第751話:軍人二人の評価
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「お待ちしておりましたぞ、精霊使い殿。こちらへ」
行政府を辞した後、お昼御飯に誘われたので、うちの子達を連れてイシュトバーンさんの家に来た。
ヴィルも嬉しそうにふよふよ飛び回っている。
「おう、来たか」
イシュトバーンさんが出迎えてくれる。
「ゴチになりまーす。あ、これ絵と彫刻。預かっといてね」
「まだ宝箱クエストやってるんだな。今朝小道具に使った水晶ドクロもお宝か」
「うん。最近クエストのルールが変わってさ。宝箱の数が一六個固定で増えなくなっちゃったんだ」
「つまりクエストの主が増えていく出費に耐えかねたってことか?」
「うーん、ちょっとわからないんだよね。クエスト自体が終わっちゃうのかと思ったら、まだ楽しませてくれるみたいだし」
「ほう?」
おなじみのえっちな目ですね?
「あんたは可能な限り宝箱を開け続けるんだな?」
「当たり前だよ。冒険者として全部かっぱぐ以外の選択肢はないじゃん」
「ハハッ、まあいい。飯は温かい方が美味い」
「いただきまーす!」
◇
「ごちそうさまっ! もー入んない!」
「入んないぬ!」
いやー食べた食べた。
何か新しい魚料理だった。
「帝国で行われている調理法だぜ」
「へー。研究熱心だねえ。おいしかったよ」
塩コショウした白身魚に薄く小麦粉をまぶし、バターで両面を焼いたものだそうな。
酸っぱい柑橘類の果汁がかけてある。
フィッシュフライフェスが二ヶ月半くらい前で、それまで魚食べようなんて考えはなかったろうにな?
イシュトバーンさんもよく調べさせてるなあ。
「どう思った?」
イシュトバーンさんが聞いてくる。
料理についてではあるまい。
行政府で会ったクリークさんマックスさんについてだろう。
「有能な人達だよ。期待してる」
「特にあのクリークって少将、相当な軍人じゃねえのか?」
「多分。空飛ぶ軍艦って最高の技術者や魔道士を動員した、第二皇子がメッチャ力入れてるプロジェクトだったはずだから」
対ドーラ戦の決戦兵器だもんな。
普通だったら大功を立てられたはず。
飛空艇の艦長なんて期待されてる人に決まってる。
「飛空艇艦隊が編成された暁にゃ、帝国最大の攻撃力を持つ軍団の司令官になるはずだったろうしな」
「あんなもんの艦隊が作られたらえらいことだと思ったわ」
「実際戦ってみた感じではどうだったんだ?」
「クリークさん? 判断がシャープな人だね。あたしは飛空艇に乗り込んで操舵室を壊したんだよ。もうダメだ、飛空艇落ちるって理解するとすぐに総員退避の命令出したよ。普通だったらあたしを捕まえろーってなりそうなのに」
「その辺りの詳しい話聞いてねえな。どこにドーラへ来いって件があったんだ?」
変なことを聞きたいんだな。
イシュトバーンさんも物好きだこと。
「クリークさんは艦内でずっとあたしと話してたんだよ。あたしを落ちる飛空艇の道連れにしようとしてね」
「おいおい。いや艦長らしいっちゃらしいのか」
「墜落する寸前にクリークさんを倒してから飛空艇の横っ腹に穴開けて脱出、あとで蘇生したの」
「乱暴だな」
「他に方法がなかったんだもん」
イシュトバーンさんが笑う。
あ、ヴィルが来た。
よしよし。
「結構危なかったんだぞ? 脱出が五秒遅れたら死ぬとこだったわ」
「ハハッ、まああんたは肝心なところじゃトチらねえだろ」
「そりゃそーだけど」
「あのマックスって中佐は?」
「飛空艇を落としてから、あたし達は山にこもって反乱軍やってたわけよ」
「ドーラとの二正面作戦は愚策だと思わせるためだな?」
「うん。あたしは山の四天王『美少女戦士』って名乗ってたんだけど、マックスさん率いる歩兵隊は『美少女戦士』を逮捕しろーって攻めてきたんだよ」
「あんた、からかう気満々じゃねえか」
「あたしだって笑いに飢えてたんだもん」
今から考えれば結構楽しかった気もするけど。
「マックスさんは二回攻めてきたんだよ。でも一回目で勝つのはムリだってわかってたみたい。二回目の時は部下に逃げるの徹底させてたよ」
「ははあ、とっ捕まえてドーラに来いと誘ったと」
「そうそう。逆にあたしが聞きたいんだよ。イシュトバーンさんはあの二人どう思う?」
イシュトバーンさんの評価はいかに?
「得難い人材だな。むしろ帝国がよく手放したもんだ」
「だよねえ」
クラークさんは飛空艇計画を潰した張本人、マックスさんは二回の任務失敗があったから当然とはいえ、絶対勝てない戦いを最小限の被害で抑えた人達だぞ?
「潜入工作兵の隊長だったメキスさんは、あの二人が帝国のスパイである可能性を疑っているんだよ」
「ハハッ、スパイなんてことはねえな」
うむ、やはりそーゆー評価か。
「あんたも不実なやつらだとは思ってねえんだろ?」
「思ってないけど、家族がいるんだよね」
「家族か……当然ドーラに連れてきてるんだよな?」
「うん」
おそらく御家族の方々は、家の主ほど確固たる意志を持ってドーラに渡ったわけじゃない。
知り合いもいない地で揺れ動く気持ちを持て余すだろう。
それが例えば帝国の諜者にバレたらどうなるか?
「なるほど、知ればつつきたくなる隙だな」
「でしょ? クリークさんマックスさんは、ドーラでしっかり働いてもらわないと困るからさ。どうしたらいいかなーと思って」
「新聞使えよ」
「え?」
意表を突いてくるなあ。
新聞をどう使えってゆーんだろ?
「帝国からやって来た優秀な軍人の家族って持ち上げる記事書かせろ。承認欲求が満たされれば問題ねえと思うぞ」
「やるなあ、イシュトバーンさん」
新聞を使う手があったか。
確かに帝国軍の優秀な元軍人と紹介され、その家族と注目されれば自尊心も芽生えよう。
時間が経てばドーラのいいところもわかるだろうし。
「工作はオレに任せておけよ。あんたは移民関係で忙しいんだろ?」
「ありがとー、頼りになるー!」
「ハハッ、照れるぜ」
「照れるぬ!」
あれ、イシュトバーンさんのこういう表情初めてだな?
「じゃ、今日は帰るね。ごちそうさま」
「おう。今日の絵は明日昼頃にでき上がるからな」
「わかった。明日あたし聖火教の手伝いで魔物狩りなんだ。ヴィルに取りに来てもらうと思う」
「わっちに任せるぬ!」
うんうん、任せたぞ。
転移の玉を起動し帰宅する。




