第692話:皆で塔の村へ
バルバロスさんが『遊歩』のパワーカードを得て、あちこち飛び回ってくれることは、あたしにとっても嬉しい。
何故ならドーラのヒロインたるあたしは、ドーラをいい国にしたいから。
あたしのためにしっかり働け。
「二〇〇〇ゴールドだよ。買う?」
「もちろんだ!」
毎度ありー。
あたしが儲かるわけじゃないが。
「魔法の武器や呪術のアクセサリーなんかは、カードの効果と干渉するかもしれないんだ。同時使用には注意してね」
「了解だ!」
ハハッ、バルバロスさん嬉しそう。
イシュトバーンさんが聞いてくる。
「精霊使いよ。『遊歩』はいつもストックを持ってるのか?」
「持ってるけど、これでストック切れ。また注文しとかないといけないかも」
「用意がいいな」
でももう急ぎで必要なことはない気がする。
あと『遊歩』が緊急でいることにになりそーな人というと、聖火教のミスティ大祭司くらい?
すっごい便利ではあるけど、使用するだけでレベル二〇は必要。
高速移動の用途に使おうと思うとさらに高レベルじゃないとだからな。
そーだ、聞いておくか。
「パラキアスさんはバルバロスさんと連絡取る時、どうやってるの?」
「推測だな。バルバロスはそんなに読みにくい行動を取らない。大体この辺という当たりをつけて、あとは聞き込みして見つける」
「すげえ!」
どんな技だ。
あたしにはとてもマネできん。
デス爺はきっとあちこちの自由開拓民集落に転移できるんだろうから、バルバロスさんを見つけるのも容易なんだろう。
あたしにはパラキアスさんやデス爺みたいなことはできないから……。
「ヴィルカモン!」
「何だ?」
バルバロスさんが聞いてくる。
「悪魔召喚の呪文だよ」
「悪魔?」
バルバロスさんの首かしげてるポーズはダイナミックだな。
あ、来た来た。
「御主人の呼び声に応じヴィル参上ぬ!」
「よしよし、いい子だね」
ぎゅっとしてやる。
「こちらは……レベルの高いクマぬか?」
「おおう、そーきたか。最近のヴィルはすごく面白いな。クマに似てるけど『西域の王』バルバロスさんだよ。挨拶しときなさい」
「よろしくお願いしますぬ!」
「礼儀正しいな。こちらこそよろしく」
「今後、こっちから連絡ある時はヴィルを飛ばすね」
「ほう? それは楽しみだな!」
ヴィルがバルバロスさんとプリンスに頭を撫でられてニコニコしている。
プリンスは随分ヴィルを可愛がってくれるよなあ。
……ロリの人じゃないよね?
「では、私は失礼する」
「さいならー」
「バイバイぬ!」
パラキアスさんが『遊歩』を起動して去る。
東へ行ったから、おそらくレイノスの行政府だな。
オルムスさんに報告か。
まだ量は少ないけど、お茶は将来ドーラの重要な輸出品になるかもしれないから、大事にしてやってくださいな。
と言っても、ドーラ政府にはおゼゼがないんだったか。
「さーあたし達も帰ろうかな」
「噂の精霊使いに会えて有意義だったぞ」
「あたしの可愛さに満足した?」
「まあ、半分はそうだ。このなりだと娘は近寄ってこないからな」
あれ、ただの冗談だったのに、マジっぽい表情だな?
黄の民の眼帯男に比べれば、同じ大男でもバルバロスさんは随分と愛嬌があると思うけど。
「じゃあ、今から塔の村行く?」
「え?」
「皆あたしくらいの年齢だけど、プリンスの妹ともう一人の精霊使いとおっぱい大きめの火魔法使いがいるよ。全員に会えるかはわからんけど、バルバロスさんが行ったくらいで逃げやしない子達だから。イシュトバーンさんもプリンスもいい?」
「構わねえぞ」「ああ」
うまいこと三人娘に会えれば、画集モデルを正式に頼めるな。
「いや、しかし……塔の村はデスさんのナワバリだぞ?」
逡巡するバルバロスさん。
つまらんことを気にするなあ。
バルバロスさんってパラキアスさんやオルムスさんには敵意剥き出しなのに、デス爺には弱いんかな?
力関係がわからん。
「じっちゃんにも、近隣の自由開拓民集落含めて輸出できそうなもの探しといてって頼んであるんだよ。意見すり合わせといてくれないかな?」
「わ、わかった」
西域の名産品特産品はバルバロスさんの方がよく知ってるだろうけど、交易品に適してるかはデス爺の方がわかるだろ。
二人で協力してください。
「ヴィル、塔の村に行って、じっちゃんにあたし達四人が行くって伝えといて。リリーとエルとレイカがダンジョン行きそうだったら引き止めておいてね」
「はいだぬ!」
「よーし、行こうかー」
転移の玉を起動し、バルバロスさん、イシュトバーンさん、プリンスの三人を連れて帰宅する。
◇
「ほう、ここが精霊使いユーラシアの家か」
辺りを見回すバルバロスさん。
「立派だな」
「村から独立する時に建ててもらったの」
「こいつ、凄草を栽培してるんだぜ?」
「凄草の栽培が可能なのか……」
「もーいいから行くよ」
留守番のクララに塔の村へ行ってくることを伝えておく。
アトムとダンテはどこかへ出かけているようだ。
「こっちだよ」
転送魔法陣の並ぶ東区画へ案内する。
「これが全部違う行き先なのか? 『アトラスの冒険者』とは便利なものだな」
「でしょ? でもせっかくアトラスの冒険者になれたのに、辞めちゃう子多いんだよ」
「何故だ?」
「入りたての子がさ。クエストをこなせないと嫌になっちゃうみたい」
「贅沢な。苦労すればよいのだ」
やっぱバルバロスさんもそう思うよなあ。
でも入りたての頃って、メリットデメリットすらまともに説明されなかった気がする。
新人が続くか続かないかでチュートリアルルーム係員の給料が上下するシステムって、ある意味正しいな。
「最近、先輩冒険者が後輩の面倒をみる制度が始まったから、今後は脱落者少なくなると思う。バルバロスさんも悩んでる新人にもし会ったら、アドバイスしてやってよ」
「うむ」
プリンスが何事か考えている。
「『アトラスの冒険者』か。聞いたことはあるが、帝国本土ではついぞ見ないな」
「昔は帝国にもいたが、随分前からドーラだけになったぜ」
「どうしてでしょうか?」
「一般市民の武器所持が禁止されたんじゃ、冒険者は育たねえからじゃねえかな」
イシュトバーンさんの言う通りだ。
だから今の『アトラスの冒険者』はドーラだけなのか。
説得力のある理由だなあ。
「いいかな? 塔の村行くよー」




