第739話:お布施ぼったくる感がすごい
「サイナスさん、こんばんはー」
食後寝る前恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは。今日は御苦労だったね』
「世界樹切り出しのこと? メッチャ大変だったわー。メンバーが二人増えちゃって、ペペさん用に余計に買ってったお弁当が数ピッタリになっちゃった」
『ユーラシア的にはそういうのが大変にジャンル分けされるんだな?』
「予定外のことが起きると面倒だよね。どーもあたしの人生、予定外のことが多過ぎる気がするけれども」
まー結局ワイバーンの卵をゲットして事なきを得た。
ペペさんも大喜びしてくれたし、よかったよかった。
『楽しそうだね。問題はないんだな?』
「あたしは眠いだけだから問題ないよ。ペペさんや手伝ってくれた冒険者連中は全然へーきだな。デス爺大丈夫そうだった?」
何だかんだで結構歳だから。
こっち現地で解散だったんで、その後の様子がわからん。
『特別変わったことなさそうだったぞ?』
「じっちゃんは自分の調子がどうだってところ、他人に見せないからわかりづらいよね」
『確かにな』
もっともあたしが見てもおかしいところはなかったけど。
ゆっくり寝るといいよ。
「材木は開拓地に積んであるんだよね?」
『ああ。太いやつは楔を打ち込んで割って、大体同じくらいの太さにしてある』
「へー、なるほど。黄の民がやってくれてるんだ?」
『ああ。独壇場だったぞ』
「じゃあ、水路と貯水池の方は他の人達が頑張らないといけないねえ」
『やらなければって皆が奮起していたぞ』
うまいこと皆が働いてくれているらしい。
もっとも黄の民が材木の扱いに長けているところを移民に見せれば、小屋建築の注文がドカドカ入るんじゃないの?
フェイさんはどうせそこまで計算してるわ。
「木材は足りそうなの?」
『正直オレが見てもわからんが、フェイ族長がこれでいいって打ち切ったから、当面足りるんだろう』
「そっかー。世界樹からはまだまだ切り出せるから、足んなくなったらまた教えてね」
『デスさんも同じこと言ってったな。……ペペさんはどうだったんだ?』
「ワイバーンの卵のスクランブルエッグがおいしいって」
『え? いやおいしいんだろうけど』
「あ、サイナスさんも食べたことなかった? 今度手に入れたら持ってくよ」
『ありがとう。いやそういうことじゃなくって……』
どういうことだったろ?
『ペペさんはお疲れじゃないかってことなんだが。小柄な女性なんだろう?』
「何でペペさんが疲れるの?」
『御活躍だったんじゃないのか?』
「ペペさんを活躍させてどうするんだよ。世界樹折っちゃうようなとんでもない人だぞ? 働かせたら全てが灰燼に帰すわ」
どうもサイナスさんはペペさんのことを根本的に誤解してるような気がする。
「サイナスさんはあたしのことをトラブルメーカーだと思ってるっぽいけど、大きな間違いだぞ? トラブルメーカーとはペペさんのような、アクシデントの星の下に生まれてきた人のことをゆーのだ」
『……冗談じゃないんだな?』
「恐ろしいことに冗談じゃないんだよ。ペペさんを働かせないために、三人ついて来てくれたくらい」
『ははあ?』
「十人会議でも余計なことするなって言われたらしいよ。要するに撹乱要因としか見做されてない」
『随分とひどいな?』
動かしがたい事実。
「ペペさんが動くと事件になりそうだから、動くなって言われてたんだよ。なのに何もしてなくて申し訳ないって言うんで、あたしが水魔法を作る仕事を振ったの」
『水魔法というと、例のお茶用のか?』
「そうそう。もうスキルスクロールになって売ってるんだよ。ペペさんこの手の仕事早いからなー」
『お茶とセットでぼったくるんだな?』
「うん。水魔法だけじゃなくて、簡単な魔除けの魔法とか消火の魔法とか? 誰が使えてもいいような魔法を作ってもらって、輸出しようって話してあるんだ。ペペさんにしかできないことだし」
ペペさんにも儲けてもらいたいしな。
『君もたまにはいいこと言うんだな』
「あたしの言うことは常に疑いなく間違いなく有用なんだよ」
『その手の言い方は詐欺師か宗教家しかしないからな?』
「何教だろ? 美少女聖地母神教?」
『お布施ぼったくる感がすごい』
アハハと笑い合う。
「明日移民の第一陣が来るんだ。だからレイノス行ってこようかと思って」
『リリー皇女も連れていくという話だったか?』
「うん。プリンスルキウスの晴れ舞台だろうし」
プリンスが挨拶で出張ると、『威厳』が効きまくるだろうなあ。
きっと移民の皆もビックリしちゃうわ。
帝国の人の前にプリンスが登場する機会があれば、再評価されるきっかけになるだろうに、惜しいことだ。
ドーラに島流しなのが痛い。
『君は単に見物に行くんだろ?』
「いやだなあサイナスさんたら、その通りだよ」
まあ明日は出番があるはずもない。
「穀物の種を持ってこられる人が優先的に来るはずなんだ。あたしがやることといったら、そのチェックだけだな」
『いや、本当に今年蒔く分足りないから頼むよ』
「わかってるわかってる。明日の通信で報告するからね。希望に満ちてドーラへ来る人が多いんだろうから、楽しみだよ」
メキスさんの話では、ドーラが温暖で耕作に向いてるというのは本土で有名ということだった。
ならばそれなりにドーラ向きの作物の種を持ってきてくれるんじゃないかと思う。
数年すれば、ドーラの農産物生産量は飛躍的に向上するはず。
『移民の受け入れも、最初の一年が重要だな』
「要領がわかんないもんねえ」
大量移民受け入れの経験がないだけに、何が起こるかわからん。
逆に今年を乗り越えられれば、来年以降は何とでもなる。
開拓地の水路もかなりの部分が完成しているだろうし。
『変わったことは起きそうなのかい?』
「え? 変なフラグは立てないでおくれよ。あたしだけのイベントじゃないんだから」
『君はハプニング大好きなんだろう?』
「大好物だけれども」
まったくサイナスさんはいらんことをいう。
ちょっと楽し……心配になってきたじゃないか。
「じゃ、あたし眠いから寝る。サイナスさんおやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日は午前中にザクザク宝箱がいいな。
昼前に塔の村へ行って、リリーと会おう。




