第686話:魔法の葉青汁続報
「サイナスさん、こんばんはー」
夕食後に恒例のヴィル通信だ。
野菜炒めの味付けに魚醤はかなり美味いとわかった。
もちろん魚とは相性いいだろうし、割と魚醤の応用範囲は広いんじゃないかな?
ちなみに今日も新人さんはチュートリアルルームに来てなかった。
さすがに少し心配になってきたんだが。
『ああ、こんばんは』
「どうだった? 魔法の葉青汁は。味覚が破壊されるでしょ?」
『神経を殴られたような衝撃があった。眠くても一発で目が覚めるな』
感想がいかにもサイナスさんっぽい。
主観的でありながら、あんまり自分の感情が入んない感じ。
「ふーん。サイナスさんは変わってるなー。レイノスでは失神者がたくさん出たのに」
『たくさんってどういうことだ? 普通は失神者が出たら、残りの人は飲まないだろう?』
「その辺はどうにでも」
『ユーラシアは恐ろしいな』
遠回しに褒められたぞ?
とゆーか、褒められたと思っていよう。
『まだ口が不味いんだが』
「お肉を焼いて食べれば大丈夫。脂でリセットされる感じ」
『食欲も出ないんだが?』
「捻り出すといいよ」
『君、大体最後にはゴリ押しか力尽くかパワープレイだな?』
「十八番で得意技で常套手段なんだもん」
これ前にも言った気がするけど。
いや、勢いで解決できるなら、べつに構わないんじゃないの?
イッツ、自然。
「プリンスルキウスに飲ませたらすげえ咳込んじゃってさ、ボキャブラリーが貧弱になってひどいしか言わなくなっちゃった」
『皇子に飲ませたのか? あれを?』
「飲ませたとゆーか自分から飲んだんだよ。予がチャレンジしようではないかって。おかげで盛り上がった盛り上がった」
『どうしてあんなテンション下がるものを飲まされるイベントが盛り上がるんだ?』
「その辺はどうにでも」
『ユーラシアは本当に恐ろしいな』
ハハッ、あたしを尊敬するといいよ。
「飲まされるってのはちょっと違うな。イベントの前半では、犠牲者は皆自分から喜んで飲んだんだ」
『犠牲者』
「被験者は皆自分から喜んで飲んだんだ」
『言い方を変えればオーケーじゃないからな?』
サイナスさんは誤魔化されてくれないなあ。
魔法の葉青汁の苦みえぐみが精神にこびりついちゃったんじゃないの?
今になって恨みが出てきた感じ。
サイナスさんだって自分から飲んだんだからな?
「水路、立派なやつができたねえ」
『ああ、そうだな。随分露骨に話題を変えるもんだと感心してしまったが』
「あたしの大胆さに恐れおののくといいよ。可憐さを称えることも忘れないでね」
アハハと笑い合う。
「水路の延伸はどうするの? 貯水池からさらに西へ伸ばす感じ?」
『計画ではな。貯水池自体も何倍かに広げるんだ』
なるほど、貯水量が多い方が有利だもんな。
「だったら魚も飼いたいねえ。帝国からの移民なら、魚食に抵抗ない人多いだろうし」
『あえて飼わなくても、勝手にクー川から入ってくるだろうよ』
「あたし魚釣りやったことないんだよね。移民には魚釣りよく知ってる人もいるだろうから、教えてもらいたい」
ドーラでは魚食が一般的じゃないから、魚を捕える技術ももちろん発達してはいない。
あたしは魚釣りって概念を誰から教わったんだったか。
違うやり方を知ってる人達が来るってのは楽しいもんだ。
『とりあえず水路を一本確保しないと移民の受け入れが難しいから、かなりの人数をかけていっぺんに工事したということはある』
「わかるわかる。御苦労様でーす」
『今後は今までほど突貫工事はできないな。貯水池拡張と水路の西方伸張は同時進行なんだ。時間がかかる』
「貯水池拡張が完成するのはいつ頃になるかな?」
『一ヶ月後くらいだな』
「あ、それでも一ヶ月でできちゃうんだ?」
『農閑期の内に進めておかないとってことはあるから』
うん、よろしくお願いしまーす。
「またキリのいいとこまで終わりそうになったら教えてよ。クレソン持ってくから」
『わかった』
「他は何か変わったことあった?」
『特にないな。オイゲン族長とフェイ族長にはレベル上げの件、伝えておいたぞ』
「ありがとう。明後日でいいわけだね?」
『ああ、黄の民の新人は朝からスタンバイさせておくとのことだ』
「りょーかいでーす。じゃ、一緒に緑の民の村行こうかな」
黄の民の新人輸送隊員イーチィは好奇心旺盛な子だ。
連れていってやってくれっていう、フェイさんの意図が感じられる。
「昼は海の女王のところ行ってお肉食べてたんだよ」
『ははあ、だから君はダメージが小さいんだな?』
「あれ? 何であたしも青汁飲まされたってわかるの?」
結構ビックリだぞ?
『どうせレイノスではギャグイベント仕立てにして、ノリと勢いで何も知らない観客に飲ませまくったんだろう? じゃあ最後に精霊使いにも飲ませろ、となるに決まってる』
「サイナスさんすげえ!」
『君はお約束を外すような性格じゃないから、必ず飲む』
「サイナスさんすげえ!」
やるなあ、見直したよ。
サイナスさんの洞察力も大したもん。
「でさ、海の女王にもモデルのオーケーもらったんだ」
『例のイシュトバーン氏の画集だな?』
「うん。そろそろスタートしなきゃいけないんだけど、あたしも忙しいんだよなー」
『ハハハ、しかしウミウシの女王もモデルになってくれるとなると、バラエティに富んだ内容になるね。クララもモデルになるのかい?』
「いやー、クララやヴィルは可愛いけど、これ帝国にも輸出するつもりだからさ。さすがにバレちゃうと思うんだよね」
幼女ヒーラーや幼女悪魔は目立つからな。
テンケン山岳地帯の集落で見た兵士や魔道士の中には、山の騒動とドーラを関連付けて考える者もいるかもしれない。
帝国とドーラの友好に水を差すような要素は除外なのだ。
『考えてるね』
「当たり前じゃん。ドーラの大事な戦略商品だからね」
『ユーラシアもモデルの一人なんだろう?』
「言われてはいないけど、当然なると思う」
『君、氏のお気に入りだろう? 相当セクシーに描いてもらえるんじゃないか?』
うっふーん。
楽しみだなあ。
「じゃ、サイナスさんおやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
明日はザバンへ茶作りを督励しに行く予定だ。
レイノスへプリンスを迎えに行かないとな。




