第764話:サブローさん
コブタ肉二〇トンとともに開拓地までびゅーんと飛ぶ。
ハハッ、指差してる移民がいるな。
ドーラ名物空飛ぶ美少女精霊使いですよ。
さて、どこに降りるのががいいかな?
転移石碑の近くや作業してるところは邪魔だし……。
あ、ディオ君見っけ。
一緒にいる黒フードは?
フワリと着地する。
「こんにちはー。精霊使いがお肉を連れて参上しましたよ!」
「ユーラシアさん、いらっしゃい」「精霊使い!」
「あ、やっぱクロードさんだったか。フード被ってると詠み人知らず」
「誰が詠み人だ」
アハハ、声聞くまでわかんなかった。
黒の民も、族長くらいは違う格好してくれればいいのに。
「これはまた随分と大量ですね」
「いや、これは一部なんだよ。移民に解体の仕方をレクチャーしようと思って持ってきたの。残りは各村でバラしてお肉にしてもらってるんだ」
「え?」
ディオ君は驚いてるが、焼き肉親睦会の経験があるクロードさんはさもありなんという顔をしている。
せっかくだからクロードさんも驚いてくれればいいのに。
「デカい小屋がいくつも建ってるねえ」
「倉庫だ。黄の民フェイ族長の指揮下に特急で建築中だ」
なるほど、貸し天幕は足りてるから住居は当面オーケー。
食料その他を置いておく倉庫の方が重要と見ているのか。
「実に助かるな。箱置いておこう!」
「例の中に入れたものが悪くなりにくい箱ですね? 自分が運びましょう」
「ちょっと待って! おーい、移民の人達集まって!」
何だ何だと集まってくる人達。
一人が声を上げる。
「あっ、あんた港で会った!」
「ドーラの有名な美少女精霊使いユーラシアだよ。言いにくかったらスーパーヒロインユーラシアでも構わないからね」
「肉のスープ美味かったぜ」
「でしょ? コブタマンっていう魔物の肉なんだ」
「ほーん、やはり魔物の肉だったか」
目の前のこのおっちゃんは何とも思ってないみたいだけど、魔物の肉ってことで驚いてる人もいるな?
帝国では魔物肉は一般的ではないか。
港で解体するとこ見てた人もいるのにな。
「今日もお肉だよ。港で振る舞ったのと同じ魔物肉。おいしいって評判のやつ」
「おう、ありがてえな」
「解体と運ぶの手伝ってよ」
「もちろんだ! おーい、手伝え! 重要な仕事だぞ!」
おー集まる集まる。
「はい注目! お肉がおいしい季節だよ。ドーラのうまーい魔物を狩ってきたから、捌き方を教えます。なるべく大きな包丁持ってたりとか、心得があるよって人出てきてくれる?」
数人が出てくる。
「じゃ、まず一体を解体するから、よーく見ててね? クララお願い」
「はい」
クララの神技を見てた人の目が点になる。
港で見てた人も含めて、何度見てもすごい技。
「……と、このように、慣れると約一〇秒でお肉にできます」
「「「「いやいやいやいや!」」」」
「さあ、やってみようか!」
あ、でもできるじゃん。
今来てる移民は都会の人じゃないからか。
心配することなかったな。
「保存にはこの箱使ってくださいねー」
箱? って顔してますね。
「聖風樹製の特殊な箱でーす。中に入れたものが劣化しにくいという特徴があるんだよ。例えば生肉を入れておくと、蓋さえ開けなきゃ一ヶ月はもちまーす」
へえ、という声があちこちから上がる。
「塩漬けや燻製もいいけど、この箱も有効に使ってあげてね」
「「「「おう!」」」」
「で、この箱を倉庫まで運ぶから、何人か手伝ってあげて」
「「任せろ!」」
ディオ君の案内で倉庫へ運ぶ、こっちは良し。
「クロードさん、どっかにゴミ捨て穴掘っていいとこない? 解体後の食べられないとこ捨てたいの」
「うむ、ではこちらへ」
「ゴミ捨て穴掘るよ。何人か手伝ってあげて」
「「おう!」」
こっちもよし。
コブタの解体も進んできたし、あとは焼き肉パーティーまで待ってればいいか。
楽しみだなー。
「精霊使いさんよ」
一番初めに声をかけてきた四〇歳くらいのおっちゃんだ。
珍しいな。
聖火教徒にはおっちゃんおばちゃんもいたけど、聖火教徒以外でドーラに来てるのはほとんど若者なのに。
帝国人にしては魔物にも抵抗のない人みたいだし。
しかも……。
「あんたが来た途端、皆がキビキビ動き始めたんだ。大したもんだ」
「ありがとう。おっちゃんはどういう人?」
「ん? 珍しくもないおっさんだろう?」
「いや、年齢もそうだけど、ドーラでいう中級冒険者以上のレベルがあるねえ。といって元兵士さんとかでもなさそうだし」
もっとこう、冒険者に近い立場の人だと思う。
でも帝国は一般人の武器所持が禁止されてると聞くから、冒険者なんてものはいないんだろうし。
「ほーん?」
「しかも何かの固有能力持ちだね」
「おいおい、そこまでわかるのかよ。すげえなドーラ人は」
おっちゃんが驚く。
「おっちゃんの名前教えてよ」
「おいらはサブローってんだ」
「ユーラシアさん!」
あ、ディオ君戻ってきた。
「彼、サブローさんとゆーんだって。ちょうどいいから、移民のまとめ役やってもらおう。ディオ君、族長達に紹介しといてよ」
「わかりました」
「え? 何でおいらが?」
サブローのおっちゃん不思議がってるな。
「もっと適任の人がいればいいけど、パッと見た感じいないじゃん」
「おいおい、あんたの目、どうなってんだ?」
船の中でもまとめ役のようなポジションにいたそうだ。
だろうね、皆を導く力のある人だ。
移民が暴れるのを抑えててくれたと考えるとありがたい。
「移民を乗せた船は相当劣悪な環境だったと聞きましたが」
「おう、まさか貨物船にギュウギュウ押し込まれるとは思わなかったぜ」
「どうして急いでドーラに来たの? 出国税がまだ高くて、所持してたものをほとんど取り上げられちゃったって聞いたんだけど」
サブローさんが苦々しげに言う。
「……出国税うんぬんの話を聞いたのは、船に乗り込む直前だったんだ。しかもキャンセルするなら二度と移民申請は受けつけないときた。初回の移民に応募したのなんか皆、本土での生活を諦めたやつばかりだ。キャンセルなんかほとんど出なかった」
憤懣やるかたない様子のサブローさん。
「しかもどうやらキャンセル多発を予想していたのか、船一隻しか用意してねえんだ。どう思うよ?」
「そーゆー事情だったのかー」
「ひどい話ですね」
じゃあ最初の移民は皆、一か八かでドーラ来てるんじゃん。




