第816話:インウェンの絵
「ほう、ここが精霊使い殿の家ですか。いいところですなあ」
イシュトバーンさんとヘリオスさんとそのお供の人を連れてきた。
うんうん、我が家はいいところにあるのだ。
たくさん候補があった中から、あたしとクララが決めた場所。
「南行くとすぐ海なんだよ。時々魚を獲って食べてるの」
「ん? 魚なんかどうやって獲るんだ? 網や釣り道具を持ってるわけじゃねえんだろ?」
「雷魔法を撃ち込むと、感電して浮いてくるんだよ」
「ははあ、面白いな!」
「もー何でも面白がるんだから。今日は魚獲りの時間はないから今度ね。ところで何でこんなに大荷物なの?」
「わかるだろ?」
何故かイシュトバーンさんがたくさんものを持ってきているのだ。
絵を描くのに使う小道具なんだろうが、ニヤニヤしてるしな?
「わかんないけどわかる気がする」
「それだぜ」
要するに悪巧みか。
インウェンを玩具にしようっていうんだな?
まったくイシュトバーンさんは趣味が悪いんだから。
え? あたしもアポなしのが面白いって言ってたろうって?
ああ、言ってたわ。
それがどーした。
ヘリオスさんが声をかけてくる。
「ここはカラーズからは遠いのですか」
「灰の民の村まで歩いて二〇分くらいなんだけど、飛ぶよ」
「はい?」
「クララ、お願い」
「はい、フライ!」
五人の身体がふわっと二ヒロほど浮く。
アトムとダンテは留守番だな。
「おお、飛行魔法ですな? これは見事な……」
「見事なのはこれからだよ。飛行魔法はレベル依存なんだ」
「はあ……」
わかってないようですね。
イシュトバーンさんがニヤニヤしながら言う。
「おい、ヘリオス。油断してると舌を噛むぞ」
「は? 舌?」
「イシュトバーンさんにしてはまともなアドバイスだった」
まだわかってないようですね。
「アトラクションだよ。束の間の超高速を楽しんで! クララ、灰の民のショップまですっ飛ばして!」
「はい!」
いきなりの加速!
「うおおおおおお!」
「ひええええええ!」
ヘリオスさんとそのお供の人の悲鳴、イシュトバーンさんの趣味悪そーな笑いを乗せて、緩衝地帯へびゅーんと飛ぶ。
◇
「サイナスさん、こんにちはー」
「やあ、ユーラシアいらっしゃい」
灰の民のショップ前に降り立つ。
片付けて撤収するところだったか。
もう商品がなくて、札取りゲームで遊んでる子達しかいないわ。
野菜やお弁当は午前中で売れちゃうなあ。
「そちらは?」
「イシュトバーンさんと、レイノスで紙や本扱ってる商人のヘリオスさんだよ。こちらは灰の民のサイナス族長」
「精霊使いから話は聞いてるぜ。よろしくな、サイナス族長」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」
「ヘリオスと申します。今後ともよろしく」
「何とぞよしなに」
うむ、顔合わせはいいだろう。
「札取りゲームの売り上げはどお?」
「完売したよ」
見た感じ、各色の民が一緒に遊んでいるようだ。
いいことだな。
宣伝活動に貢献してください。
サイナスさんも嬉しそうだし。
「追加発注しようか。カラーズ分でどれだけいる?」
アレク、ケス、ハヤテが同時にこっちを見る。
もう結論出してたんだな。
「「「二〇〇セット!」」」
「ヘリオスさんはいくつくらい扱ってもらえるかな?」
「三〇〇回してもらいたいですな」
この前ヨハンさんに注文もらったのが五〇〇セットだから……。
「一〇〇〇作ってもらおうか。アレク、ケス、ハヤテ。ついておいで」
「「「おう!」」」
「この子達が札取りゲームを作った?」
「うん。こっちからアレク、ケス、ハヤテだよ。またいずれ、ヘリオスさんとこで扱ってもらえるような商品作ると思うからよろしくね」
双六風ゲーム『美少女精霊使いのドラゴンを倒す旅』は、もうほとんど完成していると言ってもいいのだ。
識字率が上がんないと売れないから、まだ投入しないで様子見てるだけ。
早くこういうものが売れる社会にしないとな。
黄の民のショップへ。
「フェイさんこんにちはー」
「おお、精霊使いユーラシアよ。イシュトバーン殿もですか」
「フェイ君久しぶりだな」
「フェイさん、正式に黄の民の族長になったんだよ。それからこちらがレイノスで紙や印刷物を商ってるヘリオスさん」
「うむ、よろしく」
「こちらこそ」
うむ、いい感じ。
「札取りゲームの木札、追加発注に来たよ」
「だろうと思っていた。よく売れてたからな」
灰の民のショップを見てくれていたか。
「仕様はこの前と同じでいいな? 数は?」
「一〇〇〇お願い」
「金額はこの前と変わらぬ。箱付き一セット一〇ゴールドだがよいか?」
「うん。よろしくね」
一〇〇〇〇ゴールドを支払う。
「半量を五日後、全量を一〇日後引渡しになるが」
「え? この前より随分量多いけど大丈夫?」
「問題はない」
「じゃ、お願いしまーす」
どうやら追加注文が来ることを見越して、既に職人さん達にある程度指示を出してくれてるみたい。
ありがたいなあ。
さてと、メインイベントだ。
「インウェンいるかな?」
「いるぞ。インウェン!」
ショップの奥、天幕かな? からインウェンが出てくる。
「あっ、ユーラシアさん、イシュトバーン様、いらっしゃいませ」
「前モデル頼んでたやつ、インウェンの絵を描きに来たんだよ。今いいかな?」
「今ですか? は、はい、大丈夫ですよ」
「じゃ、フェイさん。インウェン借りるね」
フェイさんが苦笑する。
「こういうのは前もって日を約しておくものではないのか?」
「アポなしの方が面白そうっていう、イシュトバーンさんのイタズラ心だよ」
「おいこら、言い出したのあんたじゃねえか」
んなこたあいいんだよ。
インウェンを連れて中央の広場へ。
「彼女の絵も画集の一ページになるのですな?」
「そゆことなんだよ。イシュトバーンさんはいい女しか描かないから、モデル集めが大変なの」
「ハハッ、精霊使いの集めてくるモデルは極上なんだぜ」
「結構なことですな」
「もー他人事だと思って」
イシュトバーンさんとヘリオスさんが笑う。
でもこれまでに類のない、バラエティーに飛んだ美女美少女を集めた画集になるのだ。
「よし、包み開けてくれ」
イシュトバーンさんが持って来させた大きな包みを開ける。
やっぱり布団か。
とゆーことは、寝姿を描きたかったんだろうな。
布団を敷いて、インウェンを右肘を枕にして横向きにする。




