第777話:唐竹割りか横薙ぎか
「精霊使いさん、いらっしゃいませ。どうぞ」
もう行政府受付まで連絡が来ていた。
受付のお姉さんともすっかり顔なじみだ。
デス爺やメキスさんもいるのに、あたしにいらっしゃいませだよ。
「他はどういう人達を取り次いだりするの?」
「オルムス知事にですか? 主なのは商業組合関係や中町の代表ですかね。あとは細々した許可を与えることとか」
「なるほどなー。でもオルムスさん働き過ぎじゃね?」
「皆が同様に思っているのですけれども」
以前の精霊様騒動の時、オルムスさん直筆の許可証がすぐに発行された。
オルムスさんの仕事が早いのは素直に感心するけど、今後レイノスの人口多くなったりドーラの国家としての仕事が増えたりするとパンクするぞ?
貿易や移民に関してもやってくれてるんだろうに。
今はおゼゼがなくて人を増やせないのかしらん?
人材はいるんかな?
二階の大使室に案内される。
「こんにちはー」
「やあ、いらっしゃい」
プリンス、アドルフ、クリークさん、マックスさんの大使室の面々に加え、オルムスさんとパラキアスさんもいる。
何だろ、新聞を広げてる?
「クリーク、マックスとその家族の紹介とインタビューが掲載されているんだよ」
「家の連中も、ドーラの人々は温かいと感激していたよ」
「イシュトバーンさんが新聞をけしかけてくれたんだ。御家族の方も早くドーラに馴染んだ方がいいだろうって」
オルムスさんが驚く。
「これも仕掛けだったのか?」
「というほどのもんじゃないよ。クリークさん、マックスさんには仕事に専念して欲しいからね」
メキスさんがヒューと口笛を鳴らす。
御家族の意識がずっと帝国に向いたままじゃ、クリークさんマックスさんも仕事がやりにくいだろう。
家庭の事情が悩みの種になるのでは、ドーラも困るってだけ。
「アドルフわかってるね? 御家族の皆さんをレイノスの人に紹介するのは、あんたの役目だぞ?」
「任せておけ」
あれ? 確かこのソバカス男はアドルフって名前じゃなかったような気がするけど、何故か今日は訂正しようとしないな。
そーか、改名したか。
パラキアスさんがトーンの低い声で話しかけてくる。
「バアルを捕まえたとのことだったか?」
「そうそう。じゃーん、大悪魔バアルでーす!」
「以後、吾を見知りおけ!」
複雑な感情のこもった顔で、籠を覗き込む面々。
注目を集めてるバアルに嫉妬。
「……ここにバアルを連れてきたということは、私が真正面から唐竹割りに成敗すればいいんだな?」
「ひええええええええ!」
「いやいや」
「そうか、横薙ぎに真っ二つだったか」
「ひええええええええ!」
「違うって」
もーパラキアスさん完全に遊んでるし。
バアルが完全に道化じゃないか。
「大した悪さできないように誓わせたんでいいんだ。いろんな知識持ってるから、飼うことにしたんだよ」
「いろんな知識、か」
プリンスが呟く。
「皆に許してもらおうと思ってお詫び行脚だよ。ほらバアル、謝っときなさい」
「ごめんなさい」
素直なバアルに皆が毒気を抜かれる。
バアルは戦争を画策する言語道断なやつかもしれないけど、面倒くさくないサッパリした子だと思うなあ。
あたしはあんまり嫌いじゃない。
クリークさんが聞いてくる。
「君のレベルはどうしたんだ?」
「あ、やっぱり気になっちゃうか。バアルを捕まえるのに、レベルを犠牲にする特殊な魔法使わざるを得なかったの」
「あれほどのレベルを……もったいない」
「やーでもいいこともあるんだよ。あたしプリンスの『威厳』の効果知らなかったからさ。こんなにかっちょいい人だと思わなかったよ」
アハハと笑い合う。
もう低レベルを十分楽しんだ。
レベルは明日上げるつもりだからいいのだ。
「大悪魔バアル先生の~滑らない話! バアルも第二皇子の情報収集を手伝ってたという話だけど、具体的にはどんな情報を流してたの?」
「個人の私的な秘密と感情であるな。例えばある者がドミティウスを好いておるのかそうでないのか等、外見からは知りづらい情報を流していたである」
「ははーん、感情が筒抜けになるとはさすが大悪魔! ちなみにメキスさんについて、バアルはどう見てた?」
「中立であるな。表向き忠実な家臣であったが、決して心までドミティウスに従ってはいなかったである」
メキスさんが驚きを隠せずにいる。
メキスさんが第二皇子に心服していたわけじゃないということは、当然第二皇子にも伝えられていただろう。
……潜入工作部隊が簡単に切り捨てられた理由は、どうやらその辺にありそう。
「メキスなる者が、吾に気付いていたことは知っていたである。吾に向けて垂れ流す悪感情はなかなか美味であったぞ」
「趣味が悪いなー」
まあ正直に言っちゃうところまで含めてバアルは面白いけれども。
「大悪魔の見解では、情報源を失った第二皇子がどう動くと思う?」
「自らの権力・支配力を、より強化させる方向に舵を切るのは疑いのないところである。しかし、どんな手を使うのかはわからぬ」
ふーん、ウソ吐かないなバアルは。
ウソ吐いちゃいけないのは悪魔の縛りだからかもしれないが、曖昧なことも全然言わないじゃないか。
そーゆー性格なんだろうな。
「最後に一つ。数ある植民地の中からさして問題のなかったドーラを標的にするってのは、客観的に見て疑問があるよ。第二皇子はドーラに対してどんな思いを持っていたのかな?」
「愛憎ないまぜである。将来有望な地であるがため、ドーラの直接支配を企てた。しかし魚人支配域の問題もあり、それが難しいことも知っていたである」
「なるほどなー。ありがとうバアル!」
「うむ!」
オルムスさんが言う。
「極めて有益な情報源だな」
「でしょ? とゆーわけで、バアルを許してもらっていいかな? うちで責任もって飼うから」
「ユーラシア預かりということでいいだろう」
パラキアスさんの言に皆が頷く。
「やたっ! ありがとう! バアル、よかったねえ」
「よかったである!」
皆の視線、これが生温かい目というやつか。
しかしこれで海の王国以外にはあらかた謝罪した格好だな。
「じゃ、あたしは帰るね」
「ああ、また来てくれ」
バアルのいないところで話したいこともあるだろうから、あたしはとっとと去りますよ。
転移の玉を起動し帰宅する。




