第689話:強くあらねばならぬ
「で、パラキアスさんとバルバロスさんは二人で何やってたの? にらめっこ?」
パラキアスさんは面白そうだけど、バルバロスさんは苦々しげですね?
ドーラ新政府の方針に納得いってないバルバロスさんは、パラキアスさんに会うのが嫌だったんだろうな。
ザバンで鉢合わせたのは偶然なんだろうけど。
「私は特に含みはないんだが」
「パラキアスはオルムスの仲間だ。中央集権思想を西域に持ち込むな!」
ははあ、なるほど?
これがバルバロスさんの自主自立のスローガンからくる、西域では主流かもしれない考え方か。
中央集権国家である帝国からの大使プリンスルキウスにクリティカルヒットしてるじゃねーか。
「バルバロスさん話聞いてない? もう国民から広く税金取ってドーラ全体をしっかり治めるって考え方はやめて、レイノスをちっちゃくまとめることにしたよ。移民受け入れと貿易頑張ろーって」
「しかしオルムスみたいな頭でっかちの青びょうたんは好かん!」
「オルムスさんは勇者だよ」
「どこがだ!」
「バルバロスさんがオルムスさんの立場だったとするじゃん? おっかないクマみたいな大男に掴みかかっていける?」
十人会議でバルバロスさんとオルムスさんは掴み合いになったという。
当時の様相を思い出したのだろう。
呆気に取られたような顔をするバルバロスさん。
ハッハッハッ、意表を突いたったぞ。
パラキアスさんとイシュトバーンさんが笑ってるがな。
「……なるほど、オルムスは勇者か」
「バルバロスさんは西域をどうしたいの?」
敢えて『ドーラを』じゃなくて『西域を』にして聞いてみた。
パラキアスさんとイシュトバーンさんは誘導に気付いたらしく、ニヤニヤしている。
「自主自立だ。各自由開拓民集落は強くあらねばならぬ」
「方法論は違っても、オルムスさんの考えと根っこは一緒だぞ?」
「何だと!」
「オルムスさんはねえ、ドーラを自立させたいの。ドーラが強くなきゃいかんと思ってるんだよ」
話盛ったけど構わんだろ。
険しい顔のまま考え込むバルバロスさん。
女の子ウケが悪いから、もちょっとリラックスした顔の方がいいと思うよ。
「ま、いーや。パラキアスさんと何か話したかな?」
「あ? ああ、お茶がどうのと聞いたが?」
「あたし達もお茶の件でザバンに来たんだよ。現実問題として、おゼゼ持ってる方が自立しやすいでしょ?」
「無論だな」
「ザバンのお茶をおゼゼにできないかってことでさ」
皆でぞろぞろテオさんの茶農場へゴー。
置いてけぼりだったプリンスにも話を振る。
「この前の超すごいお茶は特級品で淹れ方も難しいけど、普通のお茶葉もあるんだよ。リリーが帝国本土のものと遜色ないって言ってたから、プリンスの口にも合うと思う」
「そうか。では予も購入していこう」
「だったらドーラのお茶を飲んだ感想を新聞に寄稿して欲しいな。プリンスの推薦ならレイノス中町の人達もドーラのお茶買うかもしれない」
「ハハッ、お安い御用だ」
帝国の皇子がドーラ産のお茶をおいしくいただいていることを知ったら、ドーラ人もザバンのお茶を見直すだろ。
バルバロスさんが不機嫌そうに言う。
「正直己は茶の生産は好かん。同じ労力をかけるなら、食えるものを作れと言いたい。食こそが自立の基本だ」
「わかる。あたしも自分じゃお茶なんか作る気になれない」
「精霊使いよ、そうだろう?」
バルバロスさんが同意を求めてくる。
「うん。でもお金にもなんないのに作り続けて到達した世界一のお茶だよ」
「世界一?」
バルバロスさん以外は大きく頷く。
超すごいお茶を飲んだことあるからな。
「あたしはそーゆー愚直さが嫌いじゃないんだ。頑張ってる人は認められて欲しいの」
「ふむ?」
「さて、着いたぞ。こんにちはー。テオさん、いるー?」
「はい、お待ちを……っ?」
大勢で来たことに驚いたらしい。
急にごめんね。
「あたしだけがここのお茶評価してると思われるのも嫌だから、大物連れてきたよ。バルバロスさんは知ってるよね? 他はこっちから『黒き先導者』パラキアスさん、引退商人『タイガーバイヤー』イシュトバーンさん、新大使として赴任したカル帝国第四皇子ルキウス殿下ね。バルバロスさん以外はあのお茶を飲んだことある面々」
「あっ、ちょうどザバンの水で一二時間水出ししたものがあります。お飲みになりますか?」
「もらおう」
バルバロスさんが言う。
ハハッ、世界一のお茶には興味があるらしい。
テオさんがコップと茶入りの大瓶を持ってきてくれた。
あたしもザバンの水だとどれくらいの味になるか興味あるな。
ごくごく、ふーん。
「まあまあじゃない?」
テオさんが首を振る。
「やはり魔法の水で淹れたものには及ばない」
「美味い! こ、これで不満なのか?」
「このお茶、雑味が入っちゃうとダメなんだよねえ。ザバンの水だと比較的マシなんだけど、不満はあるよ。水魔法で淹れたものはもっとずっとおいしいの」
「そ、そうなのか」
バルバロスさんが衝撃受けてるけど。
「このお茶、帝国に輸出したいんだ。テオさんはそれでいいかな?」
「うん。お任せする」
「輸出に回せる量、どれくらいになる?」
「摘む時期がバラつくが、一年合計でこの前君に売った量の、ちょうど四倍程度なら」
「二〇万ゴールドでどーだろ?」
「十分過ぎるよ」
「パラキアスさん、政府が二〇万ゴールドで買い上げることはできる?」
「君はそれで儲けになると見てるんだな?」
「パラキアスさんだってあのお茶飲んでるでしょ? プリンスがしっかり宣伝してくれれば、少なくとも倍以上で売れると思う。もし売れ残ったらあたしが買い取るよ」
「よし、行政府が責任を持って買おう」
パラキアスさんが請け負う。
口約束だが、今はこれでいい。
「ごめんね、テオさん。もう少し高く買ってあげられるといいんだけど、初年度は販売ルート作んなきゃなんないから」
「いやいや、ありがたい。夢のようだよ」
「怪しげな商人が中抜きしようとするかもしれないけど、耳貸さないでね。パラキアスさんがいずれ政府の買いつけ契約書持ってくるよ」
「わかった」
「よーし、今日のお仕事は終わった! お腹減った!」
「己が持ってきた肉を分けた。茶屋で肉饅頭を食えるはずだ」
「あたしもお肉持ってきたんだよな。食べていこー」




