第732話:この画集メチャクチャ売れるだろ
ソル君が言う。
「先日いただいた箱ですけど」
「ああ、聖風樹の箱? いいでしょ、あれ」
「うちの女性陣三人が、あの箱に入れておくと野菜が萎びないって大喜びしてます」
「喜んでもらえてよかったよ。あれ食料品じゃなくて、違うものに使ってもいいのかもしれないから、有効な使用法に気付いたら教えてくれる?」
「はい」
あ、セリカの絵も描けたらしい。
早いな。
「「「「画伯! 画伯! 画伯! 画伯!」」」」
「おおう、画伯コールか」
「よし、あとは家で仕上げるぜ。二人ともありがとうな。最高の画集にしてみせる」
「「こちらこそありがとうございました!」」
アンセリにお礼の透輝珠を一つずつ渡す。
「あんた達はこういうのいらないかもしれないけど、モデル代の気持ちだからもらってね」
「「ありがとうございます!」」
ソル君パーティーばいばーい。
ダンが聞いてくる。
「おい、この画集メチャクチャ売れるだろ」
「ダンもそう思う? 誰が何と言おうとメチャクチャ売れちゃうねえ」
「何部刷るんだ?」
「まだ決めてないな。生産や小売りの方の都合もあるから、あたしだけで決められないんだよ」
ダンよ、あんたはあたしがこれ輸出するつもりなの知ってるだろうが。
心配そうな顔しなくたって皆に行き渡るってば。
せいぜい宣伝しといてね。
「ダナリウスよ。精霊使いは最大限の儲けに走るから、手に入らねえことを心配する必要はねえんだぜ」
「そうか?」
「まーあたしはガンガン刷ってガンガン儲けてもらいたいね」
「ん? あんたは儲からねえのか?」
「あたし個人は一〇万部売れたとしてもほぼトントンじゃないかなー。画集の単価が安いから、イシュトバーンさんだってあんまり儲けにならないよ」
出版元と本屋は儲かると思うけど。
「オレはたくさんモデルに会わせてもらえば満足だぜ」
「でもこの画集は世界的に売れちゃう予定だから、美人画絵師イシュトバーンの名は世界に鳴り轟くね。ぜひ私を描いてって人が大勢訪れるようになる」
「おい、本当かよ?」
「でもイシュトバーンさん好みのモデル候補ばかり集まるわけじゃないぞ?」
ハハッ、イシュトバーンさんが微妙な顔になった。
でも画集が売れてイシュトバーンさんが有名になっちゃうところまではまず間違いないよ。
「御苦労様。ミントティー飲む?」
「いただこう」
一つ追加で注文する。
「今日の絵も明日取りに行けばいいかな? ヴィルに行ってもらうけど」
「ああ、昼過ぎなら構わないぜ」
「ん? あんた自分で行かねえのか。何か用事でもあるのか?」
ダンが聞いてくる。
「世界樹切りに行くの」
「「世界樹?」」
イシュトバーンさんもダンも首の角度が同じですぞ。
世界樹切りに行くだけじゃ意味がわからんか。
「移民に使ってもらう木材が足んないんだよ」
「ああ、住居用とか薪とかのか」
「そうそう。だから例の折れちゃった世界樹使おうと思って」
「どうやって?」
「木を切るのにちょうどいいエルフの風魔法があるんだ。適当な大きさに切断して、デス爺の転移術で掃討戦跡地まで運ぶ」
「ははあ、デスさんをこき使うわけだな?」
「すげえな、転移術」
転移術はすごいよなー。
便利だけど、デス爺は孫のアレクにすら転移術の真髄を明かしていないみたいだ。
悪用されるのを嫌ってるのかもしれないし、単に危険だからかもしれない。
「で、明日の朝、ギルドでペペさんと待ち合わせなんだ」
ダンが言う。
「なあ、俺も明日ついて行っていいか?」
「あっ、助かる! ペペさんにロマン砲撃たれて世界樹が粉微塵になったら計画がパーになりそうなんだ。見張っといてくれる?」
「この頼れる男に任せておけ」
「オチについては頼れる男に任せておくよ」
イシュトバーンさんが言う。
「あんたはこれからオレを送って、その後どうするんだ?」
「雨だからなー。今日は早く寝ようかな」
「もうかよ!」
「乙女の美容と健康には睡眠が大切なんだもん」
アハハと笑い合い解散。
マジックウォーターを多めに購入して、転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「こーんにーちはっ!」
「あっ、ユーラシアか。どうしたんだい?」
雨がやんだので、灰の民の村に『遊歩』で飛んできた。
ちょっとサイナスさんと話をするだけなので一人だ。
「さっきギルドでイシュトバーンさんに絵描いてもらってたんだよ。他の冒険者達が群がっておかしな雰囲気になっちゃってさ。ヴィルが当てられて酔っぱらっちゃったの。夜に連絡取れなさそうだから、サイナスさんが寂しがるといけないじゃん?」
「ハハッ、恐縮だね」
「昨日の絵ができてきてるんだ」
アリスとおっぱいさんの絵を見せる。
「……両方素晴らしいが、なるほど、これがおっぱいさんか」
「すごいでしょ? これはポスターにするの禁止」
「画集のウリにするんだな?」
「うん。でも版画屋に一枚だけ飾るのはありにしておこうかと思ってる」
「商売が上手いな」
サイナスさんが苦笑する。
例を見せてやった方が版画屋さんも儲かるだろうから。
つかおっぱいさんのえっち絵が飾ってあったら、皆見に来ちゃうわ。
「今から緑の村へ行くのか?」
「行く。版の製作を頼んでくる」
画集は極めて順調なのだ。
「こっち何か変わったことある?」
「明日の世界樹切り出しについては、カラーズ全村の了解が得られた。かなりの人数を動員することになる」
「わかった。朝にデス爺を迎えにくるね」
「よろしく。それから次回の輸送隊は休みだよ」
「え? 何で?」
サイナスさんが説明してくれる。
「移民が来るだろう? デカい台車と大勢がすれ違える道じゃないし、急遽物資が必要になることもあり得る。移民も途中の自由開拓民集落で分宿することになるだろうしな」
「道理だねえ」
カラーズ~レイノス間の道は、いずれアルハーン平原の人口が増えるとドーラの大動脈になるだろう。
少しずつでも整備したいもんだ。
でもドーラにはおゼゼがないしなー。
「明後日移民が来る時、あたしもリリー連れて見に行ってくるよ」
「ん? 面白がってトラブル起こすなよ?」
「失敬だな。トラブルは起こすんじゃなくて勝手に起きるんだぞ?」
おかしいな?
トラブル起きるのが前提になっている。
ワクワク。
「じゃ、あたし緑の民の村行ってくるね」
「ああ、トラブル起こすなよ」
しつこいな。
起こさないとゆーのに。




