第831話:次の新人はアカン子の可能性
「う~まく~な~れる~りゆうをし~いった~た~れを~つ~けて~す~すめ~」
「バエちゃん好調だね」
魔境で一稼ぎしてから、昨日の約束通り、チュートリアルルームに御飯を食べにきた。
最近ここではかれえが多かったので、焼き肉は久しぶりだな。
予定よりちょっと遅れたけど、シスターの絵ができ上がったので渡してある。
「どおしたって~けせないにおい~とまらないくちも~おにくの~ためにつよく~な~れるなら~」
「バエちゃん絶好調だね」
今日のバエちゃんはえらくテンション高いな?
さては……。
「ボーナスが出たんだね?」
「御名答! ユーちゃん、さすが!」
ここ何ヶ月も実質脱落者が出ていないからということらしい。
「よかったねえ」
「ユーちゃんのおかげよ」
「ハッハッハッ、その通りだ! あたしを崇めるがよい!」
「崇めるぬ!」
「あははははは!」
気分がいいなあ。
「先輩が新人の面倒をみるシステムが動き始めてるからなー。もうよっぽどのことがないと脱落なんてしないわ」
「もう、ユーちゃんったらすぐフラグ立てるんだから」
アハハ、フラグ違うわ。
いや、普通の子だったら大丈夫だぞ?
とゆーかやる気のある子なら面倒みる。
自宅警備員はいらん。
「イシンバエワさん。ダイコンの煮物がおいしいです」
「あたしも思った。これなかなか複雑な味がする。醤油と海藻と魚、それから甘味かな? ひょっとしてバエちゃんものすごく料理の腕上げた?」
ぶんぶん首を振る。
「違うの。めんつゆを使ってるの」
「めんつゆ?」
「醤油ベースにいろいろ混ざった調味料なの。舐めてみる?」
「もちろんその挑戦を受けようじゃないか」
ぺろ。
ははあ、なるほど。
「旨みが強くてマイルドな醤油って感じだね」
「薄めればそのままスープにできる、というものなのよ」
「おおう、なるほど。普通の料理には醤油よりこっちの方が使いやすいかも」
「あたし達の世界ではすごく使われてるの」
「こっちではまだ醤油も普及してないんだよ。醤油よりもめんつゆ売る方がいいかな?」
旨み成分を安く大量に抽出する手段があればだが。
むーん、難しいな?
「バエちゃん、ありがと。これは検討すべき事案だわ」
「熱心ねえ」
「バエの姉貴! おかわりいただきやす」
「ミーもね!」
「はい、どうぞどうぞ」
あれ、ダンテがおかわりって珍しいな。
こってりお肉とさっぱり大根は相性いいからかな?
「ボニーもギルドまで来たんだよ」
「あら、早いじゃない」
「今となってはチュートリアルルームで躊躇してたのがバカみたい。チュートリアルルームで躊躇、もうちょっと語呂がどうにかならないものか」
「あはははは!」
まあ心配ないだろうってことだ。
「ツインズ、ノブ君と組んで、四人で行動することになりそう」
「ノブ君って、ヨブさんの弟よね? 顛末は聞いたけど」
「あんちゃんもきっかけがあると変わるかもしれないけどね。今のままだとノブ君の足を引っ張っちゃうから。バエちゃんの給料のためにも、ノブ君が『アトラスの冒険者』の方がいいと思うよ」
「そうねっ!」
簡単に同意するバエちゃん。
あの四人は当分同一行動ってことになりそうだし、そこにヨブ君加わったって困らないだろうしな。
「ボニーの次の子はそろそろ決まるんだっけ?」
「あっ、今日『地図の石板』が発給されたの。まだチュートリアルルームへは来てないけど」
「移民から選ばれるんだよね? 忙しいから、来るの遅くなるかも」
「早く来てくれるといいのに」
ボニー以前は皆転送魔法陣が設置された日の内に来たって言ってたしな。
ちょっと心配してるのかな。
「何て名前の子? 明日の午後時間あるから見てくるよ」
「あっ、助かる! ちょっと待っててね」
帳面みたいなものをチェックしてる。
「えーと一六歳の男の子で、名前はジークハルト・ミュラー」
「ミュラー……あれ? ひょっとしてレイノス住み?」
「うん、そう。ユーちゃんの知ってる人?」
まさかの艦長クリークさんの息子でござる!
「予想外だったな。移民って言ってたから、貧しい人かと思ったんだよ。でもジーク君は元帝国軍少将の息子なんだ」
クリークさんに息子は二人いた。
一六歳であれば兄の方だろう。
「固有能力が『水魔法』と『能動』の二つ持ちなの。期待できるでしょ?」
『能動』とはスタン無効だそうだ。
『水魔法』も攻撃五属性及び白魔法の使い手よりもよほど少ないらしい。
しかし……。
「……ヤバいな」
「えっ、何が?」
バエちゃんがキョトンとする。
「その子と顔合わせてるはずなのに全然印象ないんだ」
「えっ? だから?」
「あたしが優秀な子を見逃すわけないじゃん。嫌な予感がする。たまたま固有能力二つ持ちなだけで、アカン子かもしれない」
「脅かすのはやめてよ」
「でもできる子は見ればわかるからな? 今回は期待しない方がいいよ」
「ええっ、困る!」
少なくとも初日からチュートリアルルームに来る気はない子だ。
固有能力二つ持ちを脱落させたとなると、ボーナス取り消しになっちゃうのだろうか?
「ボーナス取り消しになっちゃう!」
「あまりにも思った通り過ぎて笑える」
バエちゃんアワアワしてるけど。
「固有能力持ちが有利なのは異論ないけど、偏重し過ぎてるんじゃないの? エルマの時もそうだったじゃん。ステータス値はもちろん、やる気とか大事だよ?」
「で、でもエルマさんには手を貸してくれたじゃない」
「エルマにはやる気も見所もあったからだよ。選定の時、遠隔で固有能力まではわかっても、それ以上のことはわかんないってことなのかな?」
ダンの時、レベルもわかってなかったみたいだしな。
「あとから伸びる子の方が多いから、道徳心と固有能力以外は重視されていないというか」
「使えない子が『アトラスの冒険者』に選ばれて、現場の給料下げられたんじゃやってられないでしょ。やり方変えた方がいいぞ?」
「例えば?」
「候補者リストを出して、その中から現役の『アトラスの冒険者』が本人に実際に会ってみてスカウトするとか。あ、でもバエちゃんが育てたっていう功績がなくなるから、ボーナスは出ないのか」
「どっちも困るう~」
案外難しいぞ?
「ごちそうさま。今日は帰るね。とにかくこの子は見てくるよ」
「うん、お願い。またね」
転移の玉を起動し帰宅する。




