第795話:赤い瞳の住人達
レッツファイッ!
少年のなかなか鋭い突き! 軽く躱して槍を叩き落し、後ろに回ってえいやと頭上に持ち上げる! アイウィン!
低レベルなのになかなかやる子だったなあ。
「降参する?」
「するわけない! 赤き瞳の戦士は誇り高いのだ!」
赤き瞳の戦士か。
どうやら赤眼族で間違いなさそうだな。
赤眼族関係は、いつかはあたしのところに振られるだろうと思ってたクエストだ。
バアルのザクザク宝箱からの変化はさすがに読めなかったけど。
「ふーん、じゃあ行こうか」
「どこへだ!」
「畑の方。察するに肥溜めはあっちでしょ? 降参しないなら泳がせてやろう。肥溜めダイビングからの肥溜めスイミングだ」
「やめろ!」
「やめない。誇り高き戦士に手加減は無用だから」
もーうちの子達笑ってんじゃないか。
「まいった! 降参する」
「そーか、残念だなあ。ちょっと肥溜めスイミング見たかったのに」
少年を降ろしてやる。
もーちょっとエンターテインメント要素が多くなるかと思ったけど、赤目の少年の見切りが早かった。
見切りが早いのは長所の内だ。
「何でも聞け」
「あんたの名前は?」
「ミハイルだ」
「『アトラスの冒険者』はどうして敵なの?」
「それは……」
初めてミハイルが逡巡した様子を見せる。
「……昔から言われているんだ。それ以上のことは知らない」
「ふーん、過去の『アトラスの冒険者』に何かされたのかもしれないねえ。じゃ、あんた達の困りごとって何なの?」
ミハイルが俯く。
「……火事があったんだ。食料庫が焼けてしまって食べ物がない」
「そーゆーことは早く言いなよ。食料持ってきてあげるから、話の続きはあとだ」
「いらん! 俺達は他所者の施しなんか受けない!」
「あんたはアホか。何で勝者が敗者の言うことを聞かなきゃならんのだ。三〇分でお肉持って戻ってくるから、あんたは村人に伝えて。炊き出し用のデカい鍋かなんかがあれば用意してもらって」
返事を待たずに、転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「お待たせ!」
とりあえずコブタ一〇トンを狩って持ってきた。
おー村人集まってるじゃないか。
やはり皆の瞳が赤い。
赤眼族の集落で間違いなさそう。
「ひ、飛行魔法?」
「何者なんだ!」
「だからノーマル人と精霊だってば。あたし達が何者かより、お腹を満たす方が先だわ。そのデカい釜で湯沸かして」
クララの神技であっという間に骨と肉になる様子に驚く村人達。
どこでもこの技は驚かれるなあ。
骨入れてダンテの火魔法による補助で沸騰させ、骨取り出してお肉を投入、煮えたところで灰汁掬って塩入れて……。
「よーし、お肉たっぷりスープのでき上がり!」
「「「「「「「「おおおおおおお!」」」」」」」」
「疑問は後だ! まず食べようじゃないか! いただきまーす!」
「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」
◇
「やー食べた食べた。もー入んない!」
二〇〇人弱の村だったようだ。
皆が腹一杯になって、あたし達もいただいてまだ余るくらいの量だった。
ごちそーさまです。
一人の男が話しかけてくる。
「私がこの村の村長だ。正直助かった、礼を言う」
「いいのいいの。困った時はお互い様だよ。火事で食料庫が焼けちゃったんだって?」
「ああ、二ヶ月ほど前だ。焼け残った食料を細々と食い繋いできたが、おそらくこのままだと、春になるまでに餓死者が出ていた可能性もあった」
「ヤバかったなー」
「ところで君達は何者なんだ?」
「あたし達は『アトラスの冒険者』なんだ。ミハイル君に敵認定されたけど、少なくともあたし達は敵じゃないから」
ズバッと言ったった。
『アトラスの冒険者』が敵だなんて思われてると、この先やりにくいわ。
誤解は解いとくべし。
「ところで『アトラスの冒険者』は、ここの赤い目の皆さんにとって何で敵なの?」
「古くからの慣習だな。一〇年おきくらいに『アトラスの冒険者』のメンバーが来るが、大体追い払っている。もっともエルフやドワーフが来ても追い払っているがな」
ふむ、エルフやドワーフがいる地区か。
タレ目エルフテラワロスの言ってたことと矛盾がないな。
やはりここはドーラのノーマル人居住域からずっと西の地区だと考えてよさそう。
「まああんた達の敵についてはどうでもいいや。食料にどんだけ余裕あるの? 正直なところを教えて」
「余裕? ないな、全く。近くの植物の根を片っ端から掘り返して食べてるくらいだ。虎の子の家畜を少しずつ潰して分け合っている」
「あたしも家畜は当てがないんだよな。明日朝に今日の一〇倍くらいのコブタマン持ってきてあげるから、保存食作って。家畜は生かして」
村長が意外そうだ。
「何故、君達は我々に助力してくれるんだ?」
「『アトラスの冒険者』っていうのは……」
設置される転送魔法陣とクエストについて説明する。
「ほう、つまり我々を救うことが君達の実績になるわけか。するとまた新たなる場所へ行けるようになると?」
「うん。で、転送先の中には、さっきのおいしい魔物が狩れたり儲かるアイテムをドロップで手に入れられたりする場所もあるから、とにかく多くの転送魔法陣持ってると得なんだよね。運営側は運営側で、所属する冒険者が売るアイテムを転売したり、依頼を斡旋したりして儲けてるの」
「なるほど、『アトラスの冒険者』の正体はわかった」
村長頷いてるけど、運営が赤字体質なのは内緒だ。
いらんこと突っ込まれかねない。
「丘の向こうに四角い建物あるでしょ? 縞模様の」
「ああ、一ヶ月程前に建った、近付くと痺れる不思議な建物だな」
「近付くと痺れる? マジか」
「知らなかったのか?」
「あたし達もクエストが配られるだけだから、建物がどうなってるとか知らないんだよね。調べてもいなかったわ。中から外へ出る分には問題なかったし」
てことは、外から近付くとあの中に入れないのか。
「ま、いーや。とにかくあたし達の転送先があの建物の中なんだ。明日の朝、じゃんじゃんお肉持ってくるから、痺れない位置くらいで台車待機させててよ。保存食作っとこう」
「うむ、わかった。助かる」
「じゃ、あたし達帰るね」
村人に宣言する。
「明日もお肉の日だぞーっ! 期待しててくれよなーっ!」
「「「「「「「「うおおおおおおお!」」」」」」」」
転移の玉を起動し帰宅する。




