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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第820話:新聞の紙

「今の紙の話を聞いて、あんたは帝国に行ってみたいと思ったんじゃねえか?」

「イシュトバーンさんは鋭いなー」


 緑の民の紙職人達は技術があるとゆーことがわかった。

 帝国に売り込みたい。

 でも実際のところ帝国が何を欲しているのかはわからんからなー。

 又聞きじゃどーも。


 あたし自身が帝国に行って、向こうの生活がどんなもんか、何に需要があるかを調べたいのだ。

 帝国行きの転送魔法陣出ないかなー。

 できれば都会がいい。


「で、若と姫はいつもどこでデートしてるの?」

「い、いきなりですね師匠」

「物事優先順位があるんだよ。あたしだってずーっと聞きたかったけど、商売の話の方が優先だから我慢してたの」


 今度はラルフ君をネタにする。

 まあクララの『フライ』で帰りゃいいんだが、あたしも潤いが欲しいから。

 イシュトバーンさんもヘリオスさんも聞きたそーだし。


「族長宅にいるか、こうして散歩してるかですね」


 イシュトバーンさんと顔を見合わせる。

 そりゃあ間が持たないわ。

 ラルフ君は『アトラスの冒険者』なんだから、いろんなとこ連れてってやってると思ってたわ。


「ヒルデちゃんは、外に行くの嫌いなの?」

「いえ、そんなことはないです」

「師匠、ヒルデさんは少々身体が弱いので……」


 うん、薄々気付いてはいた。

 ケガや病気ではないがステータスパラメーターが足りない、ポロックさんの娘さんと同じ症状だ。


「どうする? こういうのはレベルいくつか上げると大丈夫だぞ?」

「パワーレベリングですか? しかし……」


 うむ、不安はわかる。

 緊張や興奮はよろしくないかも知れないし、そもそも長時間出歩くなんてヒルデちゃんは耐えられないだろう。

 ステータスアップ薬草を摂取させるのでもいいんだが、手に入るなら冒険者であるラルフ君パーティーが食べるべきだろうし。


「いや、上級冒険者レベルまで育てようって言うんじゃないんだ。魔境ならオーガ帯の魔物を数体倒すだけでいいと思うけど」

「師匠は魔境へ行く気でしたか!」

「そりゃ経験値の低い魔物たくさん倒そうとすれば時間かかるから。ヒルデちゃん疲れちゃうぞ? 魔境の方が効率がいい」

「師匠が魔境的な考え方なのは承知しておりますが……」


 迷うラルフ君。

 何だ魔境的な考え方って。


「手伝ってあげるよ。うちのパーティーで魔物倒して、ラルフ君が抱っこしてあげていればいいよ」

「ははあ、あんたの思惑がわかったぜ」


 ニヤニヤするイシュトバーンさん。

 あたしだってラブいイベントを見たいもん。

 ヒルデちゃんをお姫様抱っこして魔境を踏破するラルフ君格好いいニヤニヤ。


「ラルフ様、私、足手まといにはなりたくないです。もう少し力があれば……」

「ヒルデちゃんよく言った!」

「……師匠、お願いできますか?」

「よーし、三日後の午前、ここへ迎えに来るよ」

「「はい」」


 イシュトバーンさんがえっちな目を向けながら言う。


「面白イベントで予定が埋まったと思ってるんだろ?」

「力一杯思ってる!」

「お? おう」


 怯ませたったぞ。

 そーいやイシュトバーンさんにこの返しは初めてだな。


「じゃ、あたし達帰るね」

「はい、楽しかったです」

「ヨハンにまた来いって言っといてくれ」

「わかりました」

「ヨハン殿によろしく」

「はい」


 クララの高速『フライ』で帰宅する。


          ◇


「今日は長々と付き合ってくれてありがとう! あたしは帰るね」


 イシュトバーンさんとヘリオスさん、そのお供の人の三人を、イシュトバーンさん家に送り届けた。

 今日は収穫の多い日だったな。

 ヘリオスさんがためらいがちに話しかけてくる。


「本日は楽しかったです。……新聞の紙のことなのですけれども」

「何だ? オレにも聞かせろ」


 イシュトバーンさんのいるところで言い出すってことは、聞かせても構わないんだろう。


「ヘリオスさんが新聞社に納めてる紙、サトウキビの搾りカスで作ってるの。しかも一括で買い上げてるからすげえ安いんだ」


 具体的な価格は知らんけど。


「ゴミが紙になってるのかよ? 驚きだな」

「ゴミが紙って語呂がいいなあ」

「やはり調べがついていましたか……」

「他の業者に横入りされると価格上がっちゃうから、なるべくこの話するなってことをヘリオスさんは言いたいんだと思うけど」

「その通りです」


 ヘリオスさんが頷く。


「新聞社は採算ギリギリです。紙の価格が上昇してしまうと廃業せざるを得ない。唯一普及している活字媒体がなくなってしまうと、ダメージは計り知れないのです」


 ヘリオスさんの言うことはもっともだ。

 新聞がなくなるのは困る。

 ドーラの識字率を上げたいあたしの計画ともバッティングする。

 しかし……。


「ヘリオスよ。杞憂だぜ」

「あたしも同意見」

「えっ?」


 現状、サトウキビ紙は新聞にしかならないのだ。

 価格を高くしたら新聞社が潰れて、需要自体がなくなってしまう。


「心配ならザバンへ行って、識字率向上の試みと移民の増加によって、将来的に新聞用紙の生産増加が必要だろうって話しておけよ。数で儲けさせてやればいい」

「砂糖は輸出できる可能性があるって、ヨハンさんが言ってたな。大規模に作ればたくさん搾りカスも出るでしょ」

「おう、帝国は気候がサトウキビの生産に向いてねえからな。ほとんど砂糖は海外植民地産から輸入してるはずだぜ。食い込む余地は十分にある」

「ヘリオスさんが儲かったら、サトウキビ農場と紙工場を買い取ってもいいんだし」

「は、はい。しかし何故ザバンだと……」


 ちょっとヘリオスさんも安心したか。


「砂糖と言ったらザバンだろ。カトマスから近いし、精霊使いと縁がある村だから、何らかの事情を聞いててもおかしくねえしな」

「あたしはザバンの茶農家でサトウキビ紙の話を聞いたんだ」

「仕方ありませんな……」


 苦笑するヘリオスさん。


「やっぱ本が売れるようにしたいなー。正確には『精霊使いユーラシアのサーガ』をガンガン売れるようにしたい」

「ハハッ、大胆な野望じゃねえか」

「乙女の飽くなき野望だよ」

「結構なことですな。その際の印刷は御贔屓に」

「ヘリオスさんとこメッチャ儲かっちゃうわ」


 アハハと笑い合う。

 まず今目指すのは識字率の向上。

 イコール札取りゲームをガンガン売ることだ。


「さようなら!」

「おう、またな」

「お気をつけて」


 転移の玉を起動し帰宅する。

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