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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第71話:精霊様騒動

「レイノスのトップはカル帝国皇帝直臣のドーラ総督で、レイノス市長を兼ねてるんだ」

「でもドーラ総督はお飾りみたいなもので、実際に市政を司っているのはナンバーツーの副市長という噂です」

「ドーラ総督は皇帝の幼馴染の公爵だそうだな」

「きっと単に箔付けのためにドーラに赴任しているんですよ」


 レイノスの街を歩きながら、アンセリが代わる代わる説明してくれる。

 カラーズ諸村もそうだけど、ドーラには自治集落が多い。

 総督にやる気があったって隅々まで権限が及ばないだろうしな。

 ドーラ総督という地位は、貴族の箔付けにちょうどいいのかもしれない。


「でもさー。そんなお偉い副市長様があの短時間で許可証発行してくれるなんて、却って気味悪いんだけど」


 あたしら自身より価値がありそうな紙切れを、目の前でぴらぴらさせる。

 こうしてあたし達に囲まれて歩いてると、案外クララは気付かれないものらしい。

 むしろあたしとアンセリの方が目立ってるような?

 タイプの違う美少女三人組だもんな。


「さて、目的を果たさないと。包丁って金物屋かな、刃物屋?」

「西門の近くは宿屋や大衆食堂が多いんだ。包丁を扱ってるとすると、もっと中町に近いところだと思うな」

「おおう、なるほど」


 アンの意見に従って、町の奥に行ってみる。

 食器や調理道具を売ってる店があるじゃん。

 覗いてみよ。


「こんにちはー」

「いらっしゃいませ」


 愛想のいいおばちゃんが挨拶してくれる。


「あたし達冒険者なんだけどね、獲物を解体する時に使う大きな刃物が欲しいの。ちょうどよさそうなのないかなあ?」


 おばちゃんがちょっと考える。


「大きな刃物というと業務用の特殊なのしかないよ。少し値が張るけど」

「二〇〇〇ゴールドくらいで手に入るやつ、ない?」

「いくつか出してこようかね」

「お願いしまーす」

「お待ちくださいね」


 おばちゃんが奥から三本持ってきてくれた。


「どう?」


 クララが持った加減を確認する。

 真ん中のがいいか。


「じゃあこの、真ん中のやつちょうだい」

「毎度、二一〇〇ゴールドね」


 代金を支払ってる時に、おばちゃんは初めてクララが精霊であることに気付いたらしい。


「砥石をサービスしておくよ。……あれ、色の白い子だとは思ったけど、ひょっとして精霊かい?」

「お忍びなの。黙っててね」


 と言いつつ、例の副市長からもらった許可証を見せる。

 おばちゃんは少なからず驚いたようだったが、納得してくれたらしい。

 効果てきめん、素晴らしいぜ。


「拝んでおくといいよ。精霊は幸せをもたらすからね」


 出まかせ言ったったけど、おばちゃん信じて拝んでるよ。

 いいことあるといいね。


「お買い上げ、ありがとうございました」

「こっちこそありがとう。またねー」


 店を出てぶらぶらする。

 アンセリはマウ爺へのお土産に帝国産の茶葉を買ってた。

 御飯でも食べて帰ろうかと話していたところ、不意にクララが後ろから突き飛ばされる。


「へっ、亜人風情がレイノスで幅利かせてんじゃねえ!」


 マジで絡んでくる愚か者がいるじゃないか。

 二〇歳くらいのソバカス男だ。

 これが上級市民というやつか。

 そいつに足払いして転ばせ、髪の毛をガシっと捕まえる。

 同時にアンセリとクララに目配せし、ミッションスタートだ!


「下賤の者よ、精霊様に無礼を働くとはいかなる了見じゃ?」

「せ、精霊?」


 頭を抑えられながらも、ソバカス男はクララを見る。

 おっと、下賤呼ばわりはスルーのようですね。

 何だ何だと人が集まってくる。


「さよう、その役に立たぬ盲いた目をかっ開いてよく見るがよい。おんしらの副市長のお墨付きであるぞ!」

「ふ、副市長?」


 驚く男に許可証を突きつける。

 法的にもテメーに理はないんだよと、教えてあげるあたし。

 何て親切なんだろう。


 これが必殺・精霊様はノーマル人より偉いんだからひれ伏せ作戦だ。

 ただ、もうちょっと悪役らしいセリフ叫んでくれるやつが絡んでくるとよかったなあ。

 語彙が貧弱過ぎやしませんかね?


 群集がざわつき始めた。


「オルムス・ヤン副市長の?」

「てことは本物の精霊かよ!」


 ハハッ、モブが思ったよりいい仕事してくれて助かる。

 助演男優が大根の分は帳消しだ。

 よし、このタイミングだな。

 クララとアイコンタクトを取る。


「さあ、精霊様の慈悲を乞うのじゃ。さすれば命だけは助かるであろう」

「けっ、誰が!」


 あたしは声色を変えて、クララに呼びかける。


「……精霊様? 精霊様! おやめくださいまし!」


 クララが魔法を発動、素人目にもわかるほど魔力が膨れ上がる。

 アンセリは事前の打ち合わせ通り、間違ってもクララを止めに入る者が出ないよう、周囲を警戒する。

 楽しいイベントの始まりだ!


「精霊様、お慈悲でございます! お怒りを鎮めてくださいませ! それではレイノスが消し飛んでしまいます! どうかお慈悲を!」

「レイノスが……」

「……消し飛ぶ?」


 ゆっくりとそのセリフの意味するところが咀嚼されてゆき、野次馬達が騒然とする。

 パニックとなり、我先に逃げようとしたため大混乱を引き起こした。


「おんし、頭を下げるのじゃ! 急がぬと大変なことになる!」


 あたしの迫力に押され、ソバカス男がようやく頭を下げる。


「精霊様!」


 クララの魔法が撃ち上がる。

 『精霊のヴェール』だ。

 効果は各種魔法属性攻撃に対するに耐性を付与するというもの。

 精霊専用白魔法なので、まさかこれを見たことがある者はいないだろう。

 注:効果時間が比較的長く、とっても奇麗。


「おお、ありがたや!」


 ここぞとばかり声を張り上げる。


「五暈の彩光じゃ! レイノスは許された!」

「ぜいれいざまあ!」


 おーおー、素直になったもんだ。

 ソバカス男よ、あんた涙でグジュグジュになってんぞ。


 逃げ散りつつあった群集も足を止め、空を見上げている。


「何という美しさだ……」

「あれが精霊様の奇跡の魔法か……」


 あちこちからため息が漏れる。

 さて、仕上げだな。


「皆の者よ!」


 あたしはもう一度声を張り上げた。


「五暈の彩光に祈るがよい! 最も信心深き者の願いが叶えられるであろう!」


 人々が皆、空に向かい一斉に手を合わせる。

 いやあ壮観だわ。

 願い事なんか叶わないけどな。

 新興宗教がおいしい商売だという理由を理解した。

 その光景は『精霊のヴェール』の効果が切れる五分間ほど続いた。

 精霊様騒動はレイノスのノーマル人至上主義意識を変える出来事になります。

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