第781話:朝通信
――――――――――一五一日目。
「サイナスさん、おっはよー!」
翌朝ヴィルとバアルをイシュトバーンさん家に迎えにいったあと、一応のヴィル通信だ。
昨晩可愛いあたしからの連絡がなかったことで、サイナスさんが心配してるかもしれないから。
『ああ、おはよう。昨日はどうしたんだい?』
「ペペさんを連れてイシュトバーンさんへ家行ったとゆー出来事がありました。ペペさんがお腹一杯で満足して寝ちゃったの。そうしたらペペさんの眠気を吸ったみたいで、ヴィルもバアルもぐっすり」
『ハハッ、面白いな』
「本当だよ。何で悪魔はこんなに面白いのかな?」
可愛いしなー。
バアルも他所様に迷惑かけるんでなければ、解放してやりたいくらいだ。
「で、ついさっきヴィルとバアルを迎えに行って戻ったとこ。バアルにかかってるのが、一日あたしから離れてると消滅しちゃうっていう魔法でさ。見捨てられたかと思ってバアルがガクブルしてんの」
「怖かったである」
「ごめんね。起こすと悪いかなーと」
『ハハッ、ユーラシアはそう簡単に玩具を手放しはしないのにな』
「ほんとそれ」
朝になれば御主人は来るぬよって、何故かヴィルが言い聞かせてたらしい。
あんたら仲悪いんじゃなかったのかよ?
バアルが不安がってるとヴィルが不快だから?
悪魔同士の関係はマジでよくわからんな。
『ペペさんは画集のモデルなんだろう? 絵の方は問題ないんだな?』
「うん、ペペさんってちっちゃい人なんだよ。うちのダンテが『見た目ガールウィッチ』って呼んでるくらい。ところがイシュトバーンさんの手にかかると、妖しげな色気を振りまく魔女の絵になるんだよね。謎技術だな」
『こっちでも緑のショップのポスターが徐々に話題になり始めてるんだ』
「だろうなー。でも遅いくらいだよね?」
口コミだけだからか。
積極的に宣伝活動しないとどうしても知れ渡るのが遅くなるな。
でもべつに全然困らんからいい。
「ヴィルもイシュトバーンさんに描いてもらったんだって。画集には載せないけど、版は作ってポスターにしてもらおうかなと思ってる」
『画集にならないなら、版代分も儲からないんじゃないか?』
「金銭的にはね。でもヴィルが皆に認知されるのは嬉しいし都合がいいから」
『君は物事をトータルで考えるよな』
「それもあたしのごまんとある長所の一つだったか。短く言うと何だろ?」
『えっ? 総括とかか?』
「あたしの長所は総括です? おっかしいだろ」
『君お得意の、相手を煙に巻く時に使えるんじゃないか?』
むーん?
今煙に巻かれたような気がするけど。
「カラーズや開拓地で変わったことあった?」
『特に大きなことはないが、貯水池の拡張が半分終わるんだ』
「わかった。今日魔境行くから、植えとく用のクレソン取ってくるよ」
『頼む。魔境はレベル上げか?』
「そうそう。低レベルは身体が重いってのもあるけど、何より飛ぶパワーカードを使えないのが面倒でしょうがない」
『便利さに慣れ過ぎだろ』
「文明人の盲点だったわ」
アハハと笑い合う。
『実際問題として、自分のレベルを簡単に上げられるものなのか? 高レベルだった時のパワーレベリングとは全く要領が違うだろう? 低レベルで魔境へ行くって心配なんだが』
「あれ、サイナスさんがあたしの保護者みたいなこと言い出したぞ? やっぱあたしが可愛いから?」
『茶化すなよ。常識で考えて危険だろう』
今はもう経験値五割増しのパワーカード『ポンコツトーイ』を一枚も持ってないから、レベル上げに時間はかかりそう。
でも心配はそれだけだぞ?
「いや、あたし達はレベル一とは言っても、ステータスアップの薬草をたくさん食べてるから、その分のパラメーター上昇分はチャラになってないんだよ。確かに魔境で戦うには貧弱ではあるけど、どうしたらいいかの経験もレベル上げに必要な装備もあるから、特に問題はないな」
『そうなのか?』
「多分今日帰ってくる時にはレベル九九になってると思う」
『えっ?』
一日でレベル九九って非常識に聞こえるのは否定しない。
サイナスさんもビックリしてるけど、ウィッカーマンを倒せるようになればレベル九九なんてすぐだからな?
魔境北辺には人形系レア魔物の群生地帯、パラダイスゾーンがあるんだから。
でも飛べないから北辺まで歩いて行かなきゃいけないのか。
途中で他のモンスターに遭遇すると厄介だな。
ま、オーガくらいなら何とか倒せるだろうから大丈夫だろ。
『レベリングはともかく、昨日はどうだったんだ? あっちこっちに謝りに行ったんだろう?』
「吾は謝ったである。何度も脅されたである!」
「バアルは誠心誠意謝った。あたしが保証する」
『脅されたとは?』
気になるか。
サイナスさんもエンターテインメントに関する嗅覚が研ぎ澄まされてきたね。
「いや、皆結構ひどいの。聖火の結界で未来永劫閉じ込めておくの魂が磨り減るまで『デスソング』に聞き惚れろの。デス爺なんか、亜空間を永遠に漂う藻屑にするって言ってた」
『ハハハ、傑作な話だな』
「面白くないである! 笑い事ではないである!」
「皆大マジだったしなー」
『「えっ?」』
あんたらそこで声揃うのな。
「バアル、あんた気付いてなかったのかよ。あれ脅しじゃなくて全員本気だったぞ? 割とあんたの命は風前の灯火だった」
「ひええええええええ!」
「こら、変な声出さない。あたしがついてるから」
「よ、よろしく頼むである」
「結局のところ、今日回ったドーラの実力者全員に許してもらったんだ。大変結構な展開とゆーかややもの足りないとゆーか」
サイナスさんがやや硬い口調で言う。
『海の王国はまだ行ってないんだな?』
「どう考えても最難関だねえ。一番バアルを恨んでるだろうしなー。行くの数日後になるけど、何とか頑張ってみるよ」
『飼い主として最後まで面倒をみるということだな?』
「うん」
飼ってみると愛着も湧くんだよ。
生意気なお調子者で可愛いし。
「じゃサイナスさん、おやすみなさい」
『おやすみじゃないだろう。朝だぞ? 今から魔境行くんだろう?』
「あっ、そーだった!」
何となくいつもの感覚で寝ちゃいそうだったわ。
さて、そろそろ行くべえ。
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
気合い入れるぞー!




