第811話:神経痛あれこれ
「おまたせー」
「待たせたぬ!」
「おう、ヴィルも一緒か。よしよし」
マウ爺の転送先でピクニックを楽しんだあと、夜もギルドで食事することになった。
何故か?
マウ爺が奢ってくれるからだ。
奢りと言われて断るのは、既に奢りの予定が入ってる時だけとゆー美少女ポリシー。
「注文入ってる?」
「おう。こっちは雨降ってないのな」
「ドーラ南部はしばらく雨降らないみたいだよ」
そうなのだ。
バアルのこともあって、海の女王のところへ一度行ってこなくてはならないのだが、きっかけが掴めない。
宿題残してるのはあんまり好きじゃないんだよなー。
覚悟決めて、明日の朝行くか。
「嬢よ、よいのか? 魔宝玉を仰山いただいてしまったが」
「いいのいいの。それよりあたしも素材全部もらっちゃったから、ありがとう。すごく助かるの」
魔宝玉は三等分、薬草がダン、その他素材等は全てあたしという配分になったのだ。
老骨が欲かいても仕方ない、とマウ爺は言ったが。
何だか申し訳ない気がする。
「ほぼ嬢のパーティーだけで魔物を倒していたではないか」
「んー? でもマウさんとダンが前衛にいたから楽だったし」
「回復も受け持っていたじゃろ?」
「甘えとけよ。ユーラシアは気前だけはいいんだぜ」
「『だけ』とはどういうことだ。他にもいいところはあるわい。美貌とか愛嬌とか気品とか清楚とか可憐とか」
「それもそうだな。あんたはいいところだらけだった」
「てへっ!」
これ、いろんなところで言ってるけど、皆の反応が割と違って面白いな。
あ、ワイバーンのフワフワ卵焼き来た。
「いっただっきまーす!」
「気前がいいのに、奢りにだけ拘るのはどうしてだ?」
「好きだからだよ。幸せな気分になれるじゃん」
「理屈はわからねえが、納得しておくことにするぜ」
あれ、理解を諦められたぞ?
「報告がある。『奇妙なクエスト』はめでたく完了と相成った」
「おめでとうございまーす!」
「おー、よかったじゃねえか」
あれでクリアということは、おそらく崖崩れのところの生き埋めに遭った聖火教徒っぽい負力に祈ってきたから。
となるとミスティさんにも早めに知らせておきたいな。
マウ爺は、少し照れ臭そうに顎を触っている。
「レベルが上がったのは何年ぶりだったかの……」
マウ爺のレベルはおそらく四〇前後くらいじゃないかな。
普通はそのクラスまで行くと、なかなかレベルって上がらないものだ。
人形系レア魔物を倒す経験値効率って異常。
「久しぶりに冒険者としての楽しさを思い出したんじゃねえか?」
「楽しさか。確かにの」
ヴィルがマウ爺にくっついている。
心地いいんだろうな。
「もう、後進を育てることくらいしか楽しみはないと思っていたが」
「あっ、今日で月が変わったんだったわ。そろそろ次の新人が来るんだよ」
「よくチェックしてるよな。世話好きなのか?」
「慈悲が溢れちゃうね。移民の中から選ばれるらしいんで、絶対に脱落させたくないんだ」
うまいこと育てば、移民の中で『アトラスの冒険者』の認識も高まる。
いろんな経験を積んだレベルの高い者がいれば、サブローさんの次のリーダー候補にもなり得るってゆー利点もある。
でも間違って脱落させちゃうと、大事な時に何遊んでやがったんだテメーってことになっちゃうしな?
「あんた、新人の情報はやたらと早いよな。チュートリアルルームで聞いたんだろ?」
「うん。マウさんが指導してくれるなら助かる」
「神経痛が悪化しちまうぞ? ユーラシアが面倒見ればいいじゃねえか」
「うーん、でもあたしだとどうしてもパワーカード勧めたくなっちゃうんだよね」
パワーカードしか使ったことないからな。
他の装備品の利点がイマイチわからん。
「じゃああんた、マウ爺の神経痛治せないのか?」
「えっ?」
根本的な解決方法きたぞ?
可能ならマウ爺も身体が治って嬉しいし、新人さんもマウ爺の指導を受けられて嬉しいってことか。
あたしの好きなウィンウィンだ。
しかし?
「神経痛ってどんなやつのこと? あたし知らんのだけど?」
病気じゃ治せないぞ?
「俺も知らねえ。だが治せるところ全部治しゃいいじゃねえか」
「おおう、大雑把だけど真理だな。……パッと見、左肘に古傷があるねえ。可動範囲が狭くなってるけど、今はもう痛みはないと思う」
「驚いた。嬢は身体のことまで察知できるのか」
「レベルが上がったら、身体の魔力の流れが見えるようになったんだとよ。で、神経痛の方は?」
「サッパリわかんないな。他は普通に見える」
とゆーか、魔力の流れに滞りがないということだが。
「神経痛って、どんな痛みが出るんだ?」
「左足がビーンと痺れたように痛み、しばらく続くな。天気や体調にもよるんじゃが。うっ、来た……」
マウ爺が左足を押さえる。
しかしこれは?
「あっ、わかった! マウさん、うつ伏せに寝てくれる? クララ、手伝って」
「おい、一枚シートか何か貸してくれ」
マウ爺を寝かせ、腰にクララのハイヒール!
「……うん、大丈夫だと思う。マウさん、どお?」
「おう、ウソみたいに痛みが消えた!」
マウ爺大喜びだ。
「原因腰なのかよ? 足じゃなくて?」
「左足に魔力が流れにくくなる原因は腰だったよ。いつもじゃなくて、何かの拍子に流れなくなるってことみたいだけど」
詳しい理屈はわからんよ。
あたしは医者じゃないもん。
ただ腰が原因で足に痛みが出る、常に症状が出るわけじゃないとゆーもんがあることは覚えた。
「嬢よ。助かったぞ!」
「ついでだから左肘も治しとくね。クララ、お願い」
「はい。ハイヒール!」
「おお、身体が若返ったようじゃ!」
「よかったねえ」
マウ爺が元気だとあたしも嬉しい。
「何か礼をしたいが」
「今度の新人さんの面倒みてくれると嬉しいな」
「む? 嬢への礼にならんじゃろ?」
「十分だってばよ」
マウ爺が手伝ってくれるなら、これほど楽なことはない。
信頼感があるよ。
とゆーか新人がギルドまで来たら、マウ爺の対魔物戦闘講座を受けてもらうのがいいかもしれないな。
「新人がダンのようなきかん坊だった時は、嬢も手伝ってくれい。よろしく頼むぞ」
「その時はビシバシやっちゃおう」
「ビシバシやっちゃうぬ!」
「ムチとムチかよ。俺みたいなやつが可哀そうだ」
ハハハと笑い声が響き、夜が更けてゆく。




