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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第812話:落差がひどい

「サイナスさん、こんばんはー」


 毎晩恒例のヴィル通信だ。


『ああ、こんばんは』

「あれ、サイナスさん今日はちょっと声が弾んでるね?」

『わかるかい?』

「わかる。でもささやかな喜びは胸の内に秘めておくといいよ。喋った途端に幸せは逃げてしまうものだから」

『君、聞くのが面倒くさいだけだろう?』

「読まれたか。サイナスさんはさすがだなー」


 アハハと笑い合う。

 どうせ札取りゲームがかなり売れたとかなんじゃないの?


『札取りゲームがかなり売れたんだ』

「よかったねえ。でも思った通り過ぎて聞かなきゃよかったとゆー、後悔とまでは言わないけど何とも表現のしようがないモヤモヤ感」

『何なんだ』

「今こそ問おう。どうやったら売れたの?」


 札取りゲームは有用性が知れれば売れるものだ。

 ケスが帰ってから実演で売るのかなと思ってたけど、今日売れるのは少し違和感がある。

 どーゆーミステリー?


『白の民に追加で買ってもらえたんだよ』

「あんまりミステリーじゃなかったな。売れた端すぐに子供達に遊ばせたってことだね?」

『ああ』


 なるほど、ラッキーだった。


「ちなみにどこの民に売れてる?」

『まんべんなく売れたぞ』

「あれ? 黒の民とかも買ってくんだ?」


 意外だな?

 黒の民は灰の民と同じく、識字率が高いはずなのに。


『小さな子供の教育用にいいということらしい』

「そーかー」

『追加の発注かけといた方がいいか?』


 明日はケスがいる。

 おそらく売り切れてしまうので、追加の発注は必須ではあるのだが。


「いや、一日待っててくれる?」

『明日、画集関係で会う商人と関連してという理由か?』

「うん。紙や本関係の商人ヘリオスさんも目先の利く人なんだ。札取りゲームを見れば注文くれる可能性が高い。いっぺんに発注する量が多くなれば、黄の民も版画屋もサービスしてくれるかもしれないし」

『ふむ、君午後こっちへ来られるか?』

「行くつもりだった。画集とゲームについて話し合いの結果どうなったか、明日話すよ」


 エルマの絵も完成予定だしな。

 インウェンにもモデル頼みに行くか。


『アルアさんとイシュトバーン氏を会わせるって話だったか?』

「アルアさんの弟子のエルマの絵を描かせてもらう関係でね。お互いに懐かしがってたから、あたしいい仕事した」


 いい雰囲気だった。

 二人を会わせて大正解だったと思う。


『絵は特に問題なく?』

「問題ないね。冒険者っぽい、なかなかかっちょいいポーズだった」


 でもえっちという、相変わらずというか人知を超えた謎絵。

 あたしのポーズも似た感じになるって話だったな。

 楽しみだ。


「アルアさんにも画集の概要話せたしね」

『あちこちで販促行動怠りないな。しかし……』


 え、何なの?


『今日の君はスタンスが受身じゃないか』

「そお?」

『札取りゲームの売れ方を聞こうとしないし、注文についてもちょっと消極的に思える』


 意識してなかったな。

 でもまあ理由はわかる気がする。


「今日ピクニック行ったんだよ。魔境世界樹エリアの東に当たるところ。魔物のレベル的にもまあまあだった」

『言ってたな。現役最年長『アトラスの冒険者』のクエストだったか?』

「そうそう。何したらいいのかわからないっていう変わったクエストだったんだけどさ。バアルとヴィルに助けてもらってクリアできたんだ」

『ほう、興味あるな』


 基本的にサイナスさんも変わったこと好きなんだよな。


「悪魔の子達が悲しい負力を感じたんだ」

『負力って感情とかのことか。悪魔のエネルギー源になるという』

「うん。どこから出てたと思う?」


 考えてますね。


『……負力って、高度な知性を持ってないと大きくならないはずだ。では魔物由来ではない?』

「いいよいいよ。人間由来だったよ。その方向で考えて」

『魔境世界樹エリアの東だろ? しかも君がまあまあの魔物レベルって言ってる時点で、人間の住むところじゃないよな? 加えて悲しい負力ときたら、嫌な予感しかしないんだが』

「正体は崖崩れに巻き込まれた探検隊か、多分開拓民じゃないかって気がする。少なくとも数十年は昔の」

『強い魔物のいる地区に開拓民が?』

「何かの間違いで迷い込んじゃったんじゃないかな。水を確保できる土地ではあったから、魔物が強いのを知らずに、川伝いに辿り着いたのかもしれないけど」


 真相は藪の中だ。


『その残留思念が残っていたというわけか』

「うん。現場にでっかい石を置いてさ。皆で手を合わせてきたんだ。結果負力が弱くなって、クエストクリアになったんだと思う」

『たまにはいいことしてきたんだな』


 サイナスさんがしみじみ言う。

 たまにはってゆーな。

 いつもいいことしてるわ。


「ヴィルが言うには、事故に遭ったのは聖火教徒らしいってことなんだ。『善き火の導きを』と言っているように聞こえるって」

『聖火教徒は開拓精神が旺盛だと聞く。なるほど、未知の地へ分け入る理由はあるのかもな』


 ふーん。

 聖火教徒がドーラに来たがるのも、開拓精神が前提にあるのかな?

 まあ理由なんかどうでもいい、真面目な移民は大歓迎だけれども。


「今度ミスティさんの都合のつく時にでも現地に連れていってさ。祈りでも捧げてもらおうと思ってるんだ。聖火教徒の偉い人に見舞ってもらった方が、被害に会った方々も喜ぶだろうから」

『うむ、それがいいだろうな。さすがにしんみりすることがあった日は、ユーラシアも乙女らしく慎み深く振舞いたくなるというわけか』

「あたしは常に乙女チックだわ。いや、今日のあたしがパッシブとサイナスさんが感じるのには、別の理由があるんだよ」

『別の理由?』


 不審そうな低い声になるサイナスさん。


「今日のクエストには、ギルドのオチ担当って言われてる冒険者がついて来てたんだ。『精霊使いユーラシアのサーガ』の執筆依頼請けてたやつだけど」

『……ふむ? 関連性がわからないんだが』

「そいつと道々散々掛け合いやってたからさあ。何か今日は満足しちゃったみたい」

『珍しくいい話で終わりそうだったのに、落差がひどい』


 アハハ。

 奇麗にオチる話はいい話だと思うよ。


「じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『はいだぬ!』


 明日は昼にイシュトバーンさん家だ。

 その前に……。

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