第797話:赤眼族の集落再び
――――――――――一五三日目。
「おっはよー! 待たせちゃった?」
『焼け野原』の転送先痺れ部屋の外には、既に台車を用意した人が幾人か待っていた。
台車足りなくない?
いや、まあ二〇〇人足らずの村ならこんなものか。
「いやいや、今日も来てくれたんだな、精霊使いの人」
「え? そりゃ来るよ。約束したじゃないか。疑われるのは心外だなー」
「心外だってのは、ウソ吐いたと思われるところか?」
「お肉に対して不誠実だと思われてたところ」
アハハと笑い合う。
うむ、いい雰囲気だ。
いつも思うがお肉はラブアンドピース、あーんどジャスティス。
「コブタマンだよ」
「こんなに持ってきてくれたのか」
「何言ってんの。ここにあるのは昨日と同じ量だけだよ。どんどん持ってくるから、どんどん運んで」
「ああ、わかった!」
結局運びきれなくて、残りはクララが『フライ』で運搬したわけだが。
「はい、注目! 捌き方を教えるよ。クララ先生、お願いしまーす」
神技炸裂。
あっという間に解体されるコブタマン、そして目が点になる人々。
あんたら昨日も見てなかった?
何度見ても信じられない妙技。
「このように、約一〇秒で肉になります」
「「「「いやいやいやいや!」」」」
「しょうがないなあ。もう一度見せるから覚えるんだよ? クララ、ゆっくりめにお願い」
このやり取りは何度やっても飽きないなあ
村人達も目を輝かせてるし、よかったよかった。
「精霊使いの人、こっちの箱は何だい?」
「あっ、これ聖風樹製の箱なんだ。中に入れとくと鮮度が落ちにくいの。あげるから保存に使って」
「おう、色々悪いな」
「困った時はお互い様だとゆーのに。それからあたしの名前ユーラシアね。覚えといて」
「わかった、ユーラシアありがとう」
よーし、作業邪魔しちゃ悪いし、帰るかな。
この前の移民の時の有様を見ると、村人総出で一日仕事になるだろうし。
「おい」
振り返ると昨日の子だ。
と、村長?
「えーと、ミサイルだったっけ?」
「ミハイルだ!」
「あとちょっとだった。惜しかったなー」
「惜しいもクソもあるか!」
ミサイルの目を見つめる。
「いいかい? あたしは非重要人物の名前は覚えられないんだ。あたしに正確な名前を呼ばせたかったら、大物になりなさい」
「お、おう」
ハハッ、責任押しつけたった。
またユー様はピュアな子供を煙に巻いてとかいう視線をクララが寄越すけど、大体合ってる。
村長が言う。
「ミハイルは私の息子でしてな」
「言われれば、顔立ちは何となく似てる気もする」
ミサイルは結構やる子だと思う。
「大変失礼いたしたようで」
「失礼だったかな……大体あたしに対する当たりって、皆あんなもんの気がする」
槍向けるか向けないかくらいの差しかないぞ?
「こいつもかなり失礼だった!」
「あんた納得してたじゃないか。あとになってからギャースカ文句垂れるのは、誇り高き戦士に相応しくないぞ?」
「ぐっ……」
悔しそうな顔が生意気で可愛いな。
「ところでここはドーラ大陸の、ノーマル人が住んでる領域の西でいいのかな? 転送で来ると、位置がよくわかんないんだけど」
村長が頷く。
「ああ、間違いない」
「森エルフ達が赤眼族って呼んでるけど、その呼び方は失礼じゃないの?」
「赤い瞳は我らが誇りだ! 赤眼族と呼べ!」
ミサイルが得意そうだ。
赤眼族で確定。
……しかし赤眼族の集落がいくつあるか知らんけど、あんまり他の亜人との付き合いはないんだろう。
ドワーフやエルフも追い返すって言ってたし。
「父上、油断してはダメだ! こいつは何かの魂胆があってここに来たに違いない!」
「ハハハ」
「よくわかったな! 美少女精霊使いの取り立ては世界一厳しいぞー!」
「「えっ?」」
こらミサイル。
何であんたが驚くんだ。
「とは言っても、火事で焼かれて食べ物にも困ってるところから、毟り尽くしてやろうとはさすがに思ってないから。あたしもたまに阿漕だって言われるけど、実に心外」
「調子のいいことを言って、安心させる戦法だな?」
「貸しを押しつけといて、あとで取り立てる戦法だぞ?」
村長が苦笑する。
「いや、いずれにせよ礼はせねばと思っていたのだ。しかし今の我々に、君の恩に報いるほどのものは何もない」
「仲良くしてよ」
「「えっ?」」
わからないか。
「こっちの文化とか習俗とか。道具とか作物とか、あたし達の知らないものを教えて欲しいんだ」
「何でそんなものを教えて欲しいんだ!」
「知らないものを知ると、おゼゼになったり生活が豊かになったりするんだぞ?」
「ウソだ!」
「ちょっと見てなさい」
『アンリミテッド』のパワーカードを起動する。
「あっ、武器? 隠し武器なんか持ってたのか?」
「冒険者が丸腰のわけないじゃん」
「お、おう」
「パワーカードって言うんだ。装備者の魔力で起動する装備品だよ。あたし達の方でもミサイルが持ってたような普通の武器が主流だけど、あたし達はこれ使ってるの。軽くて邪魔になんないしね」
「……ふうん、変わってる」
「知らなかったでしょ? こういうものがあることを」
「知らなかった」
しげしげとカードを見つめるミサイル。
「いろんなのがあるんだ。こっちは攻撃が遠隔化するカード、攻撃が当たると相手を弱体化させることのできるカード、防御力上げて暗闇を無効にするカード……」
おーおー、目キラキラしてるじゃんか。
男の子はパワーカード好きだなあ。
「七枚まで同時起動できるんだ。組み合わせの工夫で戦うものなんだよ。面白いでしょ?」
「面白い!」
「知らないものを知るって、こういうことだぞ? 知ってるだけで丸儲けだ。あたしは特においしいものに興味があるなー」
頷く二人。
まーこの集落は火事で焼けちゃって今年は大変だろうけど、ゆくゆくは独自の食文化とか教えて欲しいな。
「よくわかった!」
「よおし、さすが誇り高き戦士! あたし達今日は帰るね。近い内にまた様子見に来るよ」
「ああ、本当に助かったよ」
「また来い!」
ハハッ、これ以上いるとお肉の処理を手伝わされそうだからな。
村人皆で頑張ってちょうだい。
転移の玉を起動し帰宅する。
……クエスト終了のアナウンスはない。
してみるとやはり赤眼族の監視のクエストの可能性が濃厚になってきたな。
どうするとクリアだかわからんから、時々来るべき。




