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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第712話:夜は寝ればよくない?

「サイナスさん、こんばんはー」


 寝る前恒例のヴィル通信だ。


『ああ、こんばんは。今日は朝早かったんだろう? 眠くないかい?』

「おっ、サイナスさんにも女性を気遣う心が芽生えたね?」

『だからってモテるわけじゃないけどな』

「何でかなー。あっ、サイナスさんはヘタレだからだ!」

『断言するなよ』


 アハハと笑い合う。

 まーでもサイナスさんはいい人だよ。

 相性ピッタリの人に心当たりがなくもないし。

 

「おっぱいさんの絵は明後日描くと決まったよ」

『画集の話か。イシュトバーン氏は大喜びだろう?』

「大喜びだったよ。でもがっつき過ぎでさ。もう一人ギルドの職員連れてくんだけど、男か女かって聞くもんだから」

『そういう話の展開ってことは男なんだな?』

「うん。二分の一の確率を外すのは普段の心がけが悪いんだぞ? って言ったらもっとガッカリしてた」

『遊ぶのもいい加減にしておけよ?』

「はーい」


 でもイシュトバーンさんは遊んで欲しそうなんだけど?

 退屈するのが何より嫌いだからだと思う。

 あたしも退屈は嫌い。


『あとは?』

「細かい用件だな。朝カトマス行って、『アトラスの冒険者』を一人クビにして。その弟さんを新たな『アトラスの冒険者』にするってことをしてきた」

『え? ユーラシアにそんな権限が?』

「あ、誤解される表現だったか。正確には兄弟で交換できないかってアイデア出したのがあたしで、引導渡しに行くのにもついてったってこと」


 ヨブ君ノブ君がどうたらこうたら。


『ふうん、一〇歳か』

「兄ちゃんはいくら才能があっても、やる気のないやつはダメ」

『あれ? クビになった方を掘り下げたいんだね? 一〇歳の子でなくて』

「掘り下げるだけムダなヒキニートだったわ。あたしとしたことが、ムダなことに労力を使うところだった」

『辛辣という言葉の真の意味を知った』


 アハハと笑い合う。

 ノブ君は一〇歳の未成年ではあるけど、カトマスの生まれであることが効いている。

 周りに冒険者が多い環境だから、何をしたらいいかの基本がわかっているのだ。

 問題なくギルドまで来るだろ。


「カラーズはどう? 何かあった?」

『明日輸送隊の出る日なんだが、白の民の村が革を出荷するようだな』

「革かー」

『ん? 不満そうだね?』

「材料を出荷するより、加工品を売った方が儲かるからね」


 でもカラーズの片田舎で、どうしたら売れるかを見極めるのは困難だ。


「最初はしょうがないけど、勉強して欲しいなー」

『ユーラシアみたいにあちこち飛び回れるわけじゃないからな。見る目を養うのには時間がかかる。今後に期待だね。納入先から要求出るかもしれないし』

「そうだねえ」


 今は商売上の繋がりを強くする方が先決か。


「明日、カラーズ行くよ」

『何か用があったかな?』

「いくつか用があるんだ。新人輸送隊員にパワーカードを支給すること。昨日の絵が仕上がってきてるから緑の民の村に持っていくこと。赤の民の村に試作品の注文しに行くこと」

『赤の民の村に試作品の注文? 何を?』

「『光る石』のスタンド」

『は?』


 伝わらないか。


「『光る石』って、ふつーは手に持って使わなきゃいけないじゃん? 置いただけで光るようにしたものだよ。読書の時に便利だからって、クララが欲しがるんだよね」

『そんなものが作れるのか? マジックウォーターみたいな消耗品を使うことなく?』

「転移石碑みたいな魔力を溜めておける材料でスタンドを作って、魔力を流し込んどけばいいと思うんだ」


 凄草栽培初期に、黒妖石に魔力流し込むのは経験済みだしな。


『ほう、しかしあの黒妖石は珍しい上に加工がやたらと難しいんだろう?』

「うん、硬い。でも以前マルーさんが言ってたんだ。魔力を蓄える用途に用いる黒妖石は、純粋な塊でなくてもいいって」

『つまり?』

「黒妖石の小石はあちこちで手に入るんだよ。たくさん集めて粘土に練り込んで成形して焼けばあら不思議、『光る石』スタンドのでき上がり!」

『すごいアイデアじゃないか!』

「そお?」


 サイナスさんも食いついてくるんだが?

 欲しいのかな?


「あたしこれ、結構前に思いついてはいたんだけど、必要性がわかんないんだよね。たまたま今日、集めた黒妖石の小石どうするんだって話になったから、考えの一つとして披露したけど」

『夜やれることが増えるじゃないか』

「夜は寝ればよくない? 睡眠時間は人生におけるかなり重要なウェイトを占めると思う」

『寝なくてすむなら寝たくない』

「おおう」


 サイナスさんとは根本的に価値観が合わないようだ。


「あんまり需要のあるものだと思わないんだけど、クララが作ってって言うからさ。試作品だけでも作っておくかなと思って」

『オレも欲しいんだが』

「やっぱサイナスさんも欲しいの? じゃ、ちょっと真面目に検討してみるよ」

『楽しみにしてるよ』


 周りから魔力を集める特性のある『ファントマイト』を併用すれば、魔力を流し込むことすら不必要になりそうだが。

 ま、『ファントマイト』は滅多に手に入るもんじゃないしな。


「話変わるけど、例の温まるパワーカードあるじゃん?」

『輸出用としてコルムに生産を頼んだって言ってたやつだな?』

「アルアさんにも頼んできたんだ。アルアさんのところは素材の確保が塔の村ほど簡単じゃないからムリかなと考えてたんだけど、イケそーになってきたから」

『ということは、ある程度まとまった数を輸出できる?』

「うーん、一ヶ月後までに一〇〇枚を上限にできるだけってことにしてある」


 ムリはして欲しくないのだ。

 売れる売れないに関しては全然心配してないけどな。


「あと画集関係で。あたしより三日後輩の『アトラスの冒険者』でドラゴンスレイヤーがいるんだけどさ。その子の嫁二人が絵のモデルやってくれることになった。画集の進行についても極めて順調と思っていいよ」

『待て待て、色々ツッコミどころがあるだろ』

「あったかもしれないね。あたし眠くなっちゃったわ。働き過ぎかなあ?」

『君がよく働いてるのは知ってるが、眠いのは単に夜だからだろ』


 一応『光る石』スタンドは作ってもらうけど、夜は寝るといいよ。

 

「サイナスさんおやすみなさい」

『ああ、おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『わかったぬ!』


 明日はカラーズだな。

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