第682話:ここから第二幕
結構な熱気の中、犠牲者を笑いながらイベントは進む。
季節が季節なのに、さほど寒さを感じさせなくて大変結構です。
しかし観客も失神者が量産されてゆく有様におかしいと感じ始めたらしい。
ようやくか、と思わないでもないニヤニヤ。
「おい、やつらが起きてこねえのは変だな?」
「ええ。でもお笑いイベントでしょ?」
「だからすげえ不味いんだって! 飲んだオレが言ってるだろうが!」
お笑いイベントなのは間違いないですよ。
そして魔法の葉青汁を飲んでくれた方、協力ありがとう。
人々がざわつき、雰囲気が変わってきたようだ。
ターニングポイントだな。
「ここで犠牲者諸兄の意見を聞こうか。どういう不味さだった?」
口々に言い立てる被害者? 処刑者? 達。
「究極の不味さ」
「魂が刈り取られる不味さ」
「舌がとろける(物理)不味さ」
「『ユーラシアペナルティ』の名の重さを実感する不味さ」
誰だ最後の。
せっかくだから心の奥底にまで刻み込め。
「ひっどい不味さだってことは伝わったかな? じゃあ魔法の葉青汁が刑罰として成立すると思う人っ!」
全員の手が挙がる。
実際に青汁を試飲して手を挙げている人達と、倒れ伏す失神者達を交互に見回すオーディエンス。
ヤバい刑罰なんじゃないかという空気に段々染まってきました。
啓蒙活動としてはまずまずの成功と言っていいんじゃないかな?
ドーラの犯罪者が少しでも減少することを願い、かつあたしのお笑い精神を満足させてくれたイベントに感謝だ。
「実際にはこの一〇倍以上の量だからね。恐ろしさを多くの人に教えてあげてください。それが本日の啓発イベントの趣旨になりまーす」
頷く面々。
これで終わりじゃないんだぞ?
何故ならあたしはもうちょっと楽しみたいし、新聞記者ズへの制裁もまだだから。
「ここから第二幕だよ! 悪い子はいねがー!」
一部で怖いと評判のキメ顔を見せる。
静まる群衆。
いや、まだまだお笑いイベントが続くだけだからね?
「プチ悪党を吊るし上げるぞ! 浮気男はいねがー!」
「うちの宿六だよ!」
優男が引き出される。
「ぼったくり商人はいねがー!」
「いるぜ!」
頭のてっぺんが薄くなったヒゲ男が捕まる。
「処刑だ! 青汁を飲ませろ!」
「「うげげげげげげげげげげ!」」
口から青汁を流し込まれ痙攣する二人。
高まるいい気味だのムード。
イベント第二幕の趣旨は皆さんに理解してもらえたようだ。
要するに皆大好きざまぁを強制的に食らわす試みだよ。
「自己批判せよ! 嘘つき女はいねがー! クズニートはいねがー!」
「いるいる! 捕まえたっ!」
捕えられて引き出される者達に青汁攻撃!
「「「「うげげげげげげげげげげ!」」」」
ソバカス男アドルフがビクビクしてるけど、もうあんたはニートじゃないから免除するよ。
プリンスの従者を立派に務めているからね。
「セクハラ老人はいねがー! オチ担当で満足してる男はいねがー!」
「おい、ピンポイントで振るんじゃねえよ!」
「オチ担当で満足してるわけじゃねえ!」
まあイシュトバーンさんやダンは温まった空気を冷やすような無粋なキャラじゃないから、文句言いつつ素直に飲むわけだが。
「「うげげげげげげげげげげ!」」
「あたしに迷惑をかけながらのうのうと笑ってる新聞記者はいねがー!」
「「勘弁してください!」」
勘弁しない。
青汁の刑。
「「うげげげげげげげげげげ!」」
ハッハッハッ、実に面白いなあ。
ウケもいい。
「最後に阿鼻叫喚を演出した精霊使いにも、ペナルティを食らわせろ!」
「そうだそうだ!」
あっ、誰だ?
モブのくせにお約束を理解してるやつは?
しょうがないなー。
青汁を一遍に口の中に流し込む。
緑の液体は魔法の葉を食べた時よりダイレクトに舌に絡みつき……。
「ぎゃーまずーい!」
笑いの中お開きとなった。
◇
「ひどい目に遭ったなー」
「ひどい目に遭ったぜ」
「ひどい目に遭った……」
「……」
あたしとイシュトバーンさんとプリンスが口々に感想を述べる中、経験していないソバカス男は無言だ。
ダンは早々に退散した。
多分あたしが残りの青汁を少しもらってきてるからだけど、これはサイナスさんへのお土産だ。
ダンをどうこうしようというつもりはなかった。
「せっかくだからアドルフもひどい目に遭っとく?」
ブンブンと首を振る。
途中まで大笑いしてたクセに。
「今日も面白かったぜ。だが死屍累々になるまでヤバさに気付かせないのが、精霊使いの危険なところだな」
「まさしく!」
「だって最初っから警戒されて飲む人いなかったらつまんないじゃん」
「あっ、やっぱりエンターテインメントが先に来るんだな? イベントの趣旨よりも?」
「エンタメは最重要だね」
アハハと笑い合う。
「ところで残った青汁なんかどうするんだ?」
「灰の民の族長が、魔法の葉の不味さを体験したことないらしくてさ。ちょっと飲んでみたいって言ってたから、持っていくの」
「ほお、奇特な御仁だな」
まったくだ。
研究者肌の人は変な人が多い。
「ところでプリンスは明日暇?」
「特別しなきゃならないことはないが」
「明日、お茶の産地に行くんだ。一緒に行かない?」
「ああ、あの素晴らしく美味いお茶の産地か。良いのか?」
「もちろん。アドルフごめんね。明日の午前中、プリンス借りる」
「ロドルフだ!」
イシュトバーンさんがあのえっちな目を向けてくる。
「何か理由があるんだな?」
「超すごいお茶の産地に気合い入れたいんだけどさ。あたしだけが騒ぐより、政府の有力者やプリンスに来てもらった方が説得力があるじゃん? 皆が期待してるんだぞーっていう姿勢を生産者にも見せたいの」
「なるほど、じゃあパラキアスも行くんだな?」
「うん。ザバンっていう自由開拓民集落だよ。現地で待ち合わせ」
「やはりザバンか」
あ、イシュトバーンさんは見当ついてたみたいだな。
ザバンではイシュトバーンさんの現役時代からお茶を作ってたんだろうか?
「明日の朝、迎えに行くね。あたしザバンまでの転送魔法陣持ってないから、比較的近くの村から飛んでいくことになるけど」
「わかった。楽しみにしているよ」
よーし、これでいいな。
明日も楽しいことが待ち受けている。
「あたし帰る。じゃねー」
「またな」
「では明日」
「ロドルフだ! 覚えておけ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




