第804話:肉弾戦とは
「サイナスさん、こんばんはー」
夕食後に、毎晩恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「午前中に例の赤眼族の集落に行ったんだ」
『要するに肉を押しつけてきたんだな?』
「そうそう。連中のあたしに対する借りは段々大きくなる」
アハハと笑う。
「昨日の段階ではまだ赤眼族って確定はしてなかったんだけど、今日で確定した」
『ふむ? 昨日の肉で既に大分食い込んでるものだと思ってたよ。ユーラシアにしては慎重じゃないか』
「何か本に赤眼族は他所者と仲良くしないみたいなこと書いてあるじゃん? 慎重にもなるわ。あたしが肉弾戦得意みたいにゆーな」
『肉弾戦って肉をネタに翻弄するって意味じゃないからな? もっとも本来の意味の肉弾戦でも君が遅れを取ることはないだろうけど』
あれっ? つまりあたしは肉弾戦得意だった。
もっとも赤眼族に関してはまだわからないことが多い。
そしてどうやら異世界からの追放者である可能性が高くなった。
さすがのあたしでも慎重になるわ。
「お肉たくさん置いてきちゃったからさ、明日は行くのやめようと思って」
『要するに解体精肉を手伝わされるのが面倒なんだな?』
「そゆこと。肉弾戦に付き合いきれない」
アハハ。
サイナスさんはよくわかってくれるなあ。
『開拓地については順調だ』
「天気のいい日が続くから助かるねえ」
『ああ。ドーラは暖かいと、口々に言われるな』
暖かいって。
帝国本土より気温は高いだろうけど、冬だぞ?
「……あれ? ひょっとして帝国の中でも寒い地域に住んでた人が、移民として来てるのかな?」
『オレも聞いてみた。作物の出来にあまり期待できない場所に住んでいた、貧しい人々が移民として来た、ということらしい』
「豊かな実りを期待できる地域の人は来ないと思ってたけど、寒い場所の人ってのは頭から抜けてたな」
作物の種持ってきてもらったとしても、気候に合ってなかったか?
「お肉足んなくなるようだったら、早めに教えてよ」
『ああ、わかった』
灰の民の村からも野菜は出してるんだろうけど、基本的には商品だ。
無償で提供できる数なんか知れてる。
春までは何とか、あたしの持ってくお肉とお宝ダイコンで食い繋いでもらわないとな。
「来月の『アトラスの冒険者』の新人は、移民の中から選ばれるだろうって」
『ん? 確度の高い話かい?』
「本部に近い係員が言ってたから、方針が急に変わらない限りそうなるよ」
サイナスさん考えてますね?
『……移民達に理解してもらえるだろうか?』
「難しいかもね。今帝国に『アトラスの冒険者』はいないんだよ。全部ドーラ人で。帝国人でも『アトラスの冒険者』を知ってる人はいるんだけど、伝説上の存在みたいな扱いなんだ」
『『アトラスの冒険者』の知名度だけでなくて、皆が一丸となって開拓してるところで、一人違うことやってるというのはちょっとな』
「その辺は説得すればどうにでも」
あたしが散々お肉を振舞ってるのを知ってるわけだから。
噂の美少女精霊使いは『アトラスの冒険者』なんだってよってことは、サブローさん辺りから広がるだろうし。
『要するに悪魔的説得だな?』
「何で悪魔的なの!」
「貴女は吾よりも悪魔的なのである。尊敬するである」
バアルのカットイン。
こら、サイナスさん大笑いすんな。
『大悪魔に尊敬されてるじゃないか』
「カリスマってやつかなあ」
違うのかなあ?
どうでもいいけど、バアルはすぐにうちに馴染んだな。
まだ四日しか経ってないのに。
「ところで札取りゲームは今日から販売なんだっけ?」
『ああ』
「どうだった? 売れた?」
『売れたぞ。白の民ルカ族長が子供達に連れられて来てな、五セットお買い上げだ』
「五セット? たったの?」
おかしいな?
実演販売なら、もっと興味持ってくれる人多いはずだが。
「どうやって売ったの?」
『ユーラシアの言ってた通りだぞ? アレクの実演、ハヤテが看板持ち』
「何でだよ! ゲームなんだから、一人の実演で面白そーに見えるわけないだろ!」
ビクッとすんな。
『い、いや、ケスがいないから、どうしてもそうなるんだが』
「白の民の子達来たんでしょ? 捕まえて遊ばせるんだよ。で、呼び込みするの。そうすりゃ何だ何だって人集まるから」
『わ、わかった』
もーしょうがないなあ。
「明後日、画集の打ち合わせでヨハンさんともう一人、本とか紙とかに強い商人さんに会うんだ」
『その商人にも札取りゲームを紹介するつもりだったのか?』
「うん。識字率が上がると儲かる人だからね。協力してくれると思う。以前にドーラの識字率上げたいって話はしてあるし」
ヘリオスさんはやり手だ。
必ず食いついてくる。
「『カラーズで大人気の』って煽り文句が使えなくなっちゃったじゃないか」
『まことにすまん』
「『カラーズで話題の』って持ちかけるから大丈夫だけど」
『ハハッ、しっかりしてるな』
そりゃしっかりしてるよ。
あたしを誰だと思ってるんだ。
ユーラシアさんだぞ?
「明日、アルアさんとこにイシュトバーンさん連れていくんだ。エルマの絵描いてもらうの」
『アルアさんとイシュトバーン氏は面識があるのか?』
「古い顔馴染みらしいよ。イシュトバーンさんは旅商人時代にパワーカード使ってたんだ。その関係かもしれない」
『ほう? 双方にとって懐かしいだろうな』
「多分ね。いい機会を提供してやった」
絵よりも思い出話がメインになるかもな。
いいことだ。
仲介してやれるのはあたしくらいだし。
「午後は他人のクエストに連れてってもらうんだ」
『助っ人か?』
「いや、違くて。現役最年長の『アトラスの冒険者』が、二〇年以上クリアできないでいるクエストがあるんだって。その人が奇妙なクエストって言うから、興味あるじゃん?」
『物見遊山のピクニックだな?』
「うん。楽しんでくるつもり」
オチ役ダンもついて来るしな。
こういうのを駆け出し芸人冒険者ボニーに見せてやりたかったが、ちょっと必要とされるレベル的に難しい。
あたしも慎重派だから、魔境クラスの魔物が出るとわかってる自分の知らんエリアに、シロートさんを連れていく気はない。
「じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、ゆっくりおやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日は……あ、凄草株分け日だ。




