第723話:パラキアスさんは悪いやつ
ミスティさんが宣言する。
「では第一弾の移民が到着し次第、聖火教徒全員を動員して開発予定地の魔物退治を行います!」
「……えっ?」
来た移民をいきなりこき使うのか。
ミスティさんやるなあ。
パラキアスさんから含み笑いが漏れてるよ?
「移民が来るのが三日後だから、もう少しあとってことだね」
「最短で五日後になるか?」
「そうですね。天気が良ければ五日後で。では、御協力お願いします。これにて散会。昼御飯にいたしましょう」
「やたっ!」
◇
「ねえ、パラキアスさん。ドーラに触発された帝国の植民地で独立しよーって動きがあって、帝国がそれを抑えようとしてるんだって。どう思う?」
食後にパラキアスさんを捕まえて話をする。
興味深そうな目をしてるなあ。
これイシュトバーンさんのえっちな目と一緒だよね?
「……『全てを知る者』からの情報なんだな?」
「うん」
「ドーラの独立を受けて、各地の植民地で自治を求める勢力が動き出したということか。ありそうな展開ではあるが……」
「やっぱ変だと思う?」
「うむ。精霊使いの意見を拝聴しようじゃないか」
試すような表情をあたしに向けるパラキアスさん。
「初めから帝国はドーラの経営に熱心じゃなかったじゃん。海の一族の支配地域の関係で統治しにくいってこともあるけど、ほぼ放置でさ。おゼゼになんないからドーラいらんって筋書きにすれば、他の植民地に波風立たなかった気がするんだよね」
「その通りだな。外から見えていた状況からすると、ドーラは争いもせずすんなり独立だ。明らかにおかしい。ドーラ独立を状況として生かすなら、帝国政府は説明責任を求められるはずだ」
「だよねえ?」
「説明を意図的に怠る。あるいは各地の独立運動を無視しているようにも思える。この帝国の思惑をどう見る?」
「塔の村のメキスさんが言ってたの。主席執政官の第二皇子はドーラ遠征の失敗を取り戻したい。でも必要な情報を得られなくなるから、内政・人気取り政策・派閥の調整で失点を回復することはできない。おそらく外征を考えてるんじゃないか。悪魔バアルの思惑とも合うって」
「ほう」
パラキアスさんの目が細められる。
「帝国による支配を潔しとしない海外植民地は多いんだ。ドーラに対するような緩い縛りではなく、強圧的な支配が行われている地もある。……ドーラの独立でカル帝国の綻びを見た者は少なくないだろう」
ドーラは円満独立だったのに、綻びと見る植民地もあるのか。
国際関係、とゆーか植民地行政って難しいな。
「一方で君の言う通り、帝国の動きは鈍い。大方裏で独立運動を煽っておいて叩き潰す算段なのだろう。ドーラで功を立て損なった軍部の支持も得られる」
軍部のフラストレーションもあるのか。
多少ガス抜きしとくべきなのか?
「じゃあ放っといた方がいいのかな?」
「ん? 介入する余地があると考えるのかい?」
「介入なんて大げさなもんじゃないけど。帝国がドーラを捨てたのだということを周知させれば植民地の離反は防げるのではないかっていう上申書を、プリンスルキウスから提出してもらえばどうかなーと思ってたの」
パラキアスさんが唸る。
「……なるほど。新大使からの上申書ならば全く不自然ではないな。戦争など無用だと考える派閥をアシストできるかもしれない。その手があったか」
「帝国が対外に消極的になってドーラとの貿易に支障きたすと困るしさ。プリンスもいいとこ見せられるからいいかもって思ったんだ」
「ドーラは従順だとでも報告させれば、こっちには影響ないだろうということだな?」
「そうそう」
「良策だ。ぜひ採用しよう」
やったぜ。
あたしのお仕事はお終い。
あとは行政府にお任せだ。
「この上申書の提出で、新大使はかなり注目を浴びることとなる」
「そーなの?」
「植民地の独立運動を進めさせておいて軍を派遣するという構想は、おそらく主席執政官近辺と軍のごく上層部にしか知らされていないだろう?」
「うん、わかる」
「新大使からの上申書の存在が明らかになると、二つの流れが生まれる」
「二つ? プリンスが非主流派からの支持を広く得られる、だけじゃなくて?」
パラキアスさんがニヤッとする。
それは知ってる、悪い顔だ。
「当然新大使ルキウス皇子は主席執政官ドミティウス皇子の外征目的に気付いていて、牽制のために上申書を送ってきたのだろうと、内容を見た主席執政官近辺は考える。今後ルキウス皇子を軽んじることはできない」
「え? 却ってプリンスの存在を警戒させちゃわない?」
「構わないだろう? どうせ向こうさんも一枚岩じゃないんだ。存在感を見せつけてやった方が寝返らせやすい」
「あっ、パラキアスさん悪いやつだなー」
「褒め言葉と受け取っておこう」
幻影であっても大きい方が拠りどころとなりやすいということか。
とゆーかパワーレベリングと『威厳』の効果で、プリンスの実像も大きくなってるしな?
「……何か第二皇子がコケると本当に逆転ありそうな空気になってきたねえ」
「そうだな。受け太刀ばかりで、肝心の局面で積極的に動けないのは歯痒いが」
こればっかりはしょうがない。
チャンスが転がり込んできた時に何ができるかの勝負だからな。
「パラキアスさん、ユーラシアさん」
ミスティさんが駆け寄ってきた。
方針が決まったからか嬉しそうだな。
「ごちそーさま。大変お腹が満足しています」
「あははっ。どういたしまして。ところで移民の到着は今月の二四日ですよね? 私も立ち会いたいのですけれど、何時頃がよろしいでしょう?」
「あたしも行きたいな。ドーラの新しい夜明けって感じがするし」
「レイノス港を囲んだ艦隊のように、夜間に急行して朝から威圧するなんてことはあり得ない。天候が良ければ昼頃ではないかな」
ふむふむ、軍艦が朝からレイノスを囲んだのは威圧の意味があったのか。
じゃあ帝国は今後もその手を使うかもしれないんだな?
勉強になるなあ。
「昼過ぎなら、寝ぼすけリリーも起きてるな。誘ってみよっと」
「皇女が来るなら盛り上がるかもしれませんねえ」
盛り上げる意図はなくって単なる見物なんだが。
まあプリンスも喜ぶだろうし。
「じゃ、あたし達は帰るね。パラキアスさん、ミスティさんさよなら」
転移の玉を起動し帰宅する。




