第762話:今日もお肉、明日もお肉
「サイナスさん、こんばんはー」
寝る前恒例のヴィルを介した通信だ。
『ああ、こんばんは』
「今日はあっちこっちでごちそーになったよ」
『ん? 魔物退治しに聖火教の礼拝堂へ行ったんだろう?』
「午前中はね」
『午前中で片付いたのか? かなり広いって話じゃなかったか?』
「広いったって掃討戦あったところに比べれば全然だし、皆がお膳立てしてくれてあたしは魔物倒すだけだもん」
魔物の数は割と多かったけどな。
ま、美少女精霊使いと愉快な仲間達にとってはどうってことない。
『問題なさそうか?』
「聖火教徒は結束力強いから大丈夫だと思うよ。今日退治した魔物のお肉、かなりの量を保存食にしてたし」
現在の懸念は食べ物の不足だけだ。
食べられるでっかいネズミと突進熊がかなり出たのはありがたかった。
魔境クレソンもダイコンの種も置いてきたしな。
『明日はこっちにも肉を頼むぞ』
「可能な限りの台車と、積み降ろしの人員を寄越してよ。移民の分だけじゃなくて、各村に分けるくらい狩ってくるから」
『え? 肉を大盤振る舞いすると、うちで販売してる弁当の価値が下がるんだが』
「何を言ってるんだ。ケチくさいなーもー」
アハハと笑い合う。
まったくサイナスさんはおかしな心配をしとるわ。
ピントがずれとるわ。
『昼は聖火教徒に振舞ってもらったんだろうが、夜はどうしたんだ?』
「『アトラスの冒険者』の最初の転送魔法陣で飛ぶチュートリアルルームっていう、説明の場所みたいなのがあるんだよ。そこでごちそーになった」
『ほう?』
「係員と友達なんだよ。よく夕御飯一緒してるの」
『女性なのか?』
「うん。画集のモデルだよ。今日はイシュトバーンさん連れてって描いてもらった。もう一人その係員さんの上司とね」
『進み始めると早いんだなあ』
「モデルのアポさえ取れりゃ、イシュトバーンさんは暇だからね」
イシュトバーンさんの手が早いってこともある。
いや、手が早いって描くスピードのことだけど。
シスターの絵はすげええっちに仕上がりそうで楽しみ。
『これで描き上がったのは何枚になったんだい?』
「えーと、ニルエと人形のアリスとおっぱいさん、アンセリ、サフランだから、今日の二人を入れると八人だよ」
『モデルは全部で二〇人くらいって話だったか?』
「予定ではちょうど二〇人だね」
『内、了解をまだ取ってないのは?』
「二人かな」
ほこら守りの村のマーシャと少女霊リタが未確認だ。
でもあの二人は断りゃしないだろ。
「今日緑の民の村の版画屋行ってさ。おっぱいさんの絵の刷ったやつができてたからもらってきた。これ持ってヨハンさんと相談だな。ラルフ君を捕まえないといけない」
『順調だな』
「イシュトバーンさん任せだから、特に苦労することないしね」
『苦労しないと物足りないんじゃないか?』
「あたしも忙しいんだから、変なフラグ立てないでおくれよ。とばっちりがカラーズに行くぞ?」
『謝るから勘弁してくれ。こっちも忙しい』
ヘタレめ。
しかしカラーズと開拓地が忙しいというのは本当だろう。
「開拓地の移民はどう?」
『理解は進んできたね。肥沃な土地であることと、カラーズが全面協力であること』
「ドーラ政府が全面協力じゃないってところが泣けるなー」
『ハハッ、ないものねだりは仕方がない』
移民の皆さんはドーラが魔物は多いけど地味は肥えてる、くらいの情報は持ってるんだと思う。
でも独立したばかりで統治機構が脆弱、政府の支援はほとんど期待できないってことは知らないんじゃないか?
もっともドーラ政府だって月間一〇〇〇人の受け入れは可能だと考えたから、取り決めに同意したんだろうけど、現場のことも考えてくれんかなー。
「塩、どうしようかねえ?」
『塩? 製塩か?』
「そうそう。人口増えるの決まってるから、早めに製塩事業を始めた方がいいってイシュトバーンさんに言われたんだけど」
『ムリだろ。今は到底誰も動けない』
「だよねえ」
しかし塩というものは必須なので、放っとくと極端な物価上昇を招きかねない。
「デス爺はあんまり忙しくないだろうから、海水取り入れのところの装置の設計だけでも相談しとこうかな」
『転移が絡むとなると、アルアさんの刻印技術が必要なんだろう?』
「ネックだなー。アルアさんもあったかパワーカードの生産で大変だろうし」
とゆーかドーラから輸出できるものが増えてくれないと、それはそれでヤバくなる。
あっちもこっちもギリギリなんだが。
「何か国の運営って難しくない?」
『規模が大きくなればなるほど難しいだろうな』
「帝国ってすごいんだなー」
『帝国くらいになると、専門部署が発達してるだろ。技術者の専門家集団、魔道士の専門家集団って具合に。同様に農政の専門家、流通の専門家、軍事の専門家等がいるだろうから、丸投げしときゃいいシステムになってるはず』
「ドーラが帝国みたいになるためにはどうしたらいいかな?」
『税収がないから、専門家もその手足になる人員も抱えられないぞ?』
「おゼゼはいつ何時でも足枷になるな。むーん?」
うまく社会が回るためにはおゼゼが必要だけど、税金取ることばかり考えてると民のためにならないということか。
最低限ってどれくらいだろうな?
「面倒なことを考えるのはあたしの役割じゃなかった。目先は輸出して儲けることと移民に食わせることを目標としよう」
『前向きでユーラシアらしいな』
「いくら美少女精霊使いでも、後ろには目がついてないからね。いや、後ろ目は便利かも?」
『おいおい、話が怪談じみてきたぞ?』
「怪奇後ろに目がある美少女精霊使い」
『拘るなあ。そこ、美少女必要かい?』
「物事譲れないラインってものがあるんだよ。豚に真珠、精霊使いに美少女」
『全然そういう意味じゃないからな?』
笑い。
まあ今日も楽しかったよ。
「じゃサイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、明日は頼むよ』
「うん、肉祭りはあたしも楽しみなんだ」
『今日もたっぷり食べてきたんだろう?』
「まあ。でも明日のお肉は種類が違うし」
皆で食べれば何でもおいしいんだけど、やっぱコブタ肉は格別だし。
「台車よろしくね」
『ああ、わかってる。おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日は肉祭りだ。
楽しみだなー。




