第792話:海水の転移装置試作品を注文
版画屋さんが言う。
「以前の『クララ』みたいに試し刷りってわけじゃねえんだろう? 版代もらっちゃ、あんたの儲けにならねえだろ」
計算上は二〇〇枚以上売れれば儲けになるけど、カラーズ内だけの販売でそんなに売れるかどうかは微妙だからな。
「いや、いいんだ。この絵の子はうちの悪魔なんだけどね。皆に認知してもらうことが、あたしにとっては十分なメリットになるから」
「ああ、聞いたことある。そうか、これが精霊使いの悪魔か」
「会ってみる? ヴィルカモン!」
赤プレートに呼びかけ、しばらくしてヴィルが出現する。
「呼ばれて飛び出てヴィル参上ぬ!」
「おお、可愛いな!」
「可愛いぬよ? 御主人、この人は誰かぬ?」
「版画屋さんだよ。ヴィルの絵も刷ってもらおうね」
「よろしくお願いしますぬ!」
版画屋さんの目尻が下がり、ヴィルの頭を撫でてくれる。
今までも時々披露してはいたけど、ヴィルの絵が売られるようになれば、カラーズでヴィルを自由に連れ回してよさそう。
「札取りゲームの印刷はどうなっていますか?」
「注文された六〇〇セットの内、四〇〇は完成してるぜ。明日の昼過ぎには全て引き渡せると思う」
「一〇〇だけ今もらっていっていいですか?」
ほう、アレクは早速実演販売してみる気か。
やる気あるね。
「もちろんだ。残り五〇〇セットの引渡しはいつにする?」
「天気が良ければ明後日の午前中に」
チラッとダンテの方向いたら頷いてる。
天気は良さそう。
いいだろう、少々遅れても次回の輸送隊には十分間に合うし。
「じゃーねー」
「おう、またな」
版画屋さんを後にする。
「ユー姉、一〇セット渡しておけばいいんだね?」
「うん、とりあえずは十分」
綺麗にでき上がった。
宣伝と販促に使おう。
輸出のこともあるから、早めにプリンスには紹介しときたいな。
「類似品が出回る前にがーっと売っておきたいんだよなー。でもこっちの生産力の問題もあるから難しいね。貿易商に早く会えないかなー」
「気が早いな。もう輸出のことを考えてるのかい?」
「サイナスさんは早いって言うけどさ。仕掛けのタイミングを間違うと儲けが全然違ってきちゃいそうだからね」
「ユーラシアさんはがめついだべ」
「がめついゆーな。札取りゲームは戦略商品だと言ってるだろーが。あたし達が儲けられるかどうかは、ドーラの将来に直結するのだ。気合い入れろ!」
札取りゲームには識字率の向上とドーラの外貨獲得という、二つの使命が課せられている。
必ずヒットさせなければならんのだ。
「次、赤の民の村だね。待ちに待った赤の民の村だね」
「サイナスさんは何で二回言ったかな?」
「そうですね、楽しみです」
「ボクも楽しみだ」
「楽しみだぬ!」
サイナスさん、クララ、アレクにヴィルまでもが同調している。
ハヤテもニッコニコだし、解せぬ面晒してるのはあたしの他、アトムとダンテだけなんだが。
少数派だぞ?
「あたしにはわからんものにも需要はあるなあ」
「ユー様も理解してくださいよ。考案者なんですから」
考案者言われても、必要性から考えたわけじゃない。
黒妖石の小石をどう利用できるかって方向から思いついただけだ。
興味がない、商売にもなりそうにないとなれば、どこにモチベーションの源を求めればいいのか。
常夜灯に繋がるアイデアではあるので、一応取り組んではみるけれども。
「火みたいな門だべ」
「ハヤテは赤の民の村初めてだった?」
「ボクも初めてだよ」
「まあ用がないと来ないよねえ」
『光る石』スタンドを頼んだ工房へ。
「こんにちはー」
「おう、精霊使い……」
「何なの? 元気がないね?」
「頼まれてたやつだが、焼きの方はダメだったんだ。割れちまった」
混ぜものを入ると割れやすいという、事前の話だったしな。
やっぱアカンかったか。
「しょうがないね」
「請け負っておきながらすまんな」
「何言ってるの。ダメなことがわかっただけで知見なんだぞ?」
工房の職人さんも謝る必要ないのに。
「で、こっちが乾燥粘土の方だ」
「おお、いいね。これ中に入れた石の量は、焼きの方と同じくらい?」
「ああ、半々だ」
ふむ、あたしが魔力を流し込んでみる。
あ、段々抵抗出てきた。
素の黒曜石の塊と似たような感じだ。
つまりこの辺で最大魔力容量の七、八割ってことのようだ。
「クララ」
「はい」
クララが『光る石』をスタンドに置くと光りだした。
「やった……」
「成功だ!」
サイナスさんとアレクが感動に打ち震えてるけど。
大げさじゃない?
「うん、ありがとう。乾燥粘土でいこう。これの特徴教えてくれる?」
「乾燥粘土の特徴ということかい?」
「そうそう。乾燥粘土って水に強い?」
「水? まあ焼きよりは脆いが、しっかり乾燥させれば問題ないはずだぞ。耐水の塗料もあるしな」
「こういうもの作ってくれる?」
デス爺に描いてもらった海水の転移吸入口用魔法陣と、受け手側ビーコン用魔法陣の設計図、それから黒妖石の小石の袋を渡す。
「要するに乾燥粘土に小石を練り込んだものを板状にして、この模様を彫りつけてから乾燥させて固めろってことだな?」
「そうだけど注意して。これ転移の魔法陣なんだ。うっかり自分の魔力を流し込むと自動で発動するから」
「わ、わかった」
ん、クララ何?
「あ、大丈夫みたい。自動で発動するのは本当だけど、身体ごと持っていかれることはないって。ちょっと引っ張られる程度だって」
「脅かすなよ」
デス爺も安全を考えてくれたらしい。
「これ何するためのものなんだ?」
「海水から塩を作る装置の基幹部分だよ」
「ほう?」
わかってないかな?
「これから移民が来て人口が急激に増えると、塩が足りなくなりそーじゃん?」
「絶対に必要なものだからな。当然だ」
「だから塩を作ろうってことだよ。海水を煮詰めれば塩になるけど、水を持ってくるのって大変じゃん? 自動化しようってこと」
「……つまり海水を塩を作る施設まで転移させてくると?」
「そゆこと」
「えらいことを考えついたな」
「精霊使いは偉いって? まいったなー」
アハハと笑い合う。
「お願いね。いくらになる? いつできる?」
「吸水側と受け手側合わせて三〇〇ゴールドでどうだ? 四日後にはできるぞ」
「じゃ、三〇〇ゴールド払ってく」
「毎度!」
「じゃーねー」
工房を後にする。




