第735話:ぐおおっっていう成体と消し飛んだ成体
「で、残りのあたし達は魔物狩りと素材採取ね」
ダンが呆れた顔をして言う。
「作業班を守るって役割どこ行った?」
「二の次?」
「まああんたの方針はそんなもんだ」
うむ、ダンは正しくあたしを理解している。
まーでも狩りまくってりゃ作業班のところに魔物なんか行きそーにないわ。
「おい、黒ドレスちゃんのレベルはちょっと不安だろ。あんたんとこのパーティーがフルメンバーじゃねえことは頭入ってるだろうな?」
クララとダンテが作業班だからってことか。
あの二人は火力じゃないから大丈夫だぞと言いかけて、魔法使いダンテが『実りある経験』や『豊穣祈念』しか使ってないことに改めて気付いたわ。
「サフランは『抑圧者』って固有能力持ちなんだ」
「どんなやつだ?」
「簡単に言うと、魔物が魔法攻撃してこなくなる。メッチャありがたい」
「ほお? ちょうどクレイジーパペット二体が来たぜ」
レッツファイッ!
クレイジーパペット二体は何もしてこない。あたしの薙ぎ払い!
「ざっとこんなもんです」
魔宝玉を拾いながらダンが言う。
「結構な能力じゃねえか。あんたが得意げなのはわからねえが」
「あはは」
サフラン嬉しそう。
ピンクマンも満足げ。
「サフランに頼みがあるんだよ。絵のモデルになってくれないかな?」
「絵のモデル?」
何の関係もないだろって?
いーんだよ。
気分が乗ってて、オーケーの出やすいタイミングなんだから。
画集の説明うんぬんかんぬん。
「……というわけなんだ。ピンクマン、いいかな?」
「……何故小生に聞く?」
「最近あんた達つるんでるじゃないか。サフランだけに聞いたって片手落ちでしょ」
とゆーかピンクマンが賛成ならば、サフランは断りゃしないわニヤニヤ。
ダンもニヤニヤ。
「……サフランが了解しているのならば」
「やたっ! サフラン、いいかな?」
「はい、もちろん!」
「女性を最大限魅力的に描くことに関しては、信頼していい絵師だからね」
あれ? でもピンクマンはえっち風味の絵に興味あるかな?
イシュトバーンさん、ロリっぽく描くわけじゃないからな。
しかしいろんな層に画集が売れて欲しいこともまた事実。
まあいい、お手並み拝見だ。
「いつが都合いい?」
「アターシはいつでもいいですよ」
「ピンクマンの都合は?」
「……何故小生に……」
「イシュトバーンさん連れてくること考えると、ギルドで待ち合わせることになりそうだからさ」
モデルのサフランにはサービスだ。
ムリヤリにでもピンクマンとサフランの都合を合わせたる。
いや、本当は黒の民の村で描かせてもらうんでも一向に構わないんだけどニヤニヤ。
「……小生はいつでも構わん」
「じゃ、明後日午前中にギルドでいいかな?」
ピンクマンとサフランが頷く。
「楽しみだな。俺も見に行くぜ」
「ヴィルはお休みかな。イシュトバーンさんが描いてる時の周囲の興奮を吸っちゃうと、変な酔い方しちゃうんだよね」
こっちはオーケー。
あとでイシュトバーンさんに連絡だな。
探索(護衛だったっけ?)スタート。
◇
「やたっ、ワイバーンの卵だ! お昼に食べよう」
お弁当を二個余分に買ったつもりだったが、ピンクマンとサフランが飛び入りで参加したので、人数分ピッタリになってしまったのだ。
他に食べる物がないと、大食いのペペさんがエネルギー切れを起こしてしまう、なんてことはないか。
ともかく食材をゲットできたことは嬉しいことだ。
「昨日、チュートリアルルームで初めて例の新人に会ったのだ」
「聞いた聞いた。ピンクマンとサフランの格好を見て、こんなん冒険者じゃねーってヒステリー起こしたんだって?」
「何だその話。俺にも聞かせろ」
ゴシップ大好き男が興味津々だ。
あたしは新人の子に会ってないんで、大して話せることがあるわけではないんだが。
「ちょっと待って、クレイジーパペット倒しちゃう」
よしよし、透輝珠と藍珠ゲット。
「今の新人さんの教育係がピンクマンでさ。警戒心の強い子みたいで、なかなかクエストに踏み出してくれない。武器も受け取ってくれないってことなんだ」
「ははあ? つまりこの二人の格好を見て不信感持ったってことだな?」
「御名答。その新人、他人のレベルがわかる固有能力持ちだって言うから、ピンクマンとサフランが実力者だってことはわかるはずなんだけどな。あんまり服装がデタラメだから拒否反応起こしたんだと思う」
「おい、デタラメなやつにデタラメって言われてるぞ? 申し開きはあるか?」
ピンクマンが苦笑する。
「他人のスタイルに文句をつけるのは未熟さゆえだな。サフランに至っては冒険者ですらないわけであるし」
「『アトラスの冒険者』によくわかんないところがあるのは、否定できない事実なんだよねえ。新人さんが警戒するのも理解はできる」
「ユーラシアがそいつ見てやればいいじゃねえか。あんたの格好は普通だろ」
「いや、あたしも一見手ぶらだから、冒険者らしくないっちゃらしくないじゃん? とゆーか、毎日チュートリアルルーム行ってるんだけど会えないんだよ。縁がないのかもしれない」
「天下無敵の珍獣と会えねえってのは、そいつも人生損してるよな」
「おいこらちょっと待て、天下無敵の珍獣ってのは誰のことだ」
「おおヴィル。いい子だな」
露骨に話題を逸らすダン。
ちょうど報告に降りてきたヴィルに話しかける。
「いい子ぬよ? 御主人、北側にサンダードラゴンが出たぬ」
「ドラゴンも少しはいるんだな。放っとくと危なそうだからちょっと行ってくるね。こっちは任せたよ」
あたしとアトムが『遊歩』で飛んで、サンダードラゴンの元へ。
◇
「ワイバーンの卵って、とってもおいしいのねえ!」
昼食に買ってきたお弁当と、ワイバーンの卵の殻を頭の部分だけカットして火にかけ、塩入れてかき混ぜるピンクマン式スクランブルエッグを食べている。
簡単だけど美味いんだよなー。
ペペさんの感動もよくわかる。
マジで美味いものは素材を生かす調理法がいい。
「ペペさんはワイバーンの卵を食べるの初めてだった?」
「初めてなのよ。ワイバーンはぐおおっっていう成体と消し飛んだ成体しか見たことないから」
「おおう、ペペさんなら当然だわ。愚問だった」
ロマン砲のビフォーアフターしか知らないはず。
卵の運命などわかりきっている。




