第716話:うちの族長はかなりの天然
「さっき陶器職人に言ってた、同じ形のものをたくさん作ってくれというのは、何か考えがあるのかい?」
帰り道にサイナスさんが聞いてくる。
今日あんまりサイナスさんの存在感なかったな。
いや、存在感が薄いのはいつものことだった。
「あたしの発言は常に叡智に裏付けられているけれども」
「アバウトインスピレーションね」
「おいこら」
「姐御には傍からは窺い知れない、深謀遠慮があるんでやすぜ」
何でダンテとアトムは両極端なのだ。
答えにくいじゃないか。
「セレシアさんのところで売ってる、本当に運が上がる精霊様ペンダントあるじゃん? あれコア部分だけを黒の民に作ってもらって、ガワを赤の民で作ってもらったら生産性上がるかなーって、チラッと思っただけだよ」
「ははあ、なるほど」
「仕掛けるなら再来月の精霊の月だけど、呪術グッズは量産利かないみたいだからなー」
今年はムリだ。
でも輸出まで考えれば潜在需要は多そう。
呪術グッズ工房にしといた方がいい話だろうか?
いや、量産が利かないなら焦らせちゃうだけか。
「ユーラシアは精霊の月の生まれだったよな?」
「うん。一六歳になるんだよ。まだ一ヶ月以上あるけど、今からでもプレゼントは受けつけてまーす」
「随分働いてくれたからプレゼントするのもやぶさかではないが、何が欲しいんだ?」
「現金?」
「即物的過ぎる!」
アハハと笑い合う。
気持ちだけでも嬉しいよ。
「何だかんだであたし達は、欲しいものを自力で手に入れてきたからいいんだよ」
うちの子達が誇らしげだ。
単なる事実だけどな。
「すごく格好いい生き様なのに、君が言うと何かのフリじゃないかと疑ってしまうのはどうしてだろう?」
「あたしの生き様を理解している証だねえ」
「その証は何ゴールドで売れるかなあ?」
「なかなかやるね。サイナスさんのボケやツッコミは弱いと思ってたけど、最近はかなり成長したんじゃないかな」
「お褒めに与り光栄だね」
「返答は『その高い評価は形にならない?』の方がいいかも」
「さらに被せるのが正解か。オレもまだまだだな」
「精進いたせよ」
再びアハハと笑い合う。
「ユー様、いい時間ですよ。お弁当買っていきましょう」
「お弁当四つちょうだい」
「毎度」
「これサイドメニューがあってもいいよね」
「サイドメニュー?」
「男の人はもっと量が欲しいんじゃないの? ってこと」
「ははあ、親切ごかして売りつける作戦か」
「まーね」
消費者のニーズに応えることも利潤の追求も大事なのだ。
「考えておくよ」
「サイナスさん、またね」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「何やつかと思えば、いつぞやの精霊使いじゃないか」
「こんにちはー」
エルフの里にやって来た。
ここのデカい木は荘厳な雰囲気があるなあ。
見てて飽きない気がする。
気がするだけだが。
「今日はどうしたんだい?」
「買い物に来たんだよ。あとアビーに頼み事があってさ」
「あんたほどの優秀な冒険者が頼み事? 言っちゃなんだが、うちの族長はかなりの天然だぞ?」
「まあねえ。カナダライさんの苦労が偲ばれるよ」
「ヤベーな。外の人からもそう見えるのかよ」
アハハと笑いながら里の中央部へ。
アビーは美人だし魔法ではかなりの実力者ということだし、それなりに愛されてるんだろ。
族長というよりマスコットみたいな扱いみたいに思える。
「じゃあゆっくりしてってくれよ」
「ありがとー」
森エルフの建物は三角なのが特徴的だ。
パワーカード屋へ。
「こんにちはー」
「おう、精霊使いのお客人じゃないか。『クールプレート』と『ウォームプレート』は役に立ってるかい?」
「立ってる立ってる。というか、『ウォームプレート』をたくさん製造して輸出しようとしてるんだよ」
カード屋が驚く。
「輸出? 外国と大規模取り引きってことかい?」
「そうそう。ノーマル人側の解釈なんだけどね、ドーラは海外の大帝国から独立したから、一杯輸出して儲けなきゃいけないんだ」
「ほほお? ドーラのノーマル人ってかなり多いと思うんだが、海の外じゃもっと大きな国があるんだな?」
「あるある」
エルフに比べりゃノーマル人の数は多いだろうけど、海外にはドーラより人口の多い国なんていくらでもあるのだ。
人口は生産力にも購買力にも影響するから極めて重要なんだよな。
移民を大事にせねば。
「交流活発化に伴っていろんなものが入ってくると思うんだ。エルフの里にも紹介するからね」
「おう、楽しみだな」
さてと、買い物買い物。
「何を買いに来たんだい?」
「『大木斬り』が付属してるパワーカードを」
「『ウインドエッセンス』だな。ん? あんたデタラメにレベル高いって話だろ? 木を切る用途なら、基本風魔法の『ウインドカッター』で十分じゃないのか?」
「いや、それがね……」
折れた世界樹の利用について話す。
「メッチャ幹が太いから、『ウインドカッター』じゃムリなんだよね」
「ははーん。冗談みたいな話だが、冗談でパワーカード買いに来るわけないもんな」
「あたしも世界樹折っちゃったって聞いた時は何の冗談かと思ったけど、いかにもやりそーな人なんだよね。根元からポッキリだったよ」
ペペさんを構成する要素はアートとロマンとドリームなんだけど、何故かジョークとデストロイとエンターテインメントも感じてしまう。
「問題はないんだな?」
「一時的に魔力が大量に放出されて、出現する魔物に混乱があったよ。でも今は元通りだな」
「面白い話だったぜ。ところで支払いはどうする?」
「えーと……」
相場がわからんな?
「……魔宝玉で払いたいけど、どれだけになるかな?」
「一枚でいいんだな? 藍珠なら一個、墨珠なら二個、黄珠なら四個だ」
「じゃ、墨珠二個で」
「毎度、またよろしくな!」
よしよし、材木を切り出す用のパワーカードを手に入れたぞ。
アビーに画集モデルの了解をもらわねば。
トラブルをゆっくり楽しみたいからアビーへの挨拶をあとにしたんだろうって?
邪推すんな。
近くの大きな三角の家、族長宅にお邪魔する。
「こんにちはー」
「ユーラシア殿。話は聞いておりますぞ。族長に話があるとか?」
エルフの里の番頭役、カナダライさんだ。
「うん、絵を描かせて欲しいんだよね」
「絵? ともかく奥へどうぞ」
アビーの元へ通される。




