり関係ないんだって。あたしだって仮に固有能力一つも持たなかったとしても、可憐で美しくて大人しやかでしょ?」
『果敢でずうずうしくて賑やかだけれども』
「こらっ、最後しか褒めてないじゃないか!」
『最初も褒めてるつもりなんだが』
『ずうずうしい』も嫌いな言葉じゃないけどね。
『しかし仮に今度の新人が使いものにならなくたって、ユーラシアには全く関係なくないか?』
「そんなことあるか。あたしの可愛い後輩で、ともにこれからのドーラを作っていく仲間で、都合よくあたしの言うことを聞いてくれる下僕だぞ? 大事に決まってるだろーが」
『途中まで格好いいセリフだったのに、惜しかったね』
「根が正直者だからなー。つい本音が漏れてしまう」
アハハ。
まー大事に決まってるってのは本当。
「『アトラスの冒険者』って、固有能力と道徳心で選んでるっぽいんだよね。他の要素をあまり考えないで。固有能力二つ持ちが脱落しちゃったりすると、あたしが仲良くしてる係員のボーナスがなくなりそうなんだよ」
『ふうん、だから協力するのか。ユーラシアは人がいいな』
「あたしの人格が最高なのは、生まれ落ちてこの方ずっとだけれども」
『本当にずうずうしい』
アハハと笑い合う。
今日も最後に調子よく掛け合いができた。
気分よく眠れそう。
『あれはどうだったんだ? 聖火教大祭司を連れて、崖崩れの犠牲者の霊を慰めるとかいう』
「行った行った。ミスティさんともう一人お供のハイプリースト連れて。ちょっとしたイベントがあったんだよ。さあ、何が起きたでしょうか?」
『えっ? じゃあそのお供のハイプリーストが魔物に食いつかれて泣きそうになってた?』
「あれ? サイナスさんの答えの方が面白いな」
クイズとして失敗だったわ。
「霊を浄化させた途端、崖崩れが再発しちゃったんだ」
『危なかったんじゃないか?』
「うーん、経験を積んだ冒険者はさ。異常なことが起きそうって気配を何となく感知できるから、大して危なくはないんだ」
『君まだ冒険者になって五ヶ月なんだろう?』
「大ベテランだね」
犠牲者達の思いが力となって、崩れないように支えていたんだろうということを話す。
『ふうん、不思議なことがあるんだな』
「マジで人間の思いのパワーってすごい。あたしも勉強になったよ」
『君が殊勝だと薄気味悪い』
「まことに失敬だな」
『何かこう、首の後ろ辺りがゾワっとする』
「畳み掛けるなあ」
まあ地味に学ぶよりもやったこと褒められる方が、あたしには似合うかもな?
行動で示すのだ。
『崖崩れクエストの件は終わりなのかい?』
「一応は。ただ読めない碑文があるんだよ。赤眼族のじゃないかっていう説があるんだけど」
『君の赤眼族クエストと関わりが出てくるかもってことか』
「でもあんまり根拠がないとゆーか。明日、魔境でクレソン取ってくる」
『話が飛んだな。赤眼族のクソガキ連れって言ってたか?』
「そうそう。あーんどラルフ君とヒルデちゃんも一緒」
『え? どういうことだ?』
わかるまい。
「ヒルデちゃん、身体強くないっぽいんだよね」
『ああ。色白いし、見るからに虚弱な感じはした』
「デートもあんまり遠くへ行けないらしいんだよ。ラルフ君のラブい話を聞けないのはまことにつまらんので、レベリングすることにしたんだ」
『待て待て待て。弱い子を魔境に連れていってどうする』
「だからだよ」
あたしの見たところ、どこか体に悪いところがある、とゆーわけではなさそう。
だったらステータスパラメーターが上がれば大丈夫なんじゃないかホニャララ。
「……とゆー理屈で。魔境レベリングは効率がいいでしょ? 一番短時間で目的達成できるから」
『まあ……君の場合はそうなのか』
「そーなんですよ、サイナスさん」
ヒルデちゃんは虚弱かもしれないが、性格は素直だしやる気もある。
将来族長としての責務を全うするにも、ある程度のレベルはあったっていいだろうしな。
『でも疲れちゃうんじゃないか?』
「ラルフ君がお姫様抱っこしていくから大丈夫だよ」
『えっ? 油断し過ぎだろう。高レベル者の両手が塞がってるのは危険だ』
「サポートにもう一人高レベル冒険者を連れてくんだって。『精霊使いユーラシアのサーガ』の執筆依頼請けてたやつで、ラブい話が大好きなの」
で、しかも情報屋だから、いっぺんにこの話は広まるはずニヤニヤ。
「ラルフ君がお姫様抱っこしながら魔境を闊歩したってのは、ギルドの伝説になるなー」
『トラップが用意周到過ぎてえぐい』
再びアハハと笑い合う。
「こっちは以上でーす。カラーズは?」
『輸送隊が進発している。アレクも出だからいないぞ』
「了解。可愛い弟分がいないと寂しいな」
例の海水の転移吸入装置の試験をしといて欲しかったんだが。
まあ皆忙しくて、どうせ製塩は今取りかかれないだろうからいつでもいいや。
「じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
明日はクソガキとラルフ君の伝説。




