第693話:バルバロスと塔の村三人娘
フイィィーンシュパパパッ。
「御主人!」
塔の村に着くやいなや、ヴィルが飛びついてくる。
あ、デス爺もエルもレイカもリリーも皆揃ってるじゃないか。
ヴィルはいい仕事したね。
よしよし、いい子。
「「「ユーラシア!」」」
「紹介しとくよ。こっちのクマみたいな大男が西域の実力者バルバロスさんね。真ん中が引退商人のイシュトバーンさん。向こうがリリーの兄ちゃんで新任の在ドーラ大使ルキウス皇子殿下だよ。
「「「こんにちは!」」」
バルバロスさんもイシュトバーンさんもデレデレじゃないっすか。
デス爺のナワバリがどうこう言ってたバルバロスさんは、やっぱり今まで塔の村へは来てなかったみたいだな。
三人娘と面識ないみたい。
いや、リリーは十人会議に顔出してたって話だったから、見たことくらいはあるのかな?
「これ、ユーラシア。何故バルバロス殿を連れてきた?」
「あんまり女の子と喋る機会がなくて寂しいみたいな話だったから。塔の村はクマをものともしない可愛い子がいるよって誘ったの」
「こらっ、精霊使い!」
慌てるバルバロスさん。
何を焦っているのだ。
事実だろーが。
「精霊使い二人いるから、あたしのことはある方の精霊使いって呼んで」
「何があるんだ!」
すぐさま食いついてくるエル。
この手の話題に対するレスポンスは抜群だなあ。
「実績」
「実績か。うんうん、しょうがない。実績はユーラシアに勝てない」
「じゃなくておっぱい」
「うがー!」
「ヴィル、鎮静剤」
「はいだぬ! ぎゅー」
「ああ、君は癒し、君はいい子!」
「いい子ぬよ?」
リリーが言う。
「ルキウス兄様、完成された芸だと思わぬか?」
「思う。素晴らしいテンポだな」
イシュトバーンさんもすげえ嬉しそうな顔してるし。
皆さんよかったですね。
「バルバロスさんとはさっき自由開拓民集落ザバンで初めて会ったんだ。西域の産物売って儲けるぞーってことに同意してもらったから、じっちゃんと意見交換してよ。西域について詳しいのはバルバロスさんだろうけど、どういうものが何の役に立つってことはじっちゃんの視点が必要だと思うんだ」
「なるほど、産物の掘り起こしじゃったか」
頷くデス爺。
「ならばバルバロス殿、こちらへ」
「はあ」
デス爺が小屋に案内するも、情けなさそうにあたしを見るバルバロスさん。
エルレイカリリーに会わせるために連れてきたのに、どーしてデス爺は空気を読まずに仕事を優先するんだか。
しょうがないなあ。
三人娘に言っておく。
「バルバロスさんは誰よりも西域をよく知る人だよ。またしょっちゅう塔の村にも来るだろうから、聞きたいことあったらどんどん聞きなさい。喜んで教えてくれるぞ」
「「「わかった」」」
あ、バルバロスさんちょっと元気出た。
わかりやすい人じゃないか。
またねー。
イシュトバーンさんが言う。
「相変わらずあんたはサービスがいいな」
「バルバロスさんにも気持ちよく働いてもらわないと」
「こっちにも紹介してくれ」
おっと、忘れてた。
「赤の民の火魔法使いレイカと、白魔法を使える剣士ジン、クリティカル頻発の拳士ハオランね。ジンはヘリオスさんの息子、ハオランは西域出身だけど元は黄の民」
「ほう、ヘリオスの息子か」
「初めまして。お名前はかねてより伺っております。よろしくお願いします」
「こっちが塔の村の精霊使いエル。後ろの精霊が近い方からコケシ、チャグ、ちょんまげね」
「ニポポだってばよ!」
ちょんまげも『精霊の友』さえいれば割と喋るタイプだな。
……デストロイヤーコケシがそーゆータイプじゃなくてよかった。
「でさ、リリーから聞いてるかもしれないけど、協力して欲しいんだ」
「画集の絵のモデルという話だね? ボクは構わないよ」
「私もお願いしたい」
「やたっ! ありがとう! 絶対大ヒットさせてみせるよ!」
青の民族長セレシアさんは断らないだろうから、アンセリとペペさんの了解は早めに取っときたいな。
「しまったな。画材持ってくるんだったぜ」
「いや、皆午後これからダンジョンなんだよ。だからモデルは午前中にお願いする」
「おう、仕事だったか。では今度描かせてくれ」
「「「はい!」」」
よーし、顔合わせとモデルの依頼はすんだ!
「じゃ、帰るね。また会おう!」
「「「元気でな!」」」
あたしはいつも元気だよ。
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「あたしが来た!」
「ユーちゃん、いらっしゃい」
イシュトバーンさんとプリンスを送り届けたあと、マルーさん家行ってニルエの絵を描かせてもらう約束を取りつけ、チュートリアルルームにやって来た。
「どうでもいい用は先に片付けてしまおうか。新人は来てないよね?」
「あれから来ないわね」
「ん? バエちゃん悪い子だって言ってなかったっけ?」
「言ってたわよ」
「ソワソワしてるよーに見えるよ。新人さんのこと心配してるんじゃないの?」
べつに慌てるようなことじゃない。
どーした?
「ユーちゃんには隠せないわね」
「隠すようなことでもないでしょ。どんな心境の変化があったの?」
「一度もチュートリアルルームに来ずに脱落したんだったら、私の責任じゃないってユーちゃん言ってたじゃない?」
「言ったねえ」
「でも一度は来たじゃない? だから……」
「ははあ、バエちゃんの責任になってボーナスに影響するかもしれないってことか」
「そうなの!」
新人の心配じゃなくて給料の心配だった。
実にバエちゃんらしい。
「どうしたらいいと思う?」
「つっても何もできないでしょ。放っときゃいいよ。多分待ってるだけだから」
「待ってる? 何を?」
説明しとくか。
新人はレベル二という話なので、おそらく周りに魔物や冒険者がいる環境だ。
信頼できる先輩に会える機会が近々ある。
話を聞いてからもう一度チュートリアルルームに、ってことなんじゃないかな。
慎重な子みたいだから。
「安心したわ」
「この子は心配いらないって。焦れったくてあたしもちょっとヤキモキするけど」
「ところで、どうでもよくない用というのは、持ってる鍋の中身よね?」
「うん、お土産。お肉と海藻のスープだよ。もう味はついてる。こっちにクレソンがあるから、食べる前に投入して一度煮立たせてね」
「わかった。いつもありがとう」
「じゃねー」
転移の玉を起動し帰宅する。




