第829話:冒険者の危機察知能力
「ひやあ!」
「ワッフーの間抜けな声を聞くと、助かったって気がするねえ」
ハハッ、今頃叫び声上げたって遅いわ。
土煙は立っているが、土砂の流れは完全に落ち着いた。
もう変な胸騒ぎはしない。
よさそーだな、斜面に降り立つ。
「クララは一応『フライ』の用意して待機ね。ヴィル、生き埋めになってた皆さんの負力はどうかな?」
「なくなってるぬ!」
ミスティさんが聞いてくる。
「迷える魂が天に昇ったということでしょうか?」
「みたいだねえ」
おそらくは犠牲者の魂だか残留思念だかが被害が増えるのを望まず、斜面のこれ以上の崩落を防いでいた。
しかしそれが浄化されることにより抑止力を失った、ということなんじゃないかな。
不思議なことはあるもんだ。
本当かどうかは知らんけど。
「た、助かった……よく崖が崩れるのがわかったな?」
「冒険者なら当然だぞ?」
ハッハッハッ、ちょーっとフカしたった。
ワッフーが尊敬の目で見てるわ。
おまけにまだ声震えてるじゃないか。
この崖崩れを察知するのとケスの落とし穴見抜くのとどっちが難しいと言われたら、そりゃケスの落とし穴の方がよっぽど難しいんだぞ?
「お昼までまだ時間があるね。ちょっとその辺で稼いでいっていい? お昼御飯奢るからさ」
◇
「これは素晴らしく美味しいですね!」
「でしょ? ワイバーンの卵は最高だよ。でも大きいから、焼くのが大変なの」
昼にギルドへ戻ってきて、お昼を御馳走する。
食堂の大将の作ってくれるフワフワ卵焼きは至高。
ただし以前サイナスさんがワイバーンの卵を食べたいと言っていたので、一つはキープしてある。
「今日は……思ったより大変だった」
「ごめんよ。用が終わってからも付き合わせて悪かったねえ」
「いやいや、そうではなく!」
ワッフーがブンブンと首を振る。
「冒険者は大変なのだな、と。正直あの崖崩れを察知し、余裕を持って回避するなんて、神技としか思えない。俺の意識は完全にトロルに行っていた」
「冒険者は好きでやってることだし」
マウ爺と顔を見合わせる。
特に『アトラスの冒険者』の石板クエストは、魔物とのバトルが絡むものがほとんどなので、危機察知の能力は自然と磨かれる気がするな。
ワッフーは冒険者じゃないじゃん。
そもそもマウ爺の最終クエストだった魔法陣の転送先だぞ?
ワッフーじゃレベルが少なくとも一〇は足りない。
「考え過ぎではないか?」
「うん。ワッフーはふんぞり返ってえらそーにしてないと気持ちが悪い」
「俺は今までもふんぞり返ってなどいない!」
「返ってないぬ!」
大笑い。
聖職者は聖職者らしくしてりゃいいじゃん。
……ミスティさんが少し俯き加減だ。
あの辺りのエリアのクエストが回されるレベルの『アトラスの冒険者』だったら、当然崖崩れの前に何かおかしいと気付いてはいたはず。
なのにミスティさんの御両親が転移の玉で逃げることをせず、むざむざ崖崩れに巻き込まれたのは、率いている一〇人以上の聖火教徒達を見捨てることができなかったからだ。
大人数を導く者には責任が伴う。
厳然とした事実を今更ながら認識したのだろう。
「嬢は今日の午後はどうするのじゃ?」
「魔境行って稼いでこようかなって思ってるんだ。そろそろ輸出品として注文出してるパワーカードを引き取らないといけないんだけど、おゼゼが足りないの」
「ハハッ、嬢はいつも金欠じゃの」
『ウォームプレート』の納品日が迫っているのだ。
正確にはギリギリ手持ちで足りるのだが、そろそろ画集出版でもおゼゼかかるしな。
ピンチだ。
どーしてあたしはいつもおゼゼに苦労しているのか、まったく謎だ。
ミスティさんが首をかしげ、思いついたように言う。
「一昨日パラキアスさんが礼拝堂にいらした時、ユーラシアは次いつ行政府に来るかって楽しそうに言ってましたよ」
「パラキアスさんが?」
急用があるんじゃなさそうだけど、面白いことでもあるのかな?
明日行政府行ってみるか。
土産話がなくもないし。
「知らないメンバーじゃねえか。誰だ?」
「あんたは面白そうなところには絶対に顔を出すねえ。エンタメセンサーでもついてるの?」
「ユーラシアほどじゃねえ」
ツンツン頭のゴシップ屋ダンだ。
マジでダンは嗅覚がすごいとゆーか。
「聖火教大祭司のミスティさんと、お供のハイプリーストワッフーだよ」
「大物じゃねえか。おみそれしたぜ。ギルドのパパラッチと言われてるダンだ。よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
ミスティさんもワッフーも、ダンが高レベルの冒険者であることに気付いたらしい。
しかし『ギルドのパパラッチ』って自分で言っちゃうのな?
「ははあ、この前の聖火教徒の生き埋め現場に行ってきたんだな?」
「正解」
「ダンさんも御存じでしたか?」
「たまたま発見した時に俺も同行していたんだ。手を合わせてきた」
「冥福を祈ってくださって、ありがとうございます」
頭を下げるミスティさんに落ちつかなそうなダン。
ハハッ、普段の心掛けが悪いから。
「ダン明日朝時間ある? 魔境に付き合って欲しいんだ。一人連れていきたい子がいるから」
「何だ。無茶レベリングか?」
「いや違くて。クレソン取りに行くの」
「クレソン? まあいいや。報酬は?」
「珍しく冒険者っぽいこと言うねえ。イシュトバーンさんが伝説クラスって評価した魔法の名剣でどう? 見るからにすごいやつだぞ?」
ぶーっとワッフーがお茶を噴き出す。
おおう、虹が出たぞ?
汚いのか綺麗なのかわからねえ。
「伝説クラスの名剣って……」
「クエストで手に入れたんだよ。でもうちのパーティーはパワーカード装備だからいらないじゃん? 誰かにあげようとは思ってたんだ。こういうのは使ってもらった方がいいからね」
ミスティさんとマウ爺が頷く。
「ソールにくれてやればいいじゃねえか。何で俺なんだ? さては惚れたか?」
「違うとゆーのに。ソル君やデミアンは人形系を倒すスキル持ってるからさ。ダンが持つのが一番恩恵が大きいの」
「ほう? 人形系を倒せる剣か?」
「うん。斬撃・衝波・闇の三属性が付与されてるやつ」
喜んでるじゃねーか。
ワッフー、何?
「精霊使いは気前がいいんだな」
「そこは女っぷりとセットで褒めてくれるのが嬉しいんだけど?」
「セットだぬ!」
笑いの中でお開きとなる。




