第721話:もうとっくに睨まれてるんだからいいでしょ
今後ドーラの方針としては、言うまでもなくカル帝国との関係が重要だ。
移民にしても貿易にしても。
植民地の蠢動から帝国が対外政策を硬化させたりしたら目も当てられない。
ドーラにとっては迷惑極まる。
じゃあどうするか?
「……プリンスルキウスに働いてもらおうか」
「はん?」
「今の時点だと、帝国とゆーか第二皇子がわざと海外植民地の独立機運を放置してるのか、それとも処置が遅れてるだけなのかわかんないじゃん? だから帝国がドーラを捨てたのだということを周知させるのが良いのでは、ってレポートをプリンスに出してもらう」
「ドーラ政府がやっちゃダメなのか?」
「第二皇子の思惑と衝突してドーラが睨まれるのは避けたいなー」
ドーラみたいな田舎国家が何で帝国政府の機微に通じてるって、警戒されるのも困る。
独立が鮮やか過ぎたから、ドーラに疑惑の目を向けてる有力者がいるかもしれないしな?
「皇子殿下が睨まれるのはいいのかよ?」
「もうとっくに睨まれてるんだからいいでしょ」
「見切りがひでえ!」
だって事実なんだもん。
「ルキウス殿下は海外にいるにも拘らず状況を正確に把握しておられるって、中道派穏健派反第二皇子派に評価されれば、プリンスにとっても大いにメリットでしょ。ついでにドーラは従順だぞ言うこと聞くぞーって報告しといてもらえば、こっちに手出してくることないだろうし」
「あんたは先が見えるよな。大体描けたぞ」
「いいねえ。アリス、こんな感じになった」
「まっ!」
見せたら赤くなった。
嬉しいからかな、えっちな絵だからかな?
「せ、性的魅力が十分に表現されてるわね」
「えっちって言っていいんだぞ?」
「いい女はより魅力的に描くのがオレの信条だぜ」
「まっ!」
さらに赤くなるアリス。
まったく人形の顔色が変わるのは、どういう仕組みなんだろうな?
イシュトバーンさんの絵も謎だが、アリスも謎。
「ありがとう、アリス。これ、お礼の透輝珠だよ。隣に置いとくね」
「あら、綺麗ね」
「まだ先になるけど、画集完成したら持ってくるよ」
「楽しみにしてるわ」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「いや、驚えたぜ。あのアリスがあれほど丸くなってるとは」
「どゆこと?」
あたしん家まで戻ったところでイシュトバーンさんと話をする。
アリスが丸くなってるとは?
まさか人形の体形が変わると思えんから、性格のことではあるんだろうけど。
「昔はもっと威張ってツンツンしてやがったんだ」
「そーなんだ?」
「ああ、知識を授けてやるぞって感じだった」
あたしには初めからあんなんだったがなあ。
誰にも会えなくなっちゃったから、人恋しくなったんだろうか?
「あんたがアリスといい関係を築けているってことはわかったぜ」
「んー? でもアリスとは誰だって仲良くしたいでしょ」
「もったいぶってやがったんだぜ? 知識を惜しんでてよ。あんなに普通に話してて、どうなってんだと思ったぜ」
ああ、知識を得ようとアリスに近付く者ばかりだったからか。
「最初に会った時、何か聞きたいことはあるかって聞かれたから、おっぱいさんのおっぱいはどうしてあんなに大きいのって質問したんだよ」
「おおおおさすがだな精霊使い! で、何だって?」
「素質と栄養だって」
「なるほどそうかっ! うんうん」
何納得してるんだよ。
「イシュトバーンさんさー、ひょっとして昔コブタマン食べたことあったのって、本の世界で狩ったやつなの?」
「おう。ドーラには他にコブタマンいないんじゃねえか?」
「本の世界はドーラじゃないんだよ」
「ほう?」
だからえっちな目付きはやめろ。
イシュトバーンさんには話しておこう。
「コブタマン以外の出現モンスターも変わってるな、とは思ったが」
「亜空間上に浮かんでる小さな実空間なんだ。だからこっちの世界とは転移転送の類じゃないと行き来できないの」
「どうやってこっちの世界とは違うと知ったんだ?」
「うちのダンテやヴィルがそういうのわかる子なんだ」
「あんたの家来は優秀だな」
イシュトバーンさんが何かを考えているようだ。
「あんたはいつもあそこで肉狩りしてるんだな?」
「うん」
「狩り尽くすことは考えてねえのか?」
「大丈夫なんだ。本の世界は『永久鉱山』だから」
「『永久鉱山』? 魔力が集まるから、素材や魔物がずっと湧くという?」
「そうそう」
さらにえっちな目になりましたね?
「どうやって知ったんだ?」
「アリスに直接聞いたんだよ。デス爺の仮説によると、本の世界は亜空間上で魔力が集まる位置にあって、長い間放っておくと物質に埋もれて潰れちゃうんじゃないかということなんだ。だから『アトラスの冒険者』でクエストとして振られて、素材や魔物の除去を必要とするんじゃないかって」
「……何であんたのところには面白い話が集まるんだろうな?」
知らんがな。
心掛けがいいから?
「まあいい。オレは帰るぜ」
「あっ、ちょっと待った! 見て欲しいアイテムあるんだ。こっち来てよ」
◇
ザクザク宝箱で手に入れたアイテムを見てもらう。
「この時計は素晴らしいな。人類の機械技術の集積だ」
「あたしもすごいと思った。でもこういうのって手入れが重要なんでしょ?」
「ああ。しかし残念ながら、ドーラにはこいつを作るどころかメンテナンスできる職人すらいねえ」
「そーかー」
イシュトバーンさんも無念そうだ。
やっぱドーラには人材が足りない。
「移民に期待だなー」
「ああ。とりあえず埃の入らねえところにしまっとくか」
「お願いしまーす」
懐中時計もフィギュア以外の美術品と一緒に、イシュトバーンさん家に保管しといてもらうのだ。
他に目ぼしいところでは、一二の石板はやはり一揃いの美術品だった。
真珠は帝国の昔の皇妃が大事にしていたもので、内乱が起きた際に行方不明になってたいわくつきのものらしい。
「こいつは妖刀だ。鞘から抜いて持つと、刀に魅入られて殺戮衝動が抑えられなくなる」
片刃剣をじっと見ていたイシュトバーンさんが言う。
「えっ? あたしこれでチャンバラごっこしちゃったよ。どうしよう?」
「まああんたは金と食い物以外に魅入られることはねえだろ」
「色々ひどいなー」
アハハと笑い合う。
お宝はお宝でも、ヤバげなものも含まれているのか。
要注意だな。
妖刀は誰かにあげるのやめとこ。




