第802話:マウ爺最後のクエスト
相当変則的な『地図の石板』であることには間違いない。
何なんだろうな? あれ。
ダンが言う。
「その石板、どうせイレギュラーなやつなんだろ? どこで手に入れた?」
「わかっちゃう? 鋭いね。例のバアルの宝箱クエストだよ。最後の宝箱から出たんだ」
「ふむ、嬢が悪魔バアルを捕捉したことは耳にした」
「バアルが持ってたやつなんだろ? 何か知らねえのか?」
「石板はいつの間にか手元にあったって言ってたな。転送魔法陣を使う資格については知らないって」
胡散臭げな顔ですね?
いや、イレギュラーな『地図の石板』はそーゆーのが多いんだって。
「本当かよ?」
「悪魔にとってウソを吐くのは恥ずかしいことぬよ?」
「バアルは大事件を引き起こす悪魔かもしれないけど、ハッキリものを言う子だよ」
「ああ、やつの性格ならな」
「ふざけた誤魔化し方する子じゃないなー」
「ということは、あんたより信用できるのか」
「どーゆー意味だ。訂正を要求する」
あたしは信用できる上に可愛くて品があって可憐だわ。
マウ爺が笑いながら言う。
「ギルドの職員やチュートリアルルームの係員でわからぬことなら仕方あるまい」
「そーだねえ」
マウ爺の言う通り、他に情報が出るとするならギルドの職員かバエちゃんだろう。
あとはダンテの言ってたほこら守りの村のマーシャか。
おっぱいさんとバエちゃんの比較なら、おっぱいさんの方がしっかりしたこと教えてくれそう。
「ん? あんた拘ってるわけじゃねえのか?」
「正規に手に入れた『地図の石板』じゃないからね。クエストの要件を満たさない、不完全な石板もあるのかもしれないし」
「あんたの伝説ロードに立ち塞がる壁かもしれねえじゃねえか」
「だったら美少女パワーが打ち破るだろうし」
皆で笑い合う。
「転送先の人の個人情報とかとびきりの秘密とかに関わる魔法陣かもしれないから、あたしがわけのわからん転送魔法陣を持ってることは秘密にしといてね」
「おう」「うむ」
これでいいだろう。
……気にしてないわけじゃない。
あの謎の転送魔法陣、あたしのカンは重要なものだと告げている。
同時に扱いには十分注意しろと。
「石板クエストと言やあ、マウ爺の最後のやつはどんなやつだ? まだクリアしてねえやつがあるんだろ?」
「ダンにしてはそそる質問だね。あたしも興味あるなあ」
百戦錬磨の冒険者マウ爺の最後の転送魔法陣だぞ?
面白いクエストに決まってるだろ。
マウ爺が苦笑する。
「もう二〇年以上もそのままのクエストじゃ。いや、たまには訪れているゆえ、そのままというのは正しくないな」
「内容は?」
「奇妙なクエスト、じゃな」
マウ爺の表情からは何も読み取れない。
むーん?
「ねえダン。マウさんが奇妙って言っちゃうクエスト、面白そーだと思わない?」
「思う。後学のために連れていってもらえねえか?」
「おっ、何も学ばないクセに『後学』なんて言ってるぞ?」
「あんたも『後学』って言葉を使えなくなるぞ?」
互いに牽制しながらの笑い合い。
「行ってみるか? 嬢とダンなら危険もないじゃろう。いつがいい?」
「あたし、明日の午後なら空いてる」
「おう、いいんじゃねえか? マウ爺の都合はどうだ?」
「よし、明日の昼にギルドへ集合じゃな」
他人のクエストにお邪魔できるのはワクワクするなあ。
実に楽しみだ。
「どんなところかな? 何か準備が必要になる?」
「フィールドじゃから特別な準備は必要ない。魔物は魔境オーガ帯からワイバーン帯くらいの強さのものが出現する」
ふむ、割と強い。
マウ爺の最後のクエストなんだから当たり前っちゃ当たり前だが。
「わかった、明日昼だな」
「じゃ、あたしも帰りまーす」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「ただいまー」
「ただいまぬ!」
「おかえりなせえやし」
うちの子達が迎えてくれる。
「予定がいくつか入ったよ。明日の午前中に、アルアさんとこでエルマの絵を描いてもらうことになった。あんた達には留守番しててもらおうかな。それともアトムは行く?」
「いや、家で待ってやす」
うむ、パワーカード好きのアトムは来たいかと思ったけど。
明日はパワーカードの出番はなさそうだしな。
「マウさんの石板クエストで、二〇年以上クリアできてないやつがあるんだって。明日の午後、それに招待してもらえることになった」
「ベリーインタレスティングね!」
「冒険は血沸き肉踊るぜ!」
冒険者になりたかったダンテとアトムは、こういうの好きなんだろうなあ。
あたしも好きだけれども。
だってロマンを感じるもん。
「明後日の昼、ヨハンさんヘリオスさん交えて、画集についての集まりがイシュトバーンさん家であるよ。御飯食べに行こう」
「「「了解!」」」
「あたしからの報告は以上でーす。こっちでは何かあった?」
クララが言う。
「昨日の『光る石』スタンドですけれども。ずっと光り続けています。体感では光量が落ちたようには感じられません」
「ふむふむ。溜めといた魔力量ってどれくらいになってるかわかる?」
「最大量の半分をちょっと割ったくらいでやすぜ」
ほぼ一日で三割くらい魔力を消費した勘定か。
なるほど、確かに『光る石』の魔力を光に変換する効率はかなりいいな。
「とゆーことは、使う黒妖石の小石の量は五分の一くらいか、それ以下でも良さそうだね」
黒妖石の量が五分の一で足りるなら、かなり小さくてシンプルな台でいいようだ。
試作品の『光る石』スタンドでは大きくて重いわ。
贈答品用途には使いづらいわ。
「でも暗くなっちゃうと使い勝手悪いのか。どれくらいで実用に耐えなくなるほど暗くなるか、もう少し観察続けてね」
「はい」
「そんなとこかな。あ、明日のマウさんのクエストにはバアルも連れていきたいけど、いいかな?」
籠の中のバアルが首をかしげる。
「魂胆は何であるか?」
「超ベテランの冒険者がクリアできないクエストだぞ? 大悪魔の力が必要かもしれないじゃん」
「うむ、吾に任せよ!」
「よろしく頼むね」
バアルの知識が役に立たなかったとしても、マウ爺だってバアルを見てみたいだろうし、話のタネになる。
無限ナップザックの中に入れとけば、戦闘でダメージ食うこともあるまい。
「よーし、あたしは版画屋行って絵置いてくるね。留守番お願い」
「「「了解!」」」




