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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第704話:ヨブ君からノブ君へ

 ――――――――――一四一日目。


「ユー様、起きてください。朝ですよ」

「……んー、あと三時間、三時間だけ……」

「もう。今日はサクラさんと待ち合わせなのでしょう?」

「そーだった!」


 朝七時にカトマスのヨブ君家で落ち合うことになっていた。

 サボリ魔ヨブ君から弟のノブ君へ、『アトラスの冒険者』の権利移管について打診する件だ。


「おっぱいさんを待たせては美少女精霊使いの沽券に関わるところだった」

「朝御飯も食べていくんでしょう?」

「御飯を食べ損なっては美少女精霊使いの沽券に関わるからね」


 沽券って何だろう?

 と思ってこの前調べようとしたけど、そのまま寝てしまった。

 辞書を枕にすると首が痛くなるので推奨しない。

 

「行ってくる!」

「行ってらっしゃい」


 軽く朝御飯を取って転送魔法陣へ。


          ◇


「おっはよー、サクラさん」

「おはようございます」


 おっぱいさんは既にヨブ君の家の前で待っていた。

 ……おっぱいさんはいつも依頼受付所にいるので、立ち姿って掃討戦の時以来か?

 あんまり見る機会がないけど美しいな。

 食堂で奢る時なんかは立ち姿見てるはずなんだけど、喋ってたりテーブルがあったりするからか、ほとんど印象に残ってない。

 イシュトバーンさんはどんなポーズを欲しがるだろ?

 いやまあ、すげえたくさん描きたがるのは目に見えてるけど、おっぱいさんだって忙しいんだから一枚だけだぞ?


「箱、ありがとうございました」

「箱? ああ」


 聖風樹製の宝箱の空き箱か。

 ダンに届けてもらったんだった。


「いいでしょ、あれ」

「ちょっと驚くほど丈夫ですよね」

「宝箱は皆丈夫だな。今度絵を描いてもらうイシュトバーンさんが『道具屋の目』の固有能力持ちでさ。あの箱見てくれた時、中に入れたものが劣化しにくい効果は永続って言ってたんだ。聖風樹すごいよねえ」


 おっぱいさんニッコリ。


「では行きましょうか」

「腕が鳴るなあ」


 鳴りゃしないけど。

 この時間、ヨブ君はどうせ寝てるだろう。

 御両親は働きに出る人だから起きてるはず。


「ごめんください」

「はーい」


 ヨブ君の弟ノブ君が飛び出してきた。


「あっ、サクラさんと精霊使いのお姉ちゃん!」

「ノブ君は頑張ってるみたいだね」

「うん!」

「あんちゃんはサボってるんでしょ?」

「うん!」


 これっぽっちも答えに躊躇しないところが大物だな。

 おっぱいさんが苦笑してるがな。


「だもんだから、ヨブ君の『アトラスの冒険者』の権利をどうするかについて、御両親に相談があるんだよ。父ちゃんか母ちゃんはいるかな?」

「いる。仕事前で時間あるから呼んでくる。あんちゃんはどうする?」

「叩き起こしてきて」

「わかった!」


 飛んで戻るノブ君の後姿を見ながらサクラさんが言う。


「ユーラシアさんがノブ君を評価する理由がわかりました。とても利発な子だったんですね。話がスムーズです」

「ノブ君はメッチャレスポンスがいいよね。『竜殺し』っていういい固有能力持ってる、ステータス値が高いってこともあるけどさ。本能的に物事の大事なところを掴んでるのが小気味いいねえ。バイタリティあるし、絶対に冒険者向きだよ」

「そうですね」


 何かを確認するように頷くおっぱいさん。

 父ちゃん母ちゃんが来たぞ?

 あ、ヨブ君も引きずられてきた。

 さあ、説明開始だ。


          ◇


「……というのが『アトラスの冒険者』の概要と、ヨブさんの現在置かれている状況になります」


 ヨブ君一家に流れるようなおっぱいさんの説明がなされる。

 おお、さすが。

 チュートリアルルームの最初の説明は、おっぱいさんがやった方がいいんじゃないの?

 いや、ダメだわ。

 男性冒険者はおっぱいしか印象に残らないわ。


 おっぱいさんの口調はやや堅苦しさを感じさせるってこともある。

 初心者に新しい第一歩を踏み出させて、冒険者をやってみようという気を起こさせるには、バエちゃんくらいのほほんの方がいいのかも。

 ヨブノブ母が嘆息する。


「ヨブは怠け者でねえ」

「うん、知ってる。見ればわかる」

「冒険者になるって宣言したときはそりゃ喜んだもんだが、何も変わりゃしない」

「しかも『アトラスの冒険者』だろう? 皆の垂涎の的なのになあ」


 カトマスでは本当に冒険者になることは歓迎されるんだな。

 しかも『アトラスの冒険者』って結構羨ましがられるんだ?

 その土地その土地で違うもんだなあ。


「あと五日でクビになっちまうのか。おいヨブ、どうするんだ?」


 ヨブノブ父が睨むと、ぼさぼさ頭のヨブ君が首を竦める。


「『アトラスの冒険者』の資格の件について提案があるのです。こちらの精霊使いユーラシアさんの方から、弟のノブさんの才能を惜しむ声が上がりまして。特殊なケースながらヨブさんからノブさんへ『アトラスの冒険者』の権利を移してはどうかと。もちろんヨブさんが了承するならばですけれども」


 御両親の背筋が伸びる。


「あなたがあの有名な精霊使いユーラシアさんでしたか」

「『強欲魔女』を手玉に取ったという?」


 あたしカトマスではそーゆー扱いなのかよ。


「ぶっちゃけ『アトラスの冒険者』やってると、有利なこと多いんだよ。遠出しなくてもクエスト請けれるし兼業も可能だし。ヨブ君だってむざむざその権利を捨てるほどアホじゃないと思うんだけど、自宅の警備の方が重要な任務だと考えてるようだから」


 皆の視線が集中し、ますます縮こまるヨブ君。

 このくらいの嫌味は許されるだろ。


「今はヨブ君が『アトラスの冒険者』だから、ヨブ君が動かないと弟ノブ君も動けないんだ。でもノブ君が『アトラスの冒険者』ならばソロで動くも良し、ヨブ君とパーティー組んでも良し、自由度がうんと上がるんだよねえ。幸いノブ君も才能に恵まれていて、やる気も生かせる。ノブ君が『アトラスの冒険者』の方がよっぽど有意義に権利を行使できると思うんだけど、どーかな?」

「「お願いします」」

「あんちゃんはいいのか?」


 おおう、ヨブ君の返事なしで決めちゃうところだったよ。

 ノブ君は気の使えるいい子だな。


「ああ、ノブに任せる」

「じゃおいらが『アトラスの冒険者』やる! たまにはあんちゃんも手伝ってくれよ」

「たまにはなのかー。期待値低いのか現実が見えてるのかどっちかな?」


 皆が笑い、『アトラスの冒険者』の権利譲渡の話し合いは終了となる。

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