第805話:エルマの絵
――――――――――一五四日目。
翌朝、凄草の株分けをしながら皆と話す。
「あのツバキであるか? 種からたくさん油が取れるのである」
「へー、油がウリだったのか」
以前、ザクザク宝箱で手に入れたツバキの苗のことだ。
どの辺がお宝なのかわかんなかったやつ。
バアルの説明でようやく納得できた。
ただ花が奇麗なだけのツバキだったらどうしようと思ってたけど、油がたくさん取れるとなれば話は別だ。
「しかも多花性なのである。かなり有用であるぞ」
「大悪魔のお宝だけあるなあ」
「ユー様。ツバキの油は食用にも薬用にも使える高級品です。ぜひ増やしましょう」
「じゃ、得られた種は取っとくことにしようか」
「いや、実生だと品質がバラつくぜ? 増やすなら挿し木の方がいい」
カカシの意見にクララも同意する。
「私もそう思います。ある程度木が大きくなるまでカカシに任せ、挿し木で増やしてゆきましょう」
「専門家には従おうじゃないか」
質のいい油は御飯がおいしいし、いい石けんにもなる。
増やして損はない。
高級だと輸出品にできるかもしれないし。
ドーラの強みは人口の割に肥沃な土地が広いということだ。
帝国も農業国で穀物の生産力は十分らしいけど、工芸作物まで十分ってことはあるまい。
ドーラ国内の食料生産に目処がついたら、輸出品加工品としての工芸作物にも力を入れていきたいもんだ。
「楽しみだね。さて、あたしはイシュトバーンさんとこ行ってくるよ。留守番よろしく」
「「「了解!」」」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「アルアさん、こんにちはー!」
「よう、アルア。久しぶりだな」
「はいよ、いらっしゃい」
イシュトバーンさんを連れて、アルアさんの工房へやって来た。
懐かしそうに工房を見回すイシュトバーンさん。
「足を悪くして引退したと、風の噂に聞いたんだが、間違いだったかい?」
「いや、間違いじゃないぜ。この一〇年くらい一人じゃ立ち上がれもしなかったんだ。精霊使いに治してもらったんだぜ」
「アンタ、古傷の治療もできるのかい?」
「あたしじゃなくてクララだよ。『ハイヒール』を使えるから」
「ユーラシアは悪くしたところをピンポイントで見極められるんだぜ」
「魔法医みたいだねえ」
体内の魔力の流れを見て悪いところを知るのは魔法医の素養らしい。
魔法医に会ったことないから知らんけれども。
でも体内の魔力の流れを感じ取るって、アトムみたいな『魔力操作』の固有能力持ちか、あるいはあたしみたいなカンのいい人間に限られるんじゃないの?
かつ結構なレベルが必要だと思うし、魔法医ってそんなにあちこちにポロポロいるもんなのかな?
「ちょっと来るの早かったかな?」
「まあね。でももうじきエルマも来る時間だよ」
アルアさんも嬉しそうだし、よかったよかった。
「師匠、ユーさん、そちらのお方は?」
「今は引退してるけど、ドーラの大商人のイシュトバーンさんだよ。彼はミスティさんの生まれ故郷である、帝国本土テンケン山岳地帯の聖火教徒ゼンさん」
「ほお? 遠くからようこそ。精霊使いに連行されてきたのかい?」
「連行ゆーな。親切で連れてきたんだわ」
「いやいや。山ん中には魔物が多いんですが、向こうじゃ武器の所持は禁止されてるんでさあ。そんな時、ユーさんにパワーカードを見せてもらいやしてね。これだ、と」
イシュトバーンさんが違和感を覚えたようだ。
「ん? じゃああんたは、飛空艇に攻められる前にドーラへ来ていて、ここでパワーカード職人を志したってことかい?」
なるほど、そこが疑問だったか。
イシュトバーンさんの頭はよく情報が整理されてるなあ。
パラキアスさん辺りからも話を聞いてるんだろうけど。
「テンケン山岳地帯の聖火教徒達は、飛空艇が山に来た日にミスティさんがドーラに連れてきたんだ。でもゼンさんだけはもっと前からパワーカードの職人修行を始めていたの」
「ほお、奇特なことだな」
「同郷の人達は今、アルハーン平原本部礼拝堂のところの集落にいるの。でもゼンさんは続けて職人やってくれてる。マジでありがたい」
「カード職人が少ないのは納得がいかねえ。もう少し流行ってもいいんだが」
「わかる。今いくらでも仕事があるのにな」
あったかパワーカードはいいおゼゼになるだろうからな。
あ、来たか?
「ごめんなさい。お待たせしてしまいましたか?」
エルマが恐縮する。
「いや、今来たところだよ。こちらがイシュトバーンさんね。彼女がエルマ。カード職人と冒険者の兼業」
「さすがに精霊使いの妹分だな。可愛いじゃねえか」
「ありがとうございます。よろしくお願いします!」
「じゃあ、早速ポーズをとってくれるか」
「はい!」
ふむ、立ち姿半身、左手を前に出して『スラッシュ』のパワーカードを起動、か。
格好いい。
「何が始まるんだい?」
「絵を描くそうだよ。しかしアタシも詳しいことは知らないんだ」
「画集を売るの」
「「画集?」」
まあそれだけじゃ伝わるまい。
「こんなの」
おっぱいさんの絵を見せる。
「こ、こりゃあ魅力的だな」
「イシュトバーンさんらしい絵だね」
ゼンさんガン見だし、アルアさんは苦笑してら。
「二〇人の女性の絵を集めて売るんだ」
「はっはーん、これは売れるぜ」
「でしょ?」
「いくらで売るんだい?」
「六〇ゴールドで」
「「六〇ゴールド?」」
驚く二人。
「メチャクチャ安いな!」
「安く売るってゆー企画なんだ」
「破格だねえ。利益は出るのかい?」
「うーん、生産・流通・販売では各業者さんに儲けが出るけど、あたしはほとんど儲かんないとゆーか」
「あんた自分は儲からねえ話ばっかりじゃねえか」
「あたし今は冒険者活動の方で儲かるからいいんだ。ドーラ人を金持ちにしといて、将来がっつり回収すりゃいいし」
イシュトバーンさん笑ってら。
エルマの絵も大分描けてきた。
なるほど、こうして絵になると、カード起動で実体化したブレードが魔法みたいに見えるな。
そしてどう見ても愛らしくも勇ましい少女絵なのに、何故かえっち風味が加わるもはやお馴染みの謎技術。
「不思議だな。どうしてエルマが絵になると色っぽくなるんだ?」
「ミステリーだねえ。でもこの謎技術がある限り、画集はやたらと売れちゃうんだなあ」
頷いているアルアさんとゼンさんの二人。




