第713話:カラーズで所用
――――――――――一四二日目。
「少々そそられるぜ」
今日は凄草株分けの日。
一昨日ザクザク宝箱クエストで得たダイコンらしき種について畑番の精霊カカシに話したら、興味を持ったらしい。
「カカシが興味あるって言うくらいか」
「お宝なんだろう? じゃあすげえ価値があるダイコンに違えねえ」
「あたしもすごいものだと思うけど、どういう風にお宝チックなのかわかんないんだよね」
「ユーちゃん、少し種を蒔いてみてくれよ」
「え?」
今は冬ですぞ?
一般にダイコンは春か秋に種蒔きするもんだ。
「耐寒性の品種かもしれねえだろ」
「……あり得るね」
確かにいつ蒔いても育つダイコンなら、メッチャ価値は高い。
お宝と呼ぶに差し支えない。
基本的にダイコンなんか育てるの難しくないし、葉っぱから根っこまで全部食べられるから、移民が来た時の食料不足解消に関して大いに役に立ちそうだな。
「この前のツバキはどういうやつか正体がわかるまで時間かかりそうだが、ダイコンはすぐわかるだろ。種も多いんだし、少し試してみようぜ」
「わかった。やってみよう!」
以前お宝として手に入れたツバキの苗は、現在カカシの全力管理下にある。
最初から花芽があったらしく、来月には咲くだろうとのことだ。
「じゃ、蒔いとくよ。凄草の隣の畑でいいかな?」
「いいぞ。任せとけ」
「カカシかっくいー!」
「よせよ照れるぜ」
これも結果が楽しみだなー。
人生楽しいことばかり。
◇
「ね? 明らかにわさってきてる」
「本当ですねえ」
灰の民の村へ行く途中、クレソンを植えた湧き水のところだ。
魔境の群生地みたいにごわさーっと生えてるわけじゃないし、わさわさしてもいないが、わさり始めている。
言葉の意味?
雰囲気で理解しなよ。
「姐御、聖火教の礼拝堂にもクレソン持っていくと言ってやせんでしたか?」
「言ってた。しばらくお邪魔してないから、お肉とクレソン持って様子見に行っとこうかな」
ただあそこは水場の位置がわからないんだよな?
聖水撒いてるくらいだから水は豊富だとは思うんだが、ちょっと道から外れると魔物が出るところではある。
「フードはベリーインポータントね?」
「何より重要だねえ」
腹一杯なら何事にもそう腹立たないよ。
ラブアンドピースアンドフードはこの世の基本原理なのだ。
帝国のテンケン山岳地帯から移住した面々を含めて、聖火教徒に何か困ってることがあれば輸送隊を通じて伝わりそうではある。
何も聞こえてこないから急いでどうこうじゃないけど、早めに御機嫌伺いに行ってみるか。
移民に聖火教徒が多いって話もあったしな。
◇
「こんにちはー」
灰の民の村へ到着、サイナスさん家に顔を出す。
「ああ、いらっしゃい」
「お肉お土産だよいつもすまないねお父ちゃんがこんな身体じゃなかったら」
「随分早口で消化したね?」
「今日急ぎなんだ」
「もっと早く起きれば良かったんじゃないか?」
「『早く来れば』じゃなくて『早く起きれば』だってところに、サイナスさんの愛情を感じるね」
「掛け合いはいいから」
あたしのライフワークを否定されたぞ?
掛け合いは心の潤いなのに。
サイナスさんのいけず。
「今日の輸送隊はもう出発したんだよね?」
「ああ。今回はアレクとケスも出だ」
「あの二人、いつもセットの気がする」
「気の合った者がいた方がいいという配慮じゃないか?」
なるほど、行き帰り三日の道中だしな。
「行ってくるね」
「オレも連れていってくれ。『光る石』スタンドに興味があるんだ」
「ぜひあたしのお供をしたいとゆーなら、慈悲深いあたしがその願いを叶えるにやぶさかでないよ」
「随分と畏まってるようで実はいい加減だな。新しい芸風なのかい?」
「いや、さっき掛け合いはいいって言われたから、余計なところに影響が出ちゃったみたい」
「何だそれ?」
アハハと笑い合う。
「赤の民の村へ行くのは最後だよ? 『光る石』スタンド注文の前にフェイさんと緑の民の村の版画屋に用があるんだ」
「わかった」
ユーラシア隊他一名出発。
「ユー様は価値を低く見積もり過ぎです」
道中、クララが力説する。
いや、『光る石』スタンドについてなのだが。
「そお?」
「そんなアイデアがあったのなら早く教えて欲しかったです」
と言われても、あたしには価値がイマイチ。
夜読書するのに『光る石』から手を離せると集中できるという意味なのはわかる。
でもあたしにとって夜はおねむの時間だし。
「クララの言う通りだ。素晴らしいアイデアなのに」
「謙遜も過ぎます」
クララとサイナスさんが口々に言う。
どーも自分のわからんところで褒められるのは気味が悪いんだけど?
「あんまり売りたくなる気がしないんだよ」
「帝国の貴族向けにぼったくってやればいいじゃないか。君のお得意のやつ」
「これあんま帝国に知って欲しくないんだよなー。黒妖石の小石集めて固めたものに魔力を溜められるとなったら、兵器に転用しようとするかもしれないじゃん?」
サイナスさんの表情が変わる。
クララによると、飛空艇の魔力炉は使用可能な魔力を生み出す装置なんだそうな。
飛空艇にそんないかにも危なそーなものを搭載するってことは、帝国には魔力を大量に溜めておく装置がないのではないか?
あるいは大きな黒妖石に魔力を溜められることは知っていても、小石を集めて同等の効果があることまでは知らないのでは?
「石固めるなんて、技術的には何も難しいことないからなー。知ってさえいれば誰にでもできるでしょ。帝国に黒妖石があるかは知らんけど」
「……なるほど。君は何でもかんでも金に換えようとしてるんじゃないんだな?」
「まっこと失敬だな」
分別くらいあるとゆーのに。
美少女精霊使いと言えば分別、分別と言えば美少女精霊使いというのは、ドーラの常識だぞ?
聞いたことないって?
細けえことはいーんだよ。
「黒妖石の小石使って何かしようとするなら、ドーラ国内で使用する産業用の装置か、それとも贈答用の小物かだな」
「『光る石』スタンドは後者か」
「うん。あたしの想定よりもずっと欲しい人が多いみたいだな。納得いくものできたらサイナスさんにも作ってあげるよ」
「頼んだぞ」
嬉しそうだな。
サイナスさんも読書家だからなー。
でも夜は寝る方が健康にいいと思うよ?
緩衝地帯に着いた。




