第767話:とびきりの大仕掛け
リリーについては、帝国の皇族としての立場があるんで話せないこともある。
でも不自然に隠すこともないだろ。
「リリーはドーラに遊びに来てるんだ。去年の秋からだったかな」
「ほーん?」
「以前ドーラに親善で来たことがあったらしくてさ。魔物に興味があったみたい。今は従者とパーティー組んで冒険者をやってるよ。腕試しがしたいぞーって」
「ああ、皇女は武術に興味あるって話だったな。でも危ねえだろ?」
「まー冒険者だからそれなりには。でも今はおっちゃんよりレベル高いくらいだよ。大体平気」
「遊びでなくて本格的にやってるのかよ?」
「ドーラには魔物が多い分、レベルが上がりやすいってことはあるけどね」
「驚きだな」
サブローさんがホッと息を吐く。
「ごちそうさん。実に美味い肉だった」
「喜んでもらえて何よりだよ」
「ドーラはいいところだな」
クロードさんが呟き、ディオ君の目が輝く。
「いいところが見えてるだけだ。少し前までどうしようもない閉塞感があった」
「変わったのはここ半年なんですよ。半年前には今こうしてクロード族長やユーラシアさんと話していることも、大量に移民の皆さんが来る未来も全く見えていませんでした」
「そうなのかい? ドーラにはドーラの苦労があるんだな」
「いや、のん気なこと言ってちゃ困るんだよ。全力で食べ物確保しないと」
冗談じゃないぞ?
油断してるとマジで餓死するぞ?
「ハハッ、そうだな。しかし今日の肉は助かる。しばらくは食い繋げるぜ」
「なくなりそうなら、こっちの村の族長クラスの人に伝えてよ。また狩ってくるから」
「気軽に言うが、大丈夫なのか?」
「『アトラスの冒険者』の転送先に今日のお肉コブタマンを狩れるところがあるんだ。わけあってそこのコブタマンはどれだけ狩ってもいなくならないから大丈夫」
「『アトラスの冒険者』ってのは何だい?」
おおう、『アトラスの冒険者』について説明してなかったわ。
いきなり転送魔法陣が設置されて転移の玉がうんぬんかんぬん。
あれ、サブローのおっちゃんだけじゃなくて、クロードさんやディオ君まで面白そうに聞いてるがな。
「……とゆー、傍目には全くわけわからないけど便利な仕組み」
「ほーん、ドーラには不思議なものがあるなあ」
「昔は帝国にも『アトラスの冒険者』がいたらしいけどね」
今は『アトラスの冒険者』は置いとくとして。
「とにかく農産物が軌道に乗る春までは、食べ物をどーにかしないとなー。それ以降は何とかなると思うけど」
「すまんな」
「いいんだよ。でも移民は今後も次々来るから、サブローのおっちゃんがまとめて優しくしてあげてよ。ドーラの発展には人口が必要なんだ」
三人が微笑みながら大きく頷く。
「精霊使いが移民の担当なのかい?」
「いや、あたしは大使プリンスルキウスを弄るのが担当なんだ」
「でもここを開拓したり水路を引いたりは、ユーラシアさんが主導してるんです」
「あたしはおゼゼ出しただけだわ。カラーズの族長クラスに丸投げだわ」
「あんた金持ちのお嬢さんなのかよ?」
「何だその『そうは見えねえが』ってセリフを全力で飲み込んだような言い方は」
「ハハッ、すまねえな」
「持ってたおゼゼは全て吐き出したから、今はお金持ちじゃないなー」
ま、結構稼いではいるけれども。
「あたしはドーラをいい国にしたいんだよ。今はビンボーだから、輸出して帝国からぼったくることを考えてる」
「一方で移民導入、人口増やして内需拡大か。お偉いさんの思考だな」
「思考だけじゃなくて、実際に一番働いてるのは精霊使いなんだ」
パラキアスさんの方が働いてると思うけど。
「さて、お腹膨れたわ。満足です。あたしは帰るね」
「おう、またな」「お気をつけて」「さらばだ」
あちこちで頭を撫でてもらっていたヴィルを通常任務に戻す。
移民達にヴィルのお披露目もできたので、めでたしだ。
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「おお宝箱よ。君はバラより美しい!」
「ユー様はバラ見たことあるんですか?」
「野生種しか見たことないな。あんまり綺麗じゃないから、自信持って宝箱の方が美しいって言い切れる」
「帝国で品種改良されたものは、とても綺麗な花を咲かせるらしいですよ」
「あたしも聞いたことあるけど、花じゃお腹は膨れないからなー」
「実は栄養たっぷりで利用価値があります」
「ふーん。バラもバカにしちゃいけないね」
アトムとダンテが始まったぞーって顔してるが、始まるのはこれからだ。
昨日描いてもらったバエちゃんとシスターの絵を版画屋に届けたあと、日課のザクザク宝箱クエストの部屋にやって来た。
なおイシュトバーンさんは今日、セレシアさんの絵を描きに行き、結構な人だかりになったそうだ。
画集の宣伝にはなったろう。
セレシアさんの絵は明日取りに行くか。
「さて、今日の絶景は、と」
……ははあ、こう来たか。
「変わったところないでやすね」
「極めてノーマルね」
「あんた達にはそう見える?」
確かに四列四個ずつ、計一六個の宝箱が、ただ並んでいるように見える。
「何か仕掛けでもあるんでやすか?」
「あるねえ。とびきりの大仕掛けだよ。クララ」
「はい、今日もまた立札の記述に附則があります」
附則:稀鏡の月二七日の『ザクザク宝箱! 一六の魅惑!』イベントについて。
全ての宝箱を開けてください。
「ははーん、書いてあることはまた随分とシンプルだね」
「全部開けろってことは、全部にお宝が入ってるってことですかい?」
「入ってるねえ。しかもいつもよりいいものっぽい。あれ? じゃあ魔法の葉は入ってないってことなのかな? ラッキー!」
「大儲けじゃないですか」
「大儲けだねえ」
「……ストレンジね? ボスの表情がシビアね?」
「ダンテは察しがいいね。このクエストは今日が最後だよ。戦闘になるかもしれない。パワーカードの編成は普通にしといて」
「「「了解!」」」
うちの子達に緊張が走る。
「ま、クエストはともかくガンガンしようよ」
「「「了解!」」」
「グオングオングオングオングオングオーン!」×四。
うむうむ、毎日のことながら心に染み入るいい音だ。
いい感じに緊張もほぐれたろう。
このクエストがなくなっちゃうと、銅鑼を鳴らす機会もへっちゃうのかなあ。




