第744話:ドーラで最も輝かしい個性
飛空艇の艦長だったクリークさんが、しみじみ言う。
「君がドーラの人間だったとは……ようやく全部理解できた。要するに飛空艇をドーラ戦に使えなくさせ、テンケン山岳地帯で陽動することによってドーラ戦の継続を諦めさせる狙いだったんだな?」
うわ、もうバレた。
まーあんだけ派手に暴れてちゃわかっちゃうわな。
「ごめんよ。ドーラは帝国と仲良くしないと未来がないから、山でおかしな工作してるって知られるのはよろしくなかったの」
「……移民にしても貿易にしても、カル帝国との友好なくしては独立前の方がいいという状態になりかねないということか」
「うん。だから山岳地帯の内乱とドーラは、表向き無関係じゃないといけなかった」
「まさかそこまで余裕をもって戦況をコントロールされていたとは……」
余裕なんかなかったわ。
特に飛空艇から脱出する時は、ちょっと判断が遅かったら死ぬとこだったわ。
「おかしいと思ったんだ。どうしてあんな山の中に、信じがたいほど高レベルの少女がいるのか。渓谷の魔物全部倒したって到底追いつかないしな」
「ドーラは魔物が多いんだよね。レベルだけを考えりゃ、帝国よりも上げやすい環境にあることは確かだよ」
クリークさんの目が鋭くなる。
「……ドーラには帝国と行き来できる秘密の技術があるのか?」
「とゆーわけじゃなくて。『アトラスの冒険者』って知ってる?」
クリークさんとマックスさんが顔を見合わせる。
「『アトラスの冒険者』か。噂程度には。転送でクエストを解決する世界の調整者だとか」
「御伽話の類だろう? 転移転送が実用化されてるなんて話は聞いたことがない」
「ドーラには現役の『アトラスの冒険者』がいるんだよね。あたしもなんだけど」
「伝説ではなかったのか……」
『アトラスの冒険者』が帝国でどういう風に思われてるかがよくわかって興味深いな。
ある程度教育を受けている人か、それとも軍人だと聞くことがあるってことなのかな?
どちらにしても現実の存在とは考えられていないようだ。
あたしだって今でも『アトラスの冒険者』についてはわかんないことがメッチャ多い。
異世界がこっちの世界に何か目的があって組織してるなんて言ったら、なおさら意味不明扱いされそう。
「ドーラに『アトラスの冒険者』は何人もいるんだ。昔は帝国人の『アトラスの冒険者』もいたんだけど、一般人の武器所持が法律違反になったから選ばれなくなったんじゃないかって説があるよ」
「ふうむ。それで君がテンケン山岳地帯に現れたのは?」
「たまたまあたしはあの山岳地帯の村への転送魔法陣を持ってたの」
パラキアスさんがニヤニヤしてやがる。
あっ、ミスティさんがあたしに山の集落行きの『地図の石板』を渡したのは、パラキアスさんの指示なのか?
いや、どー考えてもあれは偶然だよなあ。
「あそこは貧しい聖火教徒の村だったよ。反乱なんて根も葉もない噂で、それなのに爆撃食らうのは可哀そーでしょ? だから村人は全員ドーラに連れてきた。もうすっかり馴染んだよ」
マックスさんが声を上げる。
「あっ、じゃあ村人を逃がすために時間稼ぎしていたと言うのは!」
「反乱を引き伸ばすための方便。実際にはあの時、村人は全員ドーラに転移してた」
「何とまあ……」
クリークさんが言う。
「二つわからないことがある。聞いていいか?」
「どーぞ」
「報告書にあった高位魔族とは何だ?」
「ヴィルカモン!」
赤プレートに指示するとすぐにヴィルが現れる。
リモネスのおっちゃんには会わせたけど、クリークさんとマックスさんにはヴィルを会わせてなかったな。
「御主人の召喚に従いヴィル参上ぬ!」
「今日早かったね?」
「重要人物が揃ってたから、呼ばれるかもと待ってたんだぬ」
「よーし、ヴィル偉い!」
ぎゅっとしてやる。
「……なるほど、悪魔だな?」
「悪魔ぬよ? 御主人、この二人は誰かぬ?」
「クリークさんとマックスさんだよ」
「よろしくお願いしますぬ!」
「「よろしく」」
「主に連絡係をやってくれてるうちの悪魔だよ。他の聖火教徒にとばっちりが行くといけないから、ヴィルを使って反乱は聖火教徒じゃないよーって偽装してたの」
「ははあ、なるほど」
頷く二人。
「もう一つ、どうやってリモネス殿を騙した? 報告書にはドーラのことなど一言も書いてなかったぞ」
リモネスのおっちゃんは皇帝陛下の相談役で、『サトリ』の固有能力を持つ。
ウソは通用しない。
「あのおっちゃんを騙すことなんか不可能だなー。でも聖火教徒だから。こっちは住居跡吹き飛ばすこととヴィルを使うことで聖火教徒じゃないって誤魔化しとくんで、おっちゃんもあたしとドーラのこと誤魔化しといてって頼んだの」
「何てこった! リモネス殿とグルだったのか」
「人聞きが悪いなー。双方の利益のためだよ。誰も損しない」
「あのリモネス殿を丸め込むとは……」
愕然とする二人。
どうやらリモネスのおっちゃんは、帝国ではかなり信用されてる人らしい。
「パラキアス殿、ドーラにはこのような少女がまだいるのですか?」
「彼女は例外です。ドーラで最も輝かしい個性です」
「褒めてくれてるんだよねえ?」
「もちろんだ」
首を竦めるそのポーズさえなければ、素直に褒められたと喜んでおくのに。
どーもパラキアスさんは信用できない。
「で、オレ達をドーラにおびき寄せたその心は?」
「優秀な人が欲しかったの。ねえ、オルムスさんパラキアスさん。プリンスの下で働いてもらっていいよねえ?」
「まさにそのことを相談している最中だったのだ。しかし……」
うむ、ドーラが帝国の意向に逆らってプリンスに手下を、しかも元軍人をつけるわけにはいかない。
「クリークさんマックスさん聞いた? プリンスが新大使として赴任したんだけど、随員一人もいなかったんだよ」
「聞いた。出来の悪い笑い話のようだな」
「これ笑い話にするためには、ちょーっと努力と工夫が必要みたいなんだよね。メキスさんお願い」
メキスさんが頷く。
メキスさんは元情報部隊の隊長で、ドミティウス第二皇子に報告を上げていた立場だ。
あたしが言うより信憑性があるだろ。
「どこから話せばいい? ドミティウス殿下が悪魔バアルとベッタリのところからか?」
「「!」」
クリークさんとマックスさんが驚愕する。




