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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第819話:緑の民の紙の技術

「ヒルデちゃんか。いい子じゃねえか」

「はい。ありがとうございます」


 まーラルフ君とヒルデちゃんがいれば、話題はそっちになるわなあ。

 ヘリオスさんが聞く。


「翁はヒルデ嬢をお描きにはならないのですかな?」

「五年くらい経ったら描きたくなるかもしれないよ」

「おう、まあな」


 イシュトバーンさんが似合わないウインクをしてくる。

 イシュトバーンさんは『いい女』しか描かないけれども、あたしはその基準を何となくだが把握しているつもりだ。

 綺麗可愛いだけじゃなくて、プラスアルファが『いい女』たらしめるんじゃないかな。

 端的に言えば何かのエピソード持ち、みたいな人。


 ヒルデちゃんは可愛いけど、箱入り娘だから薄味過ぎる。

 イシュトバーンさんにとっては面白みがないんじゃないかと思う。

 次代族長として経験を積むと、守備範囲に入りそう。


「ん、ちょっと待てよ? 守備範囲に入ったら入ったで危険なのか」

「おいこら精霊使い。思ってても口に出すなよ」

「贅沢なジジイだこと」


 アハハと笑い合う。


「ここですぜ」


 紙職人の集会所かな?

 版画屋さんが中にいる若者達に声をかける。


「精霊使いがレイノスの紙屋を連れてきたんだ。お前らの作ってる紙を見せてやってくれないか」

「よしきた!」「ちょっと待っててくれ」


 若者達が駆け出してゆく。

 随分と皆やる気あるみたいだね。

 若い職人さんだからかな?

 ヒルデちゃんが説明してくれる。


「今出ていったのは紙作りの家の者達です。ここは紙や印刷関係の者が集まる寄り合い所になっているんですよ」

「姫の言う通りですぜ。互いに意見交換しようってことですな」

「へー、ヒルデちゃんは『姫』って呼ばれてるんだ。いいなあ」

「「そこかよ!」」


 版画屋さんとイシュトバーンさんのツッコミだ。

 版画屋さんとイシュトバーンさんは感性が似てるのかな?


「あたし『姐御』『姐さん』とは呼ばれるんだけど、『姫』は羨ましいなあ。ちなみにラルフ君は何て呼ばれてるの?」

「『若』ですぜ」

「『若』はどうでもいいけど」

「「どうでもいいのかよ!」」


 再び版画屋さんとイシュトバーンさんのツッコミ。

 そりゃどーでもいいわ。

 あたしは『若』なんて呼ばれたくないもん。


「戻ってきたな」

「早いねえ。意気込みが嬉しいわ」

「うちではこんなものを」


 あ、これは普通の紙だな。

 表面滑らかで書く用途によさそう。

 そっちは葉っぱの模様の入った紙?


「メッチャ綺麗だな」

「葉肉を溶かして筋だけにしたものを漉き入れたんですよ」

「ふむ、素晴らしいですな」


 ヘリオスさん随分食いついてる。

 他の人達も戻ってきた。


「こいつはうちの開発した、柔らかい紙だ」

「柔らかい紙?」


 あっ、ふわふわでちりちりだ!

 これもすごい!


「内包装等の用途にいいんじゃねえかと思ってるんだ」

「高級感が出そうだねえ」


 超すごいお茶の輸出を考えていて気付いたことだが、帝国の富裕層向けには特別感や高級感が大事だと思う。

 紙職人達は輸出や貴族向けってとこまで考えて漉き入れ紙や柔らかい紙を開発したんじゃないだろうけど、いずれ強力な武器になりそう。


「ほお、紙って思ったよりもいろんなことに使えそうじゃねえか」

「結構なものだった。実際に見せられると驚くわ」

「今話題のポスターに使ってる紙はそいつな」

「ふんふん、厚手のやつだね」

「こいつは色紙」

「美しいですな」


 随分と様々な方向性で作ってるんだな。

 イシュトバーンさんヘリオスさんはもちろん、ラルフ君やヒルデちゃんまで物珍しそうに見ている。


「これって緑の民の村では一般的なもの、ってわけじゃないんだ?」


 版画屋さんが自嘲気味に言う。


「技術自慢になっちまってるな。この道の職人達しか知らねえよ」

「変わったもので同業者を驚かせるのが目的になってるね。売れやしないんだ」

「輸出向けには使えるんじゃねえか?」

「うん、あたしもそう思った」

「えっ?」


 わかってないようですね。


「ヒイラギやカエデの葉を紋章に取り入れてる帝国貴族がいたはずだ」

「売り込もう! ねえ、これサンプルに一枚くれない?」

「あ、ああ。ちょうどヒイラギの葉を漉き込んだやつがある。それでいいかい?」

「ありがとう。これ量産利くのかな? 一枚当たりいくらで作れる?」

「調達と溶解の手間考えると一ヶ月一〇〇枚くらいまでなら。一枚一〇ゴールド以下ではムリだ」

「わかった、交渉してくるね」


 プリンスにいい土産ができたなー。


「柔らかい紙や色付きの紙も需要あるんじゃねえか?」

「うん、紹介してくるよ」


 サンプルもらってこ。

 えーとヘリオスさんも盛んに話聞いてるね。


「どうです、ヘリオスさん」

「いやあ、驚きました。高品質のものが比較的安い」

「レイノスで新聞に使われてる紙には、価格で絶対に勝てないから品質の方で、との情報を精霊使いから聞いたと、族長が言ってたんだ」

「!」


 ヘリオスさんビックリしてやがる。


「……なるべく内密に」

「はーい」


 サトウキビの搾りカスの紙、もうちょっと高く買い上げるからみたいな話出ると困るんだろうな。

 新聞の値段が上がるとあたしの目指す世の中にも迷惑だし。


「しかしここの紙を売るには……」

「やっぱ本だねえ」


 技術自慢の変わった紙もいいけど、緑の民の紙の一番の特長はヘリオスさんも言っていた通り、高品質のものが比較的安いってことだろう。

 となればやはり本を売ること。

 読み書きの文化を根付かせることが長期的に必要だ。

 画集はセンセーショナルだが、一発ネタに過ぎない。


「本に向いた紙を安く大量に作る手段を研究して欲しいなー。絶対に本が売れる世の中にするから」

「ドーラの人口はどんどん増えるんだ。製紙業は今後有望な産業だぜ」

「本に向いてるのはどんな紙だ?」

「インクが乗りやすいのは大前提として、薄くても丈夫で手の滑りのいい、しなやかな紙ですな」


 うむ、安くていい紙がなければ、本の普及など夢のまた夢。

 レイノスで新聞が売れてるのは、安いサトウキビ紙と識字人口の多さ、活字印刷技術の賜物だ。


「ヘリオスさん。またここに用があるようだったら、ヨハンさんかあたしに連絡ちょうだいね」

「はい、そうしますよ」


 版画屋さんと若い紙作りの職人達に別れを告げる。

 緑の民の紙はすごいじゃないか。

 ぜひとも力になってやりたいものだ。

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