第695話:何がさすがで恐れ入るんだ
『おう、精霊使い。今日は楽しかったぜ』
ザクザク宝箱クエストから帰宅後、ニルエの了解がもらえたので、明日の午後カトマスに行く旨をイシュトバーンさんに連絡する。
「楽しかったねえ。バルバロスさんって、可愛らしい人だと思った」
『ハハッ、バルバロスが可愛らしいなんて初めて聞いたぜ』
そーかな?
女の子だけでなく、多分若者や子供にも甘々の人だぞ?
『塔の村のエルっていう精霊使いだが』
「うん、エルが何?」
『えらく異質じゃねえか。あんたの知ってること全部話せよ』
「イシュトバーンさんやるなあ。どこでエルが変って気付いたの?」
『服装とゴーグルだな。あの服装は青の民の別嬪さんのファッションのオリジナルだろ? そしてあのゴーグルは服装に合わせてあつらえたものじゃねえ。理由があって装着しているものだ』
おおう、イシュトバーンさんは鋭いな。
セレシアさんファッションのオリジナルであることにまで気付くとは。
まあ画集の計画が始まったから、いつかは話すつもりではあった。
「エルは異世界人なんだ」
『異世界人? 異国人じゃなくてか?』
「うん。転移転送の類じゃないと行き来できない、ドーラやカル帝国を含むこっちの世界とは別の実空間の人。たまたまデス爺が見つけて、『精霊使い』の固有能力持ちだったから、塔の村開拓のシンボルとして欲しかったみたい。転移でこっちの世界に引っ張ってきた」
『デスさんが? 人さらいじゃねえか』
「人さらいだよ。でもエルは向こうで幽閉されていたらしいんだ。理由はデス爺もエルも知らないの。エルはこっちの世界で楽しそうだから、人さらいについてはべつにいいかなーと思ってる」
『待て待て、幽閉? じゃあ逃げ出したのに気付かれたら追っ手がかかるだろ?』
「だから特徴的な赤い瞳を隠すためにゴーグルかけてるんだ。一方で服装を紛れさせるために、セレシアさんに異世界モチーフの服作ってもらってる」
『全部繋がってるのかよ! まさかそんなことだとは……』
しばしの沈黙。
『……いくつか質問がある。デスさんが塔の村のシンボルとして精霊使いを欲したってのは何故だ?』
「じっちゃんは、アルハーン平原で人口急増してカラーズ制度は崩壊、灰の民の村で精霊は住めなくなると見てるんだよ。それで塔の村の冒険者として精霊の地位を上げておいて、塔の村に食料を調達する、精霊の住める集落を作ろうとしているの」
『ほお? つまり第二の灰の民の村を西域に作るのか。デスさんらしい大胆な構想だな。じゃあどうして精霊使いであるあんたがその構想に噛んでないんだ?』
「あたしはじっちゃんの言うこと聞かないからだって」
『さすがデスさんは慧眼だな。恐れ入った』
納得すんな。
何がさすがで恐れ入るんだよ。
『精霊使いエルが異世界人だと知ってるのはどいつだ?』
「じっちゃん以外だと、今日会ったリリーとレイカのパーティーは知ってる。あとは灰の民の族長サイナスさんとアレク、青の族長セレシアさんかな」
パラキアスさんはデス爺から聞いてるかもしれない。
『オレに全て話すのは何故だ?』
「『アトラスの冒険者』ってゆーのは、エルの世界の事業なんだよ」
『!』
ハハッ、驚かせたった。
「『アトラスの冒険者』になって最初に行くチュートリアルルームの係員のお姉さんが、やっぱり向こうの世界の人で赤い瞳なんだ。で、画集のモデルの候補だからさ。ある程度イシュトバーンさんには事情知っててもらわないとなーとは思ってたの」
『ははあ。向こうの世界の人間は皆赤い瞳なんだな? 画集は白黒だから瞳の色でチュートリアルルームの姉ちゃんにバレることはないにしても、名前はどうだ? モデルの名前くらい載せるんだろ?』
「大丈夫だよ。誰も知らないっぽいけど、エルって偽名だから」
ハッハッハッ。
意表を突くのは楽しいなあ。
『……本人に聞いたわけじゃねえよな?』
「うん。何となくわかるの」
『まああんたがカンで偽名とわかるってのは驚きゃしねえが。異世界に追われないためにか? 精霊使いエルは相当危機意識が高いのか?』
「そんなんじゃないなー。エルが本名隠してるのは全然別の理由だと思う。理由が何だかまではわかんないけど」
エルの名前については、ナイチチよりもデリケートな問題っぽいのだ。
『『アトラスの冒険者』ってのは何なんだ? 何故異世界が干渉してくる?』
「わからんなー。転送魔法陣にしても転移の玉にしてもかなりのオーバーテクノロジーだからさ。おかしいと思ってる冒険者は多いだろうけど、突っ込んで考えてる人はいないかも」
『……あんたが何か考えてることはあるか?』
「『アトラスの冒険者』について? 向こうの世界にとって不都合なものをこっちの世界に押しつけた。その監視機能なんじゃないかってのが、今のところ一番ありそーな仮説だけど、証拠があるわけじゃないよ」
『不都合なものとして想定してるのは何だ?』
「赤眼族」
再びの沈黙。
『……なるほど、赤眼族が単なるドーラの先住亜人ではなくて、向こうの世界の追放者かもしれねえってことか』
「うーん、でもわかんないよ? 赤眼族に会ったことないもん。赤い瞳って言っても全然違うかもしれないし」
『赤眼族関連のクエストを請けたやつはいねえのか?』
「どーだろ? 聞いたことはないけど」
『亜人の習俗』の一節を思い出す。
他部族と馴れ合わず、戦う様苛烈たり。
バエちゃんとこの世界の知識の断片を持ってて、しかも好戦的ということならば、かなり高レベル者向けのクエストになりそうだが?
他人のクエストの内容ってあまり聞けないんだよな。
秘匿性の高いものもあるだろうし。
『じゃああんたに配られるクエストになりそうだな』
「そーなのかなあ?」
楽しみではあるけど。
「明日の午後ニルエのとこ行くから、画材用意しといてよ」
『おう、わかったぜ』
「ところでマルーさんとイシュトバーンさんって大丈夫なの?」
『互いにクソジジイ、クソババアと呼び合う仲だぜ』
「仲良しだね」
イシュトバーンさんがこう言ってるなら問題あるまい。
まあイシュトバーンさんが会うのNGの相手なんていないだろうから、一応確認しただけだ。
「じゃ、明日ね」
『おう、待ってるぜ』
「ヴィルありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』




