第752話:鈍器
フイィィーンシュパパパッ。
本日もまたザクザク宝箱クエストにやって来た。
このクエストは『ザクザク』という語感が素晴らしい。
乙女心を刺激してやまない。
「絶景かな、絶景かな!」
一六個の宝箱の並ぶ様は絶景としか言いようがない。
今日ばかりはアトムも文句のつけようもないだろうが……あれ?
「箱じゃないでやすぜ?」
「本当だ。どゆこと? 絶景には違いないけれども」
お宝が入っているであろうブツが丸いのだ。
油断してると転がってっちゃいそう。
何て言うんだろう、こーゆーの。
宝箱じゃなくて宝球?
「何だこりゃ? また変なことしてきたけれども、エンターテインメントのつもりかな?」
「球形の入れ物と考えると、これを製作するのは見事な技術ですねえ。どうやって作ったんでしょう?」
「どうやってセットしたかも気になるね。ローリングしそうね」
「どうやって開けるのかも気になりやすぜ」
「結局中身がどうかに帰結するけれども」
あたしが即物的だって?
現実的なだけだわ。
まあいいじゃないか。
主催者がこういうやり方であたし達を楽しませようとしているということは伝わったから。
「でも出オチだよねえ? ケースが丸くなきゃいけない必然性がなさそーな」
「いえ、ユー様。これ壊さないと中身取り出せないと思います」
「あっ、じゃあ空箱? 空球? は使えないのか」
「材質が違いやす。おそらく聖風樹ではないでやすぜ」
「そーかー。じゃどっちにしても価値はないか」
さほど残念でもないな。
聖風樹の空箱は既にたくさん持ってるし。
「インナーがクラッシュするデンジャーもあるね」
「なるほど、あたしらがでやっと開けようとして、中身ごと潰しちゃうのを見て、笑う趣向かー」
どうもそれが正解の気がする。
確かに丸い部分だけ剥がそうと思うと難しいかもな?
「でもうちには必殺仕事人クララがいるし」
「はい、お任せください」
クララも同じことを考えてるようだ。
「じゃあまずガンガンしようか」
「「「賛成!」」」
「昼一杯食べちゃったから、少しはお腹減らさないと」
「腹減るまで叩いたら、銅鑼がすり減ってなくなりやすぜ」
「あっ、それは一大事だ!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」×四。
笑いながら皆で銅鑼を鳴らす。
振動で宝球が一つ転がりだすというハプニングもあったが、まあ御愛嬌の内だ。
……その転がったやつが当たりだ。
ちょっとは辛抱してりゃいいのに。
「じゃあ手筈通りにいくよー!」
「「「了解!」」」
一旦家へ戻り、クララ愛用のデカ包丁を持ってきた。
これクララがしょっちゅう砥いでるから、メチャメチャ切れ味いいんだよな。
要するにクララの神技で、宝球を捌いてしまえということだ。
真っ二つに割る必要はない。
表面だけ切れればいいのだから。
「じゃ、クララお願い」
「はい」
三人で抑えて固定し、クララが切り割っていく。
うんうんいい感じ。
「よーし、全然問題なく中身取り出せるな」
「あー、コモン素材詰め合わせですね」
「箱使えないと持って帰りづらいわ。ま、いっか」
何とかなるだろ。
次行こう次。
「壺だぜ!」
かなり大きい。
これも実用品じゃなくて美術品なのかもしれないな。
何に使うべきものかってのがパッと思いつかない。
「ポットね!」
「大きな皿ですね。絵付けが奇麗です!」
「現金五〇〇〇ゴールドだぜ!」
「ガラスのカップセットね!」
「蓋付きの壺です!」
「皿のセットだぜ!」
「キャッシュ五〇〇〇ゴールドね!」
「鉄瓶です!」
「大皿だぜ!」
「スモールカップ、メニーメニーね!」
「現金五〇〇〇ゴールドです!」
「デカい甕だぜ!」
「ディープなポットね!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「はーい、しゅ~りょ~! 今日もたくさんのお宝をゲットできました。主催者に感謝!」
主催者はいろんなお宝を持ってるなあ。
大したもんだ。
さて、検討に入ろうじゃないか。
「今日は器っぽいものがたくさん出たねえ。もう一つ価値はわからんけれども」
「プライスレスね? ワースレスね?」
「どっちも困るな」
かけがえのないものって言われたら使いづらいし、価値がない言われたらこの部屋吹き飛ばしたくなるわ。
クララが今日のお宝をじいっと見ながら言う。
「……いかにも美術品と思われるものもありますが、セットものは上流階級のお宅で使われてもおかしくないと思います」
「うちで使うのはおかしいということか」
自虐じゃなくて単なる事実なんだな。
まあイシュトバーンさんとこ持ってくか。
「実用品ってより美術品扱いしておくのが無難か。マジックアイテムはなかったよね?」
「いや、あっしが引いたデカい甕はマジックアイテムですぜ」
一つか。
面白……実用的なアイテムだといいが。
「鉄瓶はすごくいい感じがする。落ち着いていて好みだなあ。」
「枕元に飾っておいてはいかがですか?」
「よせやい」
うちの子達は皆、おかしな人形だのパワーカードだの邪神像だのを枕元に置いて寝ている。
あたしには枕元に飾る趣味はないのだ……冷凍コブタ肉を置いとくのは敬虔なコブタミート教信者として当然の行動かな?
冬にそんなの置いといたら寒いわ。
「ハーブティー淹れるのに良さそうじゃない?」
「ええ、今年はタイムもたくさん取れるようになるでしょうし」
鉄瓶では超すごいお茶淹れるのには金属の雑味が出てしまって使えないが、まったりハーブティーにはピッタリだろう。
「ベリーヘビーね」
「ごもっとも。一般人が使おうと思うと重いかもな」
うちの面々なら問題なさそうだけれども。
いや、ちょっとこの鉄瓶は大き過ぎて邪魔なのかな?
でも大きさがいい雰囲気を醸しだしてるんだよなー。
メッチャ頑丈そうだし。
そーだ、鈍器って言葉がピッタリだ。
「最後に豪快に銅鑼を鳴らそうじゃないか! 鳴らす人っ!」
「「「はい!」」」
「あたしからいくね!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
いいねえ。
さすがに腹を鳴らすところまで体力使おうと思うと、マジで銅鑼がすり減っちゃいそうだからやらないけれども。
皆で満足するまで銅鑼を鳴らし、ついでに残った一個の宝球を思いっきり転がしてから、転移の玉を起動し帰宅した。
え? 価値がなくてどうなっても構わないような丸いものを見たら転がしたくなるだろ、普通。




