第745話:精霊使いは遠慮深い
パラキアスさんが補足する。
「悪魔バアルとドミティウス主席執政官の関係については、聖火教ルートでも同じ情報があるのですよ。悪魔バアルの望みに応じてドミティウス主席執政官がドーラ戦を画策したことに、ほぼ間違いはない」
「むう……」
「バアル云々を信じなくてもいいけど、ドーラが帝国に反抗したわけでもないのにいきなり攻めようとするっておかしいでしょ? 山の中のビンボー集落に、あんなデカい飛空艇で爆弾落としに来るのも大概だけれども」
「ドミティウス殿下が悪魔バアルとベッタリなのは事実だぞ? 証拠を出せと言われても困るがね。要するにドーラ遠征が企図された一因に、バアルが戦争に伴う悪感情を欲したということだ。ドミティウス殿下には別の思惑があったようだが……」
クリークさんが呻く。
「……くだらない裏があってのドーラ戦だったのか」
「巻き込まれるドーラにとっては迷惑な話だ。もっとも精霊使いユーラシアの活躍もあって、ほぼ被害もなく独立できたわけだが」
あたし偉い!
まーでもあたしがやったのは山籠もりだけだ。
塔の村の冒険者がメキスさん率いる潜入工作部隊を打ち破ったことも大きかった。
そして交渉をうまくまとめて独立を勝ち取ったことも。
クリークさんが言う。
「オレも不要の戦だとは感じていた。軍からの突き上げがあっての動員じゃない。てっきりドミティウス様の独断かと思っていたのだが……するとルキウス様の在ドーラ大使就任は、ドーラにとっては?」
あ、プリンスルキウスが第二皇子派の手でドーラに飛ばされたことはわかってるんだな。
「チャンスと見てるの。プリンスを目一杯支援しようかと思って」
オルムスさんが苦笑し、言葉を続ける。
「ですが、これほどあからさまに帝国の現政権に警戒されている新大使を、ドーラが積極的にバックアップするわけにはいかないんですよ。帝国に目をつけられては、発足したばかりのドーラ新体制など消し飛んでしまう」
「よくわかる。小国には小国の身の処し方がある」
「だから政府と無関係の精霊使いに一任してあるんだ」
「うん、任されてる」
クリークさんが笑う。
「無関係って、あんたらなあなあじゃないか」
「だって給料出ないんだもん、無関係としか。あっ、それどころか散々帝国の山の中で働かせといて、金一封も出なかった!」
「納得するだけ出そうじゃないか」
「えっ? ……あんまり下手に出られると、余計な仕事させられそーだからいらないけれども」
「精霊使いは遠慮深いんだ」
ちくしょお、笑うとこじゃねー。
あたしは遠慮深くはないわ。
最大効率を求めるわ!
「ふむ、して支援とは? 何故ルキウス皇子を後押しする?」
まあ見当はついてるんだろうけどな。
オルムスさんとパラキアスさんがこっち見てくる。
政府関係者が言うと都合悪い?
ならあたしから。
「ぶっちゃけドーラに攻めようとした人が帝国の最高実力者って、好ましくないじゃん? だからプリンスの地位を上げて対抗させようってこと」
「具体的に何をした? ルキウス様のレベルが異様に上がっているのは何故だ? 関係あるのか?」
「あるよ。だって護衛をつけただけでドーラの印象が悪くなるってことじゃん?」
「そこまで極端なものではないと思うが」
どこまでが許されるとゆー基準がないのだ。
難癖つけられやすい状況ってことだよ。
「本人に強くなってもらうしかないから、民間人のあたしがレベル上げたんだよ」
「どうやって?」
「民間人のあたしの必殺技で?」
「民間人を連呼しなくてもいいけれども」
戸惑うクリークさんとマックスさん。
パラキアスさんが笑いながら説明する。
「先ほどユーラシアも少し話したが、ドーラ大陸は帝国本土に比べるとかなり多くの魔物が生息しているんだ」
「ああ、知っている。植民地時代のドーラの開発が進まない大きな原因の一つだと聞いた」
帝国ではそーゆー認識なのか。
間違いじゃないなあ。
ドーラ大陸の中でもノーマル人の居住域なんて本当に狭い。
「経験値の高い人形系レア魔物を狙い撃ちすることにより、同伴者のレベルを強制的に上げるという、精霊使いの得意技があるのですよ」
「狙い撃ちできるほど生息しているならレアじゃないだろう?」
「そもそも人形系の魔物を倒す手段はごく限られると習ったが……」
「人形系利用のパワーレベリングができるあたしすごいってことで納得してよ」
「ハハハ、彼女にしかできない技です」
唖然とする二人。
「……面白い。オレ達は何をすればいい?」
現状部下のいないプリンスの下で働いてもらうのがベストだ。
でもドーラがおゼゼ出すと帝国の覚えが悪くなっちゃうんでしょ?
かといってプリンスも身一つで来てるから、私費で雇うわけにいかないだろうしな?
何でもないことのようにパラキアスさんが言う。
「ドーラから新大使に接待費なり貿易振興費なりの名目で金を出そう。それで新大使がお二方を雇えばいい」
うむ、パラキアスさんは悪いやつだ。
ユー様と考え方が似てますよって目でクララが見てくるが、多分気のせいだろう。
「軍人さんにデスクワークさせるのは気が引けるけど、ドーラには軍隊がないんだよ。せいぜい警備兵がいるくらいで」
「ハハッ、軍など必要なければない方がよい。金食い虫だ」
クリークさん軍人っぽくない考え方だ。
やっぱ帝国軍の将官ともなると戦闘指揮官として優れてる、ってだけじゃないんだなあ。
「で、ドーラからプリンスにつけてるのは一人だけ。レイノスって住人の意識と税制の関係でちょっと面倒な町なんだ。そういう事情によく通じているから、頼りなさは大目に見てやって。名前があ……」
「ロドルフだ」
「そうそう、ロドルフ。よろしくね」
クリークさんマックスさんとアドルフが握手する。
うんうん、いいだろう。
クリークさんマックスさんもドーラの事情はあんまり知らないだろうから、アドルフを便利に使ってやってちょうだい。
プリンスが話しかけてくる。
「温まるパワーカードのレポートはどうしたらいい?」
「……プリンスが直接貿易商に渡した方がスペシャル感があるね」
「うむ、わかった。では少し先だな」
貿易商が来たら呼んで欲しいけど、先方の都合があるから難しいか。
おっと、クリークさんマックスさんがわかってなさそうですね?




