第749話:イシュトバーンの構想
「セレシアさんの店に寄っていいかな?」
レイノスにやって来た。
イシュトバーンさん家から、大使室に飾る絵を二枚持って行政府へ行く途中だ。
イシュトバーンさんの他、お付きの女性二人を伴っている。
「構わねえぞ。画集のモデルの依頼か?」
「セレシアさんもモデルとして欠かせないもんねえ」
「青の民の別嬪さんは、店の前の広場で描きてえな」
「やっぱそう思う?」
セレシアさんの服屋の客寄せにもなるし、画集の宣伝にもなる。
イシュトバーンさんの絵は描いてるだけで人が集まることがわかったのだ。
ぜひ有効に活用せねばならん。
「セレシアさんとこはヴィル飛ばすと問題ありそうだから、直接来なきゃなんないんだよね。連絡取るのが案外面倒」
「ハハッ、レイノスで幼女悪魔が飛んでいくのも、それはそれで面白いことになりそうだけどな」
「趣味が悪いなー」
最近レイノスは、ノーマル人至上主義がやや薄れてきているような雰囲気はある。
とはいっても亜人が歩くような町になってるわけじゃなし、一般的に悪魔の印象なんか良くないだろうしな?
特に外町と中町を繋ぐ大階段の下は、レイノスで西門内に次いで人通りが多いところだ。
悪魔が突然登場したら……確かに面白そうではある。
「でもあたしには理性があるから、誘惑に流されたりはしないなー。かろうじて」
「理性? 野性の間違いじゃなくてか?」
「こらっ。てゆーか、今度モデルになってもらうエルフの族長は、あんまり理性が働かないタイプなんだよ。見た目は色白で眼鏡かけてて賢そうなんだけど。で、番頭さんが苦労してる」
「ほお、白いエルフの族長か。ナンバーツーが白くて苦労してるあんたのところとは逆だな」
「使用人全員が苦労してそうなイシュトバーンさん家よりマシだぞ?」
アハハと笑ってたら、お付きの女性二人とも頷いてるぞ?
従業員の教育は大丈夫?
さて着いた。
大階段下、青の民の服飾店だ。
「こんにちはー」
「あっ、ユーラシアさん!」
「店長を呼んできます。いえ、奥にどうぞ!」
店の奥、簡単な工房になっているところに通された。
「こんにちはー」
「いらっしゃいませ、どうぞ」
ふむふむ、セレシアさんの表情も柔らかだ。
店はまだまだ好調みたいだな。
油断はできないが問題はなさそう。
あれ? 開店してるのに、中では随分作業してるみたいじゃないか。
「これ革だね? 新製品かな?」
白の民の出荷した革は、セレシアさんの店に来てたのか。
いいじゃんいいじゃん。
「破れた部分の当て布代わりに革を当てるというのを始める予定で、今は研究中なんですよ」
「おおう、いいじゃんいいじゃん」
興味深げにじっと見ていたイシュトバーンさんが言う。
「……なかなかいい質だな。これもカラーズ産か?」
「白の民のものですのよ。」
「これ当て布に拘らなくてもいいよな」
「そうだねえ」
「えっ?」
キョトンとするセレシアさん。
わかってないようだ。
「例えば別嬪さんデザインのキュートな意匠を焼き印で押すだろ? 最初からそういうファッションとして服に貼りつけとくのもいい。古びたら安価で交換してもいい」
「独自の可愛い意匠があるんだったら、残った革の切れ端にでも印刷してさ。丸く切り取ってペンダントヘッドにすれば商品になるんじゃないの? 宝石使うよりうんと安くできるでしょ」
「おう、切れ端を使うっていう発想がいいじゃねえか。店が好調ってことは、ブランドが評価されてるってことだ。安く提供できるブランドならではの品があったら喜ばれるだろうぜ」
「そ、そうですね」
おわかりいただけたようだ。
「セレシアさんは服売りたいんだろうけど、何だかんだで服は高いからなー。でも安売りするのは負けた気がするでしょ?」
「ええ」
「セレシアさんのファッションはトータルコーディネートがウリだからさ、周辺アイテムを充実させるのがいいよ」
この考え方は外注の比重を大きくすることにも繋がる。
弟ディオ君の心配もわかるからな。
服の生産に関してはブレーキをかけておかねば。
「服は安ければ売れるというもんでもないぜ」
「うん。ところでセレシアさん。以前、帝国へ服売りたいって言ったの覚えてる?」
「覚えてますよーく覚えてます!」
だから落ち着け。
食いつき過ぎだとゆーのに。
前だけを見ずにカラーズ全体のことも考えてね。
「前も言ったかもしれないけど、独特なファッションはものだけじゃ売るの難しいんだ。実際に着ているところを見せないと」
「よくわかります。ちょっとムリですよね」
帝国に伝手がないからね。
「ところがあのファッションを帝国人に知ってもらう手段がある」
「えっ? そ、それは……」
「画集を売る。帝国に輸出する」
「画集?」
クララの絵を見せる。
「これは、イシュトバーンさんの絵ですよね? 当店オープン時には、大変お世話になりました」
「ハハッ、いいんだぜ」
「あの時の新聞見たでしょ? イシュトバーンさんの絵の画集なら、間違いなく売れる」
「つまり、ワタシのファッションに身を包んだモデルを描いて、画集に載せていただけるということですか?」
「そーゆーことなんだけど、イシュトバーンさんはいい女しか描こうとしないから、セレシアさんにモデルになって欲しいの」
「もちろん。願ってもないことですわ」
「やったぜ!」
モデルさんゲットだぜ!
「エルもモデルなんだ。このファッションが帝国に理解される助けには必ずなるよ」
「あんたも着ればいいじゃねえか」
「えっ?」
何を言い出すんだ、このスケベジジイは。
「美人絵画集は精霊使いを表紙にする予定なんだ。インパクトが強いだろ? 宣伝効果抜群だから、一着提供してくれねえか?」
「ぜひ! ユーラシアさんのサイズは存じていますから!」
「……あんまりえっちなのは嫌なんだけど」
「へっへっへっ。あんたが断らない女なのはよく知っているぜ」
……嫌な予感がするが、表紙が地味じゃ売れ行きにも関わるか。
まーいーや、協力してやろう。
ドーラのためでもある。
「オレに構想があるんだ。明日にでも打ち合わせしようぜ」
「わかりましたわ」
「自分の関わらないところで悪巧みが進むとゆーのは、ぞっとしないなあ」
「楽しみにしてるがいいぜ」
イシュトバーンさんの構想ってのがな?
セレシアさんに別れを告げ、行政府へ。




