第771話:大悪魔の滑らない話
「やるなー。さすがバアル。大悪魔だけのことはある!」
「なかなかだな。同じ悪党でもスケールが違うぜ」
「ハッハッハッ、吾を崇めるがよい!」
大体夕御飯も食べ終わったひと時。
ペペさんに色々話を聞こうかと思ってたらあにはからんや。
バアルから話のネタをもらう展開になってしまった。
扱いやすいぞバアル。
ちょっとおだてたらベラベラ喋るじゃないか。
ちなみにヴィルが機嫌を悪くするかと思えば、バアルのいい気分を吸ってるからかニコニコしている。
悪魔同士の関係って変なの。
「飛空艇はすごかったなー」
「うむ、あれはドミティウスが推進した計画である」
「主席執政官の第二皇子か。どんな人?」
「人間にしてはやるやつである。人当たりは柔らかいであるが、自分に厳しく他人にも厳しい。ドミティウスの側にいれば、怖れの感情を摂取するのに不自由なかったである」
「ん? あんたが操ってたんじゃないんだ?」
「パートナーではあったな。操れるような人間では大した旨みがないのである」
なるほど?
バアルの言い分はわからんでもない。
第二皇子が対ドーラ戦を途中で切り上げて独立を認めた事実にもそぐう。
バアルは第二皇子と組んで、容易に悪感情を吸えるメリットがあったとして……。
「あんたほどの大悪魔に認められる第二皇子って結構な人だね。でもそんなにすごい人なら悪魔を拒絶するんじゃないの? うちのヴィルが、人間に認められるのは大変って言ってたよ」
バアルが小首をかしげる。
「……初めて会ったのは、ドミティウスがまだ一〇代前半の頃であろうか、もっと前であったか。ドミティウスの側は居心地がいいである。当時から権威を使い、それを乱用しないことを知っていた。吾を見ると喜び、吾が情報を提供し、ドミティウスが悪感情を提供するという関係がすぐに構築されたのである」
メキスさんの言っていた悪魔に魅入られやすい性質とは、悪魔を抵抗せずに受け入れるということか。
あれ? あたしもそーなのかな?
悪魔は可愛いもんな。
「ほう? 大悪党の提供する情報ってよっぽどなんだろう?」
「もちろんである! 重臣や貴族、出入りの大商人の秘密を掴んでドミティウスに流し、ドミティウスが情報を武器に締め上げると、吾は質の良い悪感情が手に入るのである」
ウィンウィンの関係だな。
つまりメキスさんとバアルという情報源を失った第二皇子の政治手腕の切れ味は、やはり以後確実に低下すると思われる。
「ありがとうバアル。また大悪魔の滑らない話を聞かせてよ」
「うむ、任せよ」
こらダン、あんまりバアルをバカにした目で見るな。
「ユーラシアは何でこの悪党を生かしておくんだ?」
「ちっちゃくて可愛いくて面白いから」
「あんたらしいぜ」
「籠から出すとヴィルくらいのサイズなんだよ。なかなか生意気かっちょいい帽子被ってるし」
最初から籠に入ってるから実感がないか。
お腹をぽんぽんに膨らませて満足しているペペさんに声をかける。
「ねえペペさん。高位魔族は皆可愛いの?」
「大体そうね。でも個々の価値観だから、姿はそれぞれのはず」
「強大な魔力をコントロールして小さな身体に秘めることこそ、高位魔族の矜持という考え方はあるぬ。だからわっちくらいの大きさが標準ではあるぬよ」
例外はあるかもしれないということか。
小さいなりでも可愛くはないかもしれないし。
「ぎゅー」
「ふおおおおおおおおお?」
よしよし、ヴィルはいい子だね。
「気持ち良かったぬ……」
「あんたはいつも役に立ってくれるからね」
「御主人……」
可愛いやつめ。
抱っこしてやる。
「ユーラシアちゃんはバアルをどうするつもりなの?」
「とりあえず皆のところ回って謝らせようと思って」
「「えっ?」」
ペペさんとダンが驚く。
「あちこちで悪さしてるじゃん? バアルを恨んでる人も多いからさ」
「各地の有力者のところに行って、謝らせてくるということね?」
「うん。あたしが責任もって飼うから許してーって」
「大悪党の悪事を甘く見てるんじゃねえか? いくらあんたが言っても、許されるとは限らねえぞ?」
「かもしれないけど、けじめは必要だから」
ダンが哀れなものを見る目でバアルに話しかける。
「あんたも難儀な飼い主に当たったな。同情するぜ」
「こらバアル震えるな。あたしも一緒に謝ってやるから」
「よ、よろしく頼むである」
特に帝国の事情は、ドーラにいてはなかなか知りにくいものなのだ。
今後も重要な情報源であるバアルには色々聞くことになるだろう。
ぜひとも皆さんに許してもらわないと。
「そーだ、ペペさん。絵はいつ描かせてもらえるかな?」
「私はいつでもいいわよ」
「明日の夜、大丈夫そう?」
「ええ」
「ヴィル、イシュトバーンさんに連絡取ってくれる?」
「わかったぬ!」
ヴィルの姿が消えるとともに、バアルが鼻を鳴らす。
「ふん、人間の使い走りをするなど、高位魔族の風上にも置けないである」
「……バアル、あたしから悪感情を摂取しようと考えるのは、自分の寿命に関わることを覚えておこうね」
「わ、わかったである。ヴィルの仕事を茶化すことは、今後絶対にしないである!」
あたしのキメ顔に脅える小物。
上下関係は教えてやらないとな。
赤いプレートに連絡が入る。
『おう精霊使いだな? どうした?』
「こんばんはー、イシュトバーンさん。絵の依頼だよ」
『楽しみだな。誰だ?』
「ペペさんだよ。明日の夜、イシュトバーンさん家に連れていっていい?」
『ペペちゃんか。明日の晩だな? 待ってるぜ』
「お願いしまーす」
『ところで何か面白いことねえか?』
「とびきりのやつがあるよ。でもその関係で、明日お肉持っていけないんだよね」
『ハハッ、あんたがとびきりのやつと言うほどか。楽しみにしてるぜ』
「じゃーねー。おやすみなさい」
『おう、明日な』
「ヴィル、通常任務に戻っててね」
『はいだぬ!』
ペペさんが感心する。
「ヴィルちゃんはいい子ねえ」
「うん。ありがたい」
悪魔も個性があって面白い。
他の子にもぜひ会ってみたいもんだ。
「じゃ、明日夕方五時頃迎えに来るから、ギルドで待ってて」
「わかったあ」
「お開きか? なかなか面白い話のネタだったぜ」
「奢らせ甲斐があった?」
「ハハッ、まあな」
ペペさんとダンに別れを告げ、転移の玉で帰宅する。




