第702話:ダイコンの種?
フイィィーンシュパパパッ。
「……」
「姐御、今日は静かでやすね?」
「聞こえない? 宝箱の産声が」
「アイドントヒヤーね」
「情緒がないなー」
「ユー様、情緒があっても宝箱の中身は豊かにならないと思いますよ」
「ザッツライト。クララ偉い!」
「えへへー」
ニルエの絵を描かせてもらってからイシュトバーンさんを送り届け、今日もまたザクザク宝箱のイベントに来た。
イベントじゃなくてクエストだったわ。
どーもこのクエストはエンタメ感は満載でも、クエストっぽい緊張感がないもんだから。
「情緒がないのは許せても、宝箱の中身がないのは許せないですよね」
「当たり前だよ。あたしだって貴重な時間を使って来てるんだから。お宝なしになったら躊躇せずに部屋ごと吹き飛ばすわ」
あ、ビクッとした。
気配があったのは後列左隅の宝箱か。
「さて、まずは心をクリアにしようか。ガンガンする人っ!」
「「「はい!」」」
「グオングオングオングオングオングオーン!」×四。
心に染み入る銅鑼の声、いいねえ。
「この銅鑼は素晴らしいなあ。作るの難しいんだろーか?」
「え? たくさん作るつもりなんでやすか?」
「輸出できるんじゃないかと思って」
「ユー様、鳴らす場所の確保が難しいですよ?」
「むーん?」
いいものだからと言って、売れるとは限らないのが難しいところ。
いや、好きなだけガンガン鳴らせる広場があったら、入場料払ってでも来たい人はいるんじゃないかな。
そーゆー方向で考えるべきアイテムかもしれない。
「今日も今日とて宝箱だぞー」
やはり今日も四列四個ずつ計一六個の宝箱が配置されている。
「一六個の宝箱ってのは実に配置に安定感があっていいねえ」
「四×四でやすねえ」
「ザクザクフィーリングね」
「立札の記述は昨日と同じです」
「一番奥の左隅が当たりだよ。それ以外を五つずつ開けちゃってちょうだい」
「「「……」」」
あれ、うちの子達が戸惑ってるぞ?
「どうしたの? お腹減っちゃった? あたしも減ったわ」
「いやー、そうでなくてでやすね……」
「ボスはアレにノットタッチね?」
ダンテの指差す先には、一つだけ金色に輝く宝箱がある。
二列目の右から二つ目だ。
他の青を基調とした宝箱とは明らかに一線を画しているが?
「宝箱の中身には大いに興味があるけど、色にはあんまり」
「ユー様は大物ですねえ……」
「あっ、箱がゴージャスなのに中身が伴ってないと、あたしが激おこぷんぷん丸だとでも思ってるのかな? あたしの心は広いから大丈夫だぞー」
「ソーユーことじゃないね」
どーゆーことだったろ?
「気味が悪いぜ。あっし四個で我慢しやすから、姐御あの宝箱開けてくれやせんか?」
「べつに構わないけど」
あまりにも意図的で躊躇われるということか。
うちの子達は意外と繊細だ。
何か引っかかるな?
「これはあれか。目立つ金色の宝箱に魔法の葉をどっさり仕掛けといて、あたしに開けさせる巧妙な罠だな? 主催者も考えてきたね」
「まさか……」
言いかけたものの口を噤むクララ。
あり得るかもとも思っているのだろう。
「ま、いいや。これだけお宝もらったんだから、たまには向こうの思う壺に嵌ってやろう。それがウィンウィンというものだ」
「最近姐御の物わかりがいいでやすね」
「お宝もらえるとなれば、魔法の葉以外は目こぼしするよ」
笑い合う。
もっとも魔法の葉が入っていることを疑ってるわけだが。
「さあ、いってみようか!」
「「「了解!」」」
うちの子達が宝箱を開けてゆく。
何が出るかな? 何が出るかな?
「反りの美しい片刃剣です!」
「キャッシュ五〇〇〇ゴールドね!」
「山の絵だぜ!」
「現金五〇〇〇ゴールドです!」
「ピクチャーね! ミステリー!」
「コモン素材の詰め合わせだぜ!」
「コモン素材詰め合わせです!」
「キャッシュ五〇〇〇ゴールドね!」
「何だこれ? 多分種だぜ!」
「絵です! 群像画!」
「キャッシュ五〇〇〇ゴールドね!」
「現金五〇〇〇ゴールドだぜ!」
「何でしょう? 邪神像?」
「タワーのピクチャーね!」
「さあ、最後の奇麗な宝箱開けるよー。アトムは終わりの銅鑼鳴らしてね」
「へい!」
重めの蓋を持ち上げると……。
「ぎゃーやっぱり魔法の葉だっ!」
うちの子達が笑う。
まあ予期してたからショックも受けないけど。
だけどマジで魔法の葉なのな?
主催者もやるなあ。
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「終了だぜ!」
ではお宝の検証にかかろうじゃないか。
「四枚の絵はいいとして。いや、ダンテがミステリーって言ったやつ、ミステリーだね? 何なの、これ?」
二つの大きな丸と無数の小さな丸、直線と曲線。
抽象画ってやつか?
よくわからん。
けど何となく、二つの大きな丸がこっちの世界と向こうの世界を表現しているような気がした。
こんなんの画集があっても絶対買わないけれども。
「で、邪神像ってのは何?」
「これです」
「これは……これでありじゃない?」
邪神というより、未知の魔物かそれとも想像上の生き物のようだ。
どことなくユーモラスなところがあって、あたしは嫌いじゃない。
「イエスタデイのスライムフィギュアの方がモア邪神ね」
「同感だねえ」
「いや、これ目のところ、狂気が潜んでやすぜ?」
「不気味で怖いです」
ふむ? いろんな解釈が出るのは、やはり美術品として優れているからなのかなあ?
クララが愛嬌があるって言った、昨日の人形もそうだけれども。
「で、問題の種だけど」
茶色っぽい小さな粒々を見ながら、クララが結論を出す。
「アブラナの類の植物ですね。おそらくダイコンだと思います。春になったら植えてみましょう」
「お宝扱いってことは、すげー美味いダイコンなのかなあ?」
「アハハ。有用な特徴があるといいですねえ」
いや、お宝のダイコンってのは邪神像以上に気になるわ。
だって今のところ主催者が貢いでくれたものは、全部結構な価値のあるものだから。
ダイコンだってきっといいものに違いない。
でも種だけ渡されても、どういう価値があるのかわからんな?
「今日もなかなかの収穫でした。主催者の戦略の前にまんまと魔法の葉を引かされたけど、全てを許そうじゃないか。ガンガンして帰ろう!」
「「「了解!」」」
満足するまで銅鑼を鳴らしたあと、転移の玉を起動し帰宅した。




