第758話:聖火教徒とショウガ
崖の上は掃討終了、クララが魔物の解体の仕方をレクチャーしてたら、手際の良さに皆ビックリしてた。
レイノス港で見てた人もいると思うんだけど?
何度でも見たくなるクララの魔物解体ショーは有料でもいい。
「パラキアスさん、ヴィル!」
「御主人!」
ヴィルが飛びついてくる。
よしよし、ぎゅっとしたろ。
「御苦労様だったね。大丈夫だった?」
「危なくなかったぬよ?」
「よーし、よかったね」
ヴィルがいい仕事した。
また聖火教徒に認めてもらえるんじゃないかな。
パラキアスさんが言う。
「崖の下の三角地のことだが」
「やっぱ魔物やっつけちゃった方がいいよねえ」
「ああ、放っておくのは片手落ちで危険だ」
さっきはうちのパーティーもバラけて飛んで個々に退治しようと思ってたけど、現地見たら見通し利くなあ。
慣れないことする必要ないわ。
「うちのパーティーが下に降りて、魔物に出遭い次第倒していくから、パラキアスさんとヴィルは上空から見て、討ち漏らしてるやつ始末してくれる?」
「承知した」「承知したぬ!」
クララの『フライ』で崖下へ。
崖と言っても、急な坂くらいの具合だな。
どっちにしても転げ落ちたら大ケガじゃすまないかもだが。
「あれ? ここ薬草や素材多くない?」
「人が足踏み入れたことがほとんどない上、魔力条件が良いのかもしれません」
「おおう、なるほど」
アルアさんの工房のところも似た条件だが、谷や崖下は素材回収的にはウハウハっぽいな。
でも落石や崖崩れの危険も考えなきゃいかんわけか。
欲張り過ぎてはいけない……注意して欲張れとゆーことだな?
「素材は拾っていこう。薬草は聖火教徒が使うだろうから、見逃がそうか」
「「「了解!」」」
素材を採取しながら『薙ぎ払い』で無双する。
「こんなところだろう」
「そうだねえ」
ざっと見渡してもう魔物はいないっぽい。
ほとんど崖下の魔物も駆逐したはずだ。
一体や二体は残ってるかもしれないが、下まで降りる道を作ってから聖騎士やハイプリーストが倒せばいいだろ。
食べられる魔物ごと、クララの『フライ』で上へ戻る。
「御苦労様でした!」
ミスティさんがにこやかに迎えてくれる。
大釜ぐつぐつ。
いい匂いがしてますがな。
「ちょうど煮えたところですよ」
「やたっ! いただきます!」
いやー、うまーい!
ピリッとした辛さが効いてるーって、ん?
「あれ? これかなりショウガ入ってるね?」
「え? はい。身体が温まりますから、特に冬にはいいですよね。また肉の臭み取りに非常に有効ですから」
「ショウガをどこで手に入れてるの? 産地を知りたいんだよね」
「聖火教徒の間ではショウガは定番で、よく作られているのだ」
マジか。
「ショウガは聖火教から買えばいいのか。覚えとこ」
「ん? ショウガが欲しいのか? ドーラでは聖火教徒以外はほとんど作っていないだろう?」
「手に入れにくいね。だからあたしも作ろうと思ってたんだけど」
「自分で作ろうとするのが精霊使いだな」
「どうしてショウガが必要なんですか?」
「味だな。おいしいものが食べたいとなると、いろんな味付けが必要なんだよね」
ドーラでどこの家庭にもあるようなごく一般的な調味料となると、塩しかないのだ。
貧弱過ぎるだろ。
もっとバラエティに富んだ味付けが可能になるべきで、そのためにショウガは有力な存在なのだ。
おまけにショウガはかれえや焼き肉のタレに必要だからな。
「聖火教の集落で買ってくれればいいですよ」
「うん。数年後にはかなりショウガは売れると思うから、増産するつもりでいてよ」
「「……」」
ミスティさんとワッフーが好奇に満ちた視線を寄せる。
「何かやるんだな? 仕掛けか?」
「ま、べつに秘密じゃないから。掃討戦跡地のクー川沿いのところで米作りを始めるんだよ」
「米ですか。ドーラではほとんど作られていませんよね」
「クー川の水を引けるようになって、初めて大規模栽培が可能になったんだ。まだ今年は試験栽培だけど」
作るからには売らねばならんのだ。
「移民は米に馴染みがあるだろうけど、ドーラ人にはあまりないじゃん? 広めるために導入しようとしてる、異国の食べ物があるんだ」
「ほう、それは?」
「かれえって言うんだけど、ちょっと説明が難しいんだよね。辛味のある一種のシチューみたいなものなんだ。炊いた米にかけて食べるのが普通」
「異国ですか。帝国のものではないですよね」
「別のところだよ。ドーラで各地のおいしいものが食べられたら素敵だと思わない?」
「思います。おいしいものは正義ですよね」
「おっ、ミスティさんわかってるね」
アハハと笑う。
あれ、今日はヴィルがべったりくっついてくるな?
いつもはこういう時、皆に頭撫でてもらうのに。
「どうしたのヴィル?」
「聖水臭いんだぬ。御主人の側にいるぬ」
「あっ、そーか!」
ごめんよ、ヴィル。
気付かなかったよ。
ぎゅっとしてやる。
「早めにお暇するね」
ワッフーが面白そうだ。
「いい子の悪魔でも、聖水は苦手なんだな」
「当たり前だわ。犯罪者が魔法の葉青汁苦手だからって、善人が喜んで飲むわけじゃないんだぞ?」
「ハハッ、ユーラシアペナルティか」
あ、こんなところまでその呼称が広まってきてるわ。
実に迷惑だな。
「ごちそうさま。これ置いてくから、水辺に植えといてよ」
ナップザックの中身を出す。
「これは?」
「魔境のクレソン。繁殖力が旺盛で冬でも増えるから、あちこちに配ってるんだ。水辺に挿しとくといい。辛みが少なくて食べやすいよ」
「ふうん、面白いものがあるんだな」
「こっちは蒔いてから三週間で収穫できるダイコンの種。四季蒔きで冬でもイケるよ。有用だけど、栄養を吸い上げる力が強いって話なんだ。地力の低下には気をつけてね。ちょっとは食料の助けになると思う」
「ありがとうございます、助かります!」
水辺まで掃討したから、クレソンはかなり植えるところあるはず。
いや、崖下の三角地は丸々畑にしてもいいんじゃないかな。
「じゃ、あたし達帰る」
「今から何かあるのか?」
「クエストへ行く予定ではあるよ」
疲れたんじゃないのって顔してるけど、宝箱の回収はノルマだし。
「またお待ちしていますよ」
「バイバイぬ!」
ヴィルをもう一度ぎゅっとしてから通常任務に戻し、転移の玉を起動し帰宅する。




