第814話:画集と札取りゲームの注文
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「これは精霊使い殿。お待ちしておりましたぞ」
コブタマンのお肉を狩った後、うちの子達を連れ、イシュトバーンさん家にやって来た。
「ちょっと早かったかなあ?」
「構いませぬぞ。旦那様は暇そうですので」
「何かイシュトバーンさんをあやす玩具が必要な気がしてきたわ。そーいえば今日は玩具持ってきたんだった」
笑いながら屋敷へ通される。
「おう、来たか精霊使い」
「こんにちはー。来るのちょっと早かったかな? これお肉ね」
「おう、すまんな。肉を厨房へ」
お付きの女性に肉を下げさせる。
「昨日の絵、今仕上がったところだぜ」
エルマの絵を受け取る。
うむ、エロ格好いい。
エルマもきっとモテちゃうな。
「ありがとう。画集ももう少しだねえ」
今日はヨハンさんヘリオスさんと話し合いだ。
初版の部数がたくさん出ると、宣伝効果が高いと思うから嬉しいな。
見てると欲しくなっちゃう心理が働くだろうから。
まあどうせ増刷かけるけど。
「海の女王、首尾はどうだったんだ?」
「万事オーケーだった。本当にホッとしたよー。バアルも許してもらったし、明日の昼にモデルやってくれることも決まった」
「おおおお、やったぜ! 森エルフの族長も来るんだな?」
「うん、来る」
「エルフの里に迎えに行くなら、オレも連れていってくれねえか?」
「えっ?」
物好きだな。
ま、イシュトバーンさんなら行きたくもなるか。
好奇心がスケベ方向だけに向いてるわけじゃないからな。
向こうはアビーとカナダライさんだろうから、転移の玉の人数制限は特に問題ないと思うし。
「じゃ、行こうか。昼一一時過ぎくらいにこっち迎えに来るから、用意しててよ」
「わかったぜ」
警備員さんから報告だ。
「ヨハン殿、ヘリオス殿がいらっしゃいました」
「ああ、通せ」
「はっ」
ヨハンさんとヘリオスさん、二人ともお供一人だけを連れている。
「ヨハン、ヘリオス、よく来たな。待ってたぜ」
「こんにちはー」
「お招きいただき、ありがとうございます」
「よろしくお願いいたします」
「上がってくれ。まず飯からだ」
「やたっ! いただきます!」
◇
「ごちそうさまっ! お腹一杯だー!」
「お腹一杯ぬ!」
「精霊使い殿は健啖家でいらっしゃる」
「大食いって言って構わないよ」
アハハと笑い合う。
「おい、本題があるんだろ?」
「そうだった。お腹が満足したらどうでもよくなってしまった」
まず美人絵画集の方からだな。
イシュトバーンさんの絵を取り出す。
販促・宣伝用に持ち歩いている『ニルエ』『アリス』『サクラ』の三枚だ。
「こ、これは?」
「話には聞いていたが……」
「実に艶かしい……」
ヨハンさんヘリオスさん、二人とも絵から目が離せなくなってますがな。
イシュトバーンさんの得意そうなこと。
小鼻がピクピク動いてるよ。
よし、初版部数のために煽っとこ。
一〇〇〇部は欲しいからな。
「あちこちで描いてもらってるんだけど、どこでも人だかりができちゃうんだよ」
「画伯扱いだぜ」
「画伯! 画伯! ってコールが起きるの。およそ絵を描いてるとは思えない、大道芸みたいな盛り上がりでさ」
「オレもこの歳になって画伯と持ち上げられるとはな」
「でも画集は世界中で売れちゃうぞ? 絵師イシュトバーンの名は世界中に轟くね」
「表紙があんただしな」
「パワフルな吸引力だわ。さらに倍掛けで売れちゃうわ」
アハハと笑ってたらヘリオスさんが言う。
「翁の描いた美人絵の画集を、ということですな?」
「うん。モデルは二〇人になる予定」
「もう大分描けてるんだぜ。残り五、六人だろ?」
「ドーラ国内の販売をヘリオスさんに、輸出分の取りまとめをヨハンさんヘリオスさんの共同で行ってもらうのが一番いいかなー、と考えているんだよ」
「そうですな。妥当かと思います」
ヨハンさんヘリオスさんが頷く。
「極めて低価格での販売を考えておられると聞いたのですが」
「六〇ゴールドを考えてまーす」
「「六〇ゴールド?」」
驚く二人に紙代、版代、刷り代、カラーズからの輸送費、イシュトバーンさんの取り分等々の内訳を話す。
「なるほど、計算上六〇ゴールドでも十分に儲けは出る」
「革命的でしょ? 値段と絵でビックリさせて、欲望が高まってるうちに売っちゃう。ついでに本が高いものという常識も壊しちゃう」
「独特の質感で高級感のある厚手の紙ですが、そんなに安いものですか」
あ、ヘリオスさんは紙屋だから、紙のコスパは気になるんだな。
「繊維の太い植物を混ぜ込んであるだけで、高級紙じゃないんだって。今まであまり用途がなかった紙らしくて」
「なるほど、カラーズの紙もなかなかですね」
「緑の民の村の職人が、いろんな種類の紙を試験的に作ってるんだよ。ヘリオスさんならいろんな用途を考えつくかもしれないから、今度案内しようか?」
「ぜひ!」
よーし、食いついた!
やりやすいぞー。
イシュトバーンさんニヤニヤしてるし。
「画集の話に戻るね。輸出分は貿易商の意見を聞かないことにはどーもならんから、ドーラ国内分の初版の件で。何部注文いただけるかなあ?」
皆の視線がヘリオスさんに集まる。
どのくらいを提示してくる?
「……二〇〇〇部いただきましょう」
「ほう、二〇〇〇」
ヨハンさんが感嘆の声を漏らす。
うん、あたしも国内だけで最終五〇〇〇くらいは売れるかなと思ってるけど、初版は正直頑張って一〇〇〇部かと思ってたよ。
最初は実績ないしな。
となるとヘリオスさんは、相当気合入れて売ってくれるらしい。
アシストしてやらねば。
「レイノス、カトマスでの販売価格は六〇ゴールド、それ以西はプラス輸送費になりますが、構いませんかな?」
「結構だよ。お任せしまーす。全ての原画が完成し次第、製作にかかりまーす」
画集の方は問題なし。
二〇〇〇部と、最高の注文部数をもらったぞ。
「もう一つ、これヨハンさんには五〇〇個注文もらってるんだけど、ヘリオスさんにも紹介しとくね。『文字を覚えるための札取りゲーム』だよ」
「あ、識字率を高めるという?」
「そうそう」
「もう形になってるんですか!」
ヘリオスさんが驚く。
以前ヘリオスさんに識字率上げようという話をしてから、まだ二ヶ月しか経っていないからな。
アレク達が頑張ってくれたんで。




