第741話:いかにもな宝箱
フイィィーンシュパパパッ。
「宝箱を覗く時、宝箱もまたこちらを覗いているのだ」
「姐御、ちょっと何言ってるのかわからねえ」
「やれやれ困ったもんだ。あたしにもわかんない」
アハハと笑い合う。
今日は昼頃に移民が来るという予定なので、レイノス港へ見に行くつもりなのだ。
だから午前中にザクザク宝箱のイベントにやって来た。
あたし達が宝箱を楽しみに待つ間、宝箱もまたあたし達を待っているからだ。
クララがポツリと言う。
「……主催者は何を考えてこんなクエストを出してるんでしょうねえ?」
「おっ、クララが今更なことを言い出したよ? あたし達がいい子だからとか、どーしてもあたし達に貢ぎたいからでよくない?」
「それもそうですね!」
「……あれっ? クララがあんまり簡単に考えることを諦めると、こっちが不安になってくるぞ? 新しい罠かな?」
クララは良識派とゆーか常識派とゆーか。
うちのパーティーの要の部分を引き受けてくれているから、あたしが自由な発想で物事を考えられるという側面があるのだが。
まーでもザクザク宝箱クエストは考えても仕方ないしな?
「ボスもリトルシンキングね」
「リトル睡眠が何だって?」
冗談はさておき。
「主催者さんの提示する今日のテーマはわかりやすいね」
「そうでやすね」
いつもは整然と四列四個ずつ並んでいる宝箱が雑然としている。
「雑然とってのはちょっと違うか。左右対称に配置されているしな?」
「後ろから一、二、三、四、五、一個になってますねえ」
ははあ、三角形に配置して余った一個を前に持ってきたのか。
配置から浮いている手前の一個に注意させようっていう試みかな?
色々考えてくるなあ。
「これはこれであたし達を楽しませようとしてくれてるのかもしれないから、素直にもてなされようか」
「ザッツライト、オールライトね」
「立札に変化ある?」
「特には。昨日の附則は削除されています」
昨日は一個宝箱を引くたびに現金収入が倍々になっていき、最後に大金かと思わせて箱一杯の魔法の葉という大仕掛けだった。
べつに大仕掛けではないか。
気分的にはえらい盛り上がった。
実に愉快だったけれども、昨日限定の特別ルールだったようだ。
「宝箱を開ける前には禊のための準備が必要だね」
「銅鑼を鳴らすということですね?」
「そーゆーことだ。ガンガンする人!」
「「「はい!」」」
「グオングオングオングオングオングオーン!」×三。
何ていい音なんだろう。
聞いてるだけでも気持ちいい。
「姐御は叩かないんでやすかい?」
「いや、溜めて溜めて最後にガンガンしようかと思って。心の奥底から溢れ出るマグマを怒涛の如くぶつけるの」
「イッツベリーナイスね!」
ハハッ、楽しみ方無限大だ。
「さーて、今日もお宝をかっぱごうじゃないか!」
「トゥデイはどのトレジャーボックスがヒットね?」
「一番手前のいかにも怪しいやつだよ。他のは開けちゃってね」
「「「了解!」」」
ハハッ、怪しそうな宝箱が本当に当たりだわ。
いかにもなやつを当たりにしといて、不思議な縁を演出しようとしたってムダだわ。
あたしはもう、全部のお宝をかっぱぐことに決めたからな。
うちの子達が散っていき、宝箱を開け始める。
「大型の魔法使いの杖です!」
「船の絵だぜ!」
「キャッシュ五〇〇〇ゴールドね!」
「レア素材『オリハルコン』です!」
「ドーラ大陸と周辺の海の地図だぜ!」
「何かのマジックアイテムね!」
「大木と道の絵です!」
「クリスタル製の頭蓋骨だぜ!」
「コモンマテリアル詰め合わせね!」
「包丁です!」
「何かわからん絵ですぜ!」
「マスクのピクチャーね!」
「現金五〇〇〇ゴールドです!」
「現金五〇〇〇ゴールドだぜ!」
「ロープね! マジックアイテム!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「はーい、しゅ~りょ~! 今日もたくさんのお宝をゲットできました。主催者に感謝!」
しかし毎回毎回結構なアイテムが出てくる。
いろんなお宝を持ってるもんだ。
主催者は結構すごいやつなのかな?
さてと、本日の獲物に検討を加えよう。
絵や現金以外に、比較的変わったものが多く出た。
ドーラの地図は嬉しいなあ。
「水晶ドクロはマジックアイテムじゃないんだよね?」
「違いやすね。美術品かと」
「いやでもこれすごくない? 水晶って硬いから細工大変なんだよね? 精巧でメッチャ拘りを感じるわ。作ったの黒の民かな?」
こんなもん作るとすると、彼らしか思いつかないもんな。
でも黒の民だと呪術品ないしマジックアイテムにする気がする。
「包丁も普通の包丁なんだ? 太いね」
「嬉しいですねえ。野菜用の包丁で、素晴らしい業物です」
あれ? クララがかなり喜んでるわ。
いいものっぽい。
普段使いできるものはふつーにありがたいな。
「マジックアイテムのロープって何?」
「思ったディレクションにゴーするね」
端っこを持って念じると考えた方向に伸びていくということらしい。
へー、面白いっちゃ面白いアイテムだ。
橋架ける時や上へものを運ぶ時なんかに利用価値はありそうだけど。
「でもあたし達は飛べるから、これ使わない気がするな?」
「狭いところへ通す時でやすかねえ」
どうだろう、そんな機会があるかな?
「で、問題の何かのマジックアイテムってのは? 用途不明ならイシュトバーンさんに聞こう」
「あっ、これ拡声器ですよ」
物知りクララが知っていた。
帝国で開発された、声を大きくして遠くへ届かせる魔道装置らしい。
「これはあたしらに必要なもんじゃないな。行政府が持っててくれると便利か。今日使うかもしれないからレイノスに持っていくね」
ドーラにはこういうものなさそう。
これまではあんまり必要とする場面もなかったろうけど、今日は移民全員に指示与えるのに使えるかもしれない。
うちにあっても仕方ないものだから、行政府にあげてこよう。
「最後に気持ち良くガンガンしていこうかな。鳴らす人っ!」
「「「はい!」」」
「先にあたしに鳴らさせて。もー辛抱たまらん」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
ああ、気持ちいい。
今まで鳴らすのを我慢してたから、痺れるような心地よさがあるよ。
皆で満足するまで銅鑼を鳴らし、最後にとどめでもう一度ガンガンした後、転移の玉を起動し帰宅した。




