第737話:ポスター販売まずまず好調
帰宅後、ヴィルにイシュトバーンさんから昨日のアンセリの絵を持ってきてもらった。
明後日サフランの絵を描いてもらうことを連絡してある。
「サフランはいい女かって聞いてきたぬよ?」
「安定のイシュトバーンさんだな。ヴィルは何て答えたの?」
「御主人が選んでるから間違いないぬと答えたぬ」
「よーし、ヴィルいい子!」
ぎゅっとしたろ。
イシュトバーンさんはどーしてあたしの選定眼を疑うんだか。
どーんと構えてりゃいい女が集まるわ。
「じゃ、ヴィルは通常営業に戻っててね」
「営業じゃないぬよ?」
「そーだった」
ヴィルをもう一度ぎゅっとしてリリースする。
さて、あたしはアンセリの絵を版画屋さんに置いてこなければ。
◇
「精霊使いユーラシア参上!」
「ハハッ、いらっしゃい」
緑の民の村の版画屋へ行くのだが、途中で緩衝地帯の緑のショップに立ち寄った。
ニルエとクララのポスターの販売を始めているのだ。
「いいねえ。売れる?」
「ああ。まあまあの出足だ」
画集がどれだけ売れるかの、ある程度の目安になるだろう。
出足好調は何より。
「まだ二種類だからなー。こういうのはたくさん並べて、どれかを買わねばって思わせるのがいいよねえ」
「おお、そうだな」
今更気付いたようにショップ店員が言う。
「ということは、まだまだ新作は来るんだな?」
「画集にするやつだから、ある程度の枚数は必要だねえ」
「楽しみが待ってるじゃねえか」
「まだまだすごいのが来るから期待してて。これ今日仕上がってきた原画だよ。見る?」
アンとセリカの絵を見せる。
「もちろん。おー、これもいいな」
「これはポスターにしていいやつだからね。儲けてちょうだい」
「楽しみにしてるよ」
「じゃねー」
ふむふむ、これはあえて大げさに宣伝しなくてもいいだろう。
美人画ラインナップが増えていく内に、口コミで人気爆発しそう。
今は緑の民のショップ店員も余裕ぶっこいてるけど、いずれてんてこ舞いになると思いますぞ。
急ぎ足で緑の民の村へ。
「こんにちはー」
「おう、精霊使いか。また新しい絵かい?」
「そうそう。お願いしまーす」
アンセリの絵を版画屋に渡す。
感心する版画屋さん。
「いや、これもすげえな。絵師はどんな人なんだい?」
「元レイノスの商人で、今は引退してる人なんだ」
「本業の絵師じゃねえんだ?」
「違うんだなー。でも不思議な魅力のある絵を描くじゃん?」
頷く版画屋さん。
きっとイシュトバーンさんは美人画絵師としてすげえ有名になると思うよ。
多分画集がメチャクチャ売れちゃうから。
「……今日の二枚もポスター販売していいんだな?」
「うん、いいよ」
おーおー、喜ぶ喜ぶ。
「女の子からの評価が高いんだよ」
「え?」
「いや、今販売してる『クララ』や昨日の『アリス』の話だけどな。可愛いって」
「そーなの?」
意外だな。
『クララ』や『アリス』みたいな比較的可愛い系の絵は女性需要も見込めるのか?
残りのモデルで可愛い系になりそーなのは『ペペ』と『マーシャ』、あと強いて言えば『エル』と『リタ』か。
画集は女性にも売れちゃう?
「困ったなー。画集の販売見込みを上方修正しなきゃいけないかも」
「ハハッ、困りゃしねえじゃねえか。今日の『アン』も凛々しいだろ? 女性ウケするんじゃねえかな」
「なるほどー。あたしおっさん目線でしか見てなかったよ」
「おっさん目線だと『サクラ』やこの『セリカ』みたいなので固めた方がいいだろ?」
「ところが考えた通りにいかないんだよ。いろんなフェチの人がいるから。例えば『アン』でも、射られたい人が釣れるんじゃないかな」
「ええ? 高度過ぎねえか?」
「ま、いろんな需要に応えるってことで」
何せ単価が安いのだ。
幅広い層を購入者に想定しなくてはいけない。
女性にも売れそうというのは予想外だったけど朗報だ。
「いろんな需要ってことは、今後はもっといろんな女の絵が来るってことかい?」
「カンがいいね。海の女王とかエルフの族長、神様として祀られてる少女霊もモデルになってもらう予定だよ」
「あんたすげえとこにコネがあるんだな?」
「呆れるんじゃなくて、あたしを大いに尊敬するところだぞ?」
アハハと笑い合う。
「とゆーわけで、今後二度と集められないようなモデルさん達の画集になるよ」
「今の話で理解できたぜ」
「価格も革命的に安いからメチャクチャ売れる」
「おう、その通りだ!」
「あたし達が歴史を作るのだ。気合い入れるぞ!」
「任せておけ!」
ハハッ、ちょーっと煽ったった。
やる気になってくれるといいな。
版画屋さんがきまり悪げに言う。
「な、なあ。一つ頼みがあるんだが」
「ん? 『サクラ』のポスター化ならダメだぞ?」
「やはりダメか……」
「内容全部晒すのはさすがになー。画集買ってくれる人に楽しみなくなっちゃうもん」
「……だよな」
テンション下がってるぞ?
モチベーションがなくなるのは困るなー。
「じゃあ、ポスターとして売るのはダメだけど、一枚刷ってこの店に貼っとくのはありでいいよ」
「え?」
「サクラさんはドーラ一の美人だからね。『サクラ』に見つめられてるなら気分いいでしょ? あの絵貼ってあればお客さん増えるよ」
「お、おう。すまねえな!」
まあそこまでは許すつもりだったからいいのだ。
「そーだ、あたしの分も『サクラ』一枚刷っといてくれる? 刷り賃は払うから」
「構わないが、何にするんだ?」
「販促に使うんだよ」
「おお、なるほど!」
「特に流通や小売りに関わる業者さんに見せて、初版部数を多くしたいってのが主な目的かな」
この画集はどうせ売れるけど、初版部数が多ければ多いほど人の目に触れる機会も多くなり、売れるまでの期間が短くなる。
つまり次の仕掛けが早く利くってことだ。
カラーズの、あるいはドーラのやってることに注目してくれるならベスト。
新聞にも協力してもらえそう。
「じゃ、あたし帰るね」
「おう。次の絵はいつ持ってくるんだい?」
「えーと、予定では三日後かな。黒の民のドレスの子だよ」
「ああ、知ってる! 時々ショップで売り子やってる子だよな? あの子も可愛いよな」
「とゆーか他の黒の民は皆フードで顔覆ってるから、美人かどうかわかんないわ」
「ハハッ、もっともだ」
笑いのあと別れを告げ、転移の玉を起動し帰宅する。




